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……え?


「お、さ、な……なじみ?」

その顔は、笑みではなく、寂しそうな苦笑。

「幼馴染って、あの、彼女が?」

「……そう、名前さえも覚えられていない、涼介の元彼女。ちなみに、涼介と別れる時に言った言葉は、俺の入れ知恵」


別れる時に言った……? って――


「あの、不感症とか言う奴?」

「そ。短くて、男的一番ダメージの大きい言葉を教えてみました」

「なんだ、それ」

女に言わす言葉か、それ。


俺の言葉の意味に気付いたのか、肩を竦めてくすりと笑う。


「涼介を顔から好きになったから。あいつにも、お仕置き」

それって……

「涼介が、そういうの嫌がるの知ってたから。だからあいつにも言ったのに、告白するんだって息巻いて人の話も聞かなかった」


そのまま、視線を莉子に移す。

相変わらず、腕を組んだままじっと人ごみを見ている姿。


「おかしいと、思わなかった? 別れた翌日に俺が既にそのこと知ってたり、涼介が一人でいるときに限って、彼女が現れたり」

「見張られてるのかと、思ってた」

ストーカーちっくな感じで。

「あはは、そうだよね。普通そう思うよ、うん。俺も、泣きつかれた時、つっぱねたもん」

そう言って息を吐き出す慶太は、最近見る飄々とした雰囲気はなく、何か吹っ切れたようなそれでいて寂しそうな。複雑な表情を浮かべている。


「莉子さん見て、悔しくなったんだって。隣にいたはずの自分は見てくれなかったのに、涼介のことなんかまるで意識していない莉子さんを、無意識に追いかけているのがさ」

「そんな……こと」

「ないっていえる?」

俺の言葉を遮るように、慶太は続けた。

「彼女の望みは、一つだけなんだ。多分それで気持ちの整理がつくと思うから、叶えてやってくれないかな」


莉子から俺に視線を戻すと、肩を竦めた。

「分かる? どんな、望みか」

その言葉に、少し逡巡して頷く。

「多分、分かる」


彼女がこだわっていた事、それは、多分――


慶太は俺が答える前に、笑みを浮かべた。

「俺んち知ってるでしょ? その右隣が彼女の家」

それだけ言うと、花壇から立ち上がった。

「じゃ、ね」

「って、待てよ慶太」

今にも歩き出そうとした慶太を、慌てて引き止める。


「つーか、なんでそんなことばらすんだ? 言わなきゃ、分からないだろ?」


彼女の手助けをしたとか、そんなこと。

言われなきゃ、全然気付かなかった。


慶太は半身だけこっちに向けるように、振り返った。

「大体、ここに俺が来る事自体、出来すぎてると思わない?」

……そういえば。

頷きそうになって、苦笑する。

「いや、慶太ならこのタイミングでも現れかねない」

慶太は少し噴出すと、何それ、と笑う。

「涼介に八つ当たりしちゃったって、部屋に駆け込まれたんだよ。さっき」

俺の部屋は駆け込み寺じゃないんだけど。

「彼女から話を聞いて、涼介だったら、自分の気持ちを確かめにここに戻ってきそうだなって思ったから来てみたんだ。案の定だったね」


――単純という事ですか。でも、これは偶然というかなんというか。

家族に遊ばれなきゃ、来なかったかも……いや、そうじゃなくても来たかな。きっと


さっき、莉子に対して思っていたことを言われて、あはは……と乾いた笑いを零す。

「それに涼介も悩んでいるみたいだし、そろそろ止めたらって言ってみた。そしたら彼女、頷いたよ。もう、充分だって。もういいって言ってた」

だから、種明かし。と、呟く。


脳裏に浮かんだ一つの可能性に、口を開く。

「もしかして、慶太が俺に結構強く当たってたのって……」

彼女と別れた翌日から、元からだったけれどそれでも慶太の言葉がきつくなった事を思い出す。


莉子に声をかけたのだって、俺がらみで、別に慶太に何か利益があるわけでもなく。

俺をけしかけて、言い方悪いけど……もしかしてその彼女のやり返し、してた?



言外に含めた俺の視線に、ごめんね、と呟く。


「涼介が周りにとる態度、傍にいるから理解してる。伊達に三年間、友達やってないし」


そのまま、すっ……と右の人差し指で何かを指す。


「だから、涼介が鈍感なのも知ってるよ。俺はどっちも応援しないからね、中立って事で」

慶太の言葉を聞きながらその指先が指し示す方へ、視線を動かしていく。

「俺は自分の事で手一杯だから。彼女の出した問いかけの答えは、自分で見つけてね」

「……あ? あぁ」

それに答えながら、指先の示す先の光景に、思わず体が動いた。


「頑張ってねー」


慶太の声を背中で聞きながら、莉子の元へ走り出した。



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