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包囲・1

――――――――――――



きみの恋愛感情は


一体どこにあるんだろう


ていうか――


そもそも 持ってますか?



――――――――――――第六章 包囲








「いやー、やっと終わったよー」


あと一ヶ月で卒業式を迎えようという、二月の初め。

私大受験組だった慶太の合格が決まった。

それまで週一登校だったけれど、合格発表の翌週から俺たちと一緒で週三登校に変わった。


「お疲れー、慶太」


俺の席の横にしゃがみこんでいた修平が、そのままの体勢で顔だけ慶太に向ける。

「おー、やっと楽できるなー」

机に頬杖をついたままにやりと笑うと、慶太は机の横に鞄をかけて学ランを脱いだ。

「まぁね」


椅子に腰掛けた慶太は、持ってきたカフェオレのペットボトルを開けて口をつける。

そのまま一口飲み込むと、長い溜息を吐き出す。


「まだ一つ、難関が残ってるんだけどね」

苦笑するように呟いたその言葉に、修平と顔を見合わせて首を傾げる。


「あれ? 受験、まだ残ってんのか?」

確か先週受かった私大が、第一希望だって聞いてたはず。

慶太はペットボトルのキャップを閉めて、それを机の上に置く。

「受験じゃなくてね。まぁ、俺の話はいいとして。お二人さん、その後どうなの?」

慶太のその言葉に、思わず修平と目を合わせる。

そのまま思い思いに、溜息をついた。


「ダメだな、ありゃすげぇ難関中の難関」

「うん、どうすればいいんだろうねぇ」


俺たち各々の言葉を聞いて、慶太は面白そうに目を細める。

「そんなことだろうと思った。ま。俺は静観させてもらうよ? 二人の泥仕合」

「泥仕合とは失礼な」

肩を竦めて、椅子の背もたれに体重をかけた。

「デート誘ってみても、告白してみても、まったく恋愛対象として見てくれない」

「俺も、まったくだよ。バスケを一緒にやるくらい」

「あれ? 抜け駆けおっけーなの?」

物珍しそうなものを見る、慶太の言葉に頷く。


「抜け駆けだろうがなんだろうが、関係ないね。女じゃあるまいし、気にするとこじゃねぇだろ」

「だね」

「なんだか、仲のよろしい事で」

慶太がそう言ったところで、担任が教室に入ってきた。

各々が自分の席に戻っていく中、慶太が顔だけこっちに向けた。


「放課後、久しぶりに莉子さんに会いに行こうかな」

「ん? なんで」

思わず聞き返す。



――だって


「会いたいからだよ」



そう笑う慶太の顔が、くろーい雰囲気満載だったから。









「わぁ、久しぶりだね」


放課後、俺達となぜか慶太が連れてきた敷島の四人で、いつもの場所に座る莉子の前に立った。

相変わらず制服を着ているとすぐに俺たちに気付く莉子は、最近会っていなかった慶太と敷島に興味を惹かれたらしい。

さっと立ち上がると、俺達そっちのけでその二人の前に立つ。


「お久しぶりです、莉子さん」

にっこりと外向けの顔で笑う慶太と、隣に立つ敷島。

「慶太くんと……えと」

莉子が敷島を見て、困ったような表情を浮かべる。

「敷島 美優です、莉子さん。そういえば、名前言ってなかったですよね」

敷島は笑顔を浮かべながら、小さく頭を下げた。


あの後、敷島とは友達として普通に付き合っているけれど、意外と礼儀正しい事に気づいた。

俺に付きまとっていた頃が、嘘のようだ。

そうさせてしまうほど、俺の態度が悪かったと。はい、そーいうことですね。



そっぽ向きながら昔の自分の態度を反芻しつつ、若干反省しつつ?

「涼介」

その声に顔を向けると、莉子の隣に立っつている慶太が手で俺を呼んでいる。

いつの間にか修平と敷島は少し離れた場所にある自販機の前にいた。

「何」

隣に立つと、慶太は莉子に向き直る。

「莉子さん、ちょっとお願いがあるんですけど」

「何? 慶太くん」

突然の言葉に、莉子は首をかしげて慶太を見上げる。

その仕草に見慣れてきたとはいえ、頭を思いっきり撫でたくなる俺は、末期症状なのでしょうか。



「俺の恋愛相談、乗ってもらえます?」

「え?」

反応したのは、俺だった。

信じられないようなものを見るような視線を、慶太に向ける。

「お前、好きな奴、いたの?」

思わず小声になってしまう俺に、慶太は苦笑する。

「人をなんだと思ってるの」


「冷酷人形」


――



「……ふぅん」

一瞬の間の後に訪れた慶太の微笑みは、背筋が凍るほど怖かったです(被害者談)

言葉をなくした俺に、莉子は眉を顰めて非難の声を上げる。

「失礼だよ、涼介くん。で、何?」

途中から慶太に向かった言葉に、当事者が答えた。


「美優って俺の幼馴染なんだけど、なかなか恋愛対象に見てもらえないんですよ。どうしたらいいと思います?」


――


「えっ!?」


今度ばかりは、声を抑えられなかった。

出てしまった叫び声に自分で驚いて、両手で口を押さえる。

すぐに当たりに走らせた視線の先で、自販機からペットボトルを取り上げる敷島の姿が映った。

さすがにそこまでは、俺の声は届かなかったらしい。

内心、胸をなでおろして、慶太を凝視した。


慶太は少し俺の方に視線を向けたけれど、すぐに莉子に戻す。

「恋愛対象に見てもらえるには、どうすればいいんですかね」


俺は、その成り行きをじっと見つめる。

そんなことを莉子に頼んでも、無駄な気がしないでもないけどちょっと聞きたいような――



莉子は少し考えた後、にっこり笑って慶太を見上げた。


「任せなさいっ!」


「……」




それはもう、楽しい遊びでも思いついた子供のような笑顔でございました。


――合掌(笑


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