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「あれ? 莉子?」


ひたすら走って、走って。

頭に血が上ってるときの行動って、まったく意味ねぇなと、やっと立ち止まった時に思った。

そして無意識に向かう場所なんて、まったくもってなれた場所で。


道の向こうに、莉子が見える。

さっきと同じ姿勢で、腕を組んでる。


学校への通学路、走ってきちまった。




――アホだ……




大きく息をついてファストフードの横、いつもの花壇に寄りかかる。

十二月だというのに上着も着ずにいる俺の姿を、目の前を歩く人がちらりと視線をよこすのを無視してもう一度息をついた。

額の汗を、シャツの袖で拭う。


なんでわざわざここに来るかな、俺。



そう思いながらも、視線は莉子を追う。




腕を組んだままじっと人ごみを見つめているその視線は、何かを見つけるとそれをじっと追い、

多分視界から消えるとまた違うものを探す。

それを繰り返していて。

その視線をなぞると、ほぼ制服を着た高校生に行き着くから、面白いというよりは脱力する。


凄ぇ、単純明快.



じっと莉子の様子を伺いながら、両腕を前で組む。






ずっと、考えないようにしてたけど。

ずっと、気付かない振りしてたけど。

ずっと、何か理由つけてたけど。




俺、やっぱり莉子の事、好きなのかな。





俺の顔をまったく意識しなかった、初めての人。

俺よりも、制服を選ぶ人。

それだけに、まっすぐで。人との会話に、裏がない。

無邪気すぎるのも、ちょっとあれだと思うけど。





――その人の事ばかり考えるとか、もっと会いたいって思うとか、周りの男に嫉妬を抱くとか





ふと、母親の言った言葉が脳裏に浮かぶ。




ずっと、莉子のこと考えてる。

最初は、自分に惚れさせてさっさと捨ててやるつもりだった。

プライドを、守りたかった。

自分の顔に嫌気を感じながら、それをプライドにしていた。

だって、それしかないと思ってたし。

寄ってくる奴、皆、顔目当てだったし。



「ん?」



莉子がおもむろに立ち上がった。

帰るのかな? と見ていたら、しゃがんで何かを拾い上げる。

が、その途端横のバッグが倒れて、本とデジカメが飛び出して地面に落ちた。

思わず腰を浮かせると、莉子の傍に小さな男の子が駆け寄ってきたのを見て再び花壇にもたれる。



莉子は男の子に何か手渡すと、反対に男の子は落ちた本とデジカメを拾う。



男の子の落とした物を拾おうとして、自分の荷物を落としたって所か。

見てて飽きないな、ホント。

さっきまで例の彼女の事とか、莉子の事とか悩んでくさくさしてたのに。

莉子を見てたら、そんなこと思い出しもしない。



男の子は珍しそうにデジカメをずっと見ていて、それに気づいた莉子がカメラを構えて何か合図をする。

男の子は嬉しそうに、ピースを両手でしながら写真におさまった。

後ろからお母さんらしき人がやってきて頭を下げて男の子を連れて行く。

その手には、莉子が差し出したメモ紙をらしき紙切れを握り締めて。



莉子は小さく手を振り終えると、再びベンチに座ってさっきと同じ体勢に戻った。



なんていうか、莉子らしい。

莉子の事ちっとも知らないけど、それでも彼女らしく思える。

個性というか、それが彼女なんだろう。






「幸せそうだね」



――っ



いきなり話しかけられて、体がびくついた。

音がしそうなほどぎこちない動きで首を横に向けると、にやりと笑った慶太の姿。

「……なんで、ここに……」


一瞬、息、止まった。


どんだけびびってるのかと情けなくなりながら、それでも何とか口を開く。


「ね、幸せそうだよ。涼介」

俺の問いに答える前に、慶太は花壇に腰を下ろしてもう一度同じ事を言った。

その視線が莉子に向けられているのに気付いて、小さく息を吐く。

「そうだな。莉子、楽しそう」

なんでもないようなそんな声音で返事をすると、慶太はくすりと笑っていきなり俺の顔の前に携帯を突き出した。

カシャ、という音と小さく光るフラッシュ。

「え?」

びっくりして慶太を見ると、慶太は携帯の画面を目の前に突き出した。



「幸せそうでしょ」


「……」



画面には幸せそう……というか、よく言えば微笑んだ、悪く言えばにやけた男の顔。

つーか、俺の顔……?!

「何、この顔」

思わず、突っ込んだ。

自分のだって理解してるけど、なんか、納得がいかない。

こんな顔……

「幸せそうでしょ、涼介の顔」

「嘘だ、こんな顔、してねぇ……」

自分でも見た事のない表情に、画面を凝視する。



「してるじゃない。気付いてないの? 莉子さんを見てるときの、顔」


――涼介、莉子さん見た途端、どんな顔したか自分で分かってる?


あの、彼女の言葉が浮かぶ。


……こんな顔、してたのか。


手のひらで、口元を覆う。

こんな顔で、莉子を見てたのか。



それを、……あの彼女に見せてたのか。


「ね。最低な涼介くん」


笑いながら携帯をしまう慶太の言葉に、顔を上げる。


「……、お前」

「なに? なんか、文句ある?」



いつもの笑顔のはずなのに、何か冷たい空気を感じる

「お前、何か知ってるのか?」



だって、おかしい。

こんなにタイミングよく、彼女に言われた事を思い知らせるような、俺に気づかせるような行動。



慶太は浮かべていた笑顔を消して、目を瞑る。

「あのさ……」


そしてすぐに目を開けて、口角を上げた。




「俺の幼馴染、あんま苛めないでやって」

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