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――は?
「せ……いふく?」
怪訝そうな表情はいつの間にか少し笑みを湛えたものに変わっていて、楽しそうに話し出す。
「学ランっていいよね、カッコイイよね。やっぱり制服はこれだよね」
まくし立てるようにしゃべるその女に、修平が不満声を漏らした。
「学ランなんて、嫌だよ。せめてブレザーとかさー」
その言葉に、女は右の人差し指を振って否定する。
って、何ナチュラルに会話してやがる!
「何言ってるの。ブレザーなんてスーツの同類じゃない。大人になれば、いくらでも着れるわよ。でも、学ランっていうか詰襟はそうはいかない。これは、そう。男子学生にだけ許された、スバラシイ特権だわ。それ着てるだけで、通常より三割り増し」
「何がです?」
笑いを抑えるような、慶太の声。
女は当然という顔で、ピッと指を立てる。
「カッコよさ! ちなみにスーツは二割り増し、各々眼鏡があったら+αがつくわね」
イタイ……イタイ女だったか――
「じゃあ、涼介を見てたわけじゃなかったんだねー」
修平が、空気も読まずさらっと俺を傷つける言葉を吐きやがった。
隣で慶太が、耐えられないように俯いて腹を抑えてくすくす笑ってる。
「元はといえば、お前が――」
「リョウスケ?」
慶太に文句を言おうとした俺の言葉を、女が遮る。
じっと顔を見つめられて、柄にもなく動揺して目を反らしてしまう自分が嫌だ。
それでもじっと顔を見ていた女は、しばらくしてぽつりと申し訳なさそうに呟いた。
「――ごめん。顔、見てなかった」
――沈黙
「ぶははははーっっ!」
「おねーさん、さいこーっ!!」
――の後の、嵐
「うるせぇっ! 笑うな!!」
腹を抱えて笑い転げる二人を足蹴にしながら怒鳴り散らす俺を、周りにいた数人の通行人も笑ってみてて。
勘違いした俺も俺だけど!!
逆上して女を指差す。
「興味ないなら、じっと見んなよ!」
「興味はあるよ、制服に。それにきみ、眼鏡もしてるから、+α」
にっこりと笑うその女に、殺意を抱くのは俺だけか!!?
「せっせいふ……くーっ、眼鏡ーっっ」
慶太の、途切れ途切れの声に顔が真っ赤になっていく。