表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

俺の視線の先には、ベンチに座る莉子の姿。

見た途端、心臓が、音をたてた。


莉子の目が、嬉しそうに俺を見ている。

たったそれだけの事で。


一ヶ月前、真横に立っても俺を映さなかったその目が、確実に俺を捉えていた。




莉子は駆けてくる彼女と、その後ろに立つ俺に嬉しそうに手を振る。

「凄く素敵な制服カップルだと思ったら、涼介くんと同級生の方だったんだね!」


制服カップル……

つーかさ。制服は、要らないんじゃねぇの?


てか、なんでここに莉子が……


疑問に思いつつ辺りを見ると、道路の向こう側にいつも帰りによるファストフードの店があった。

そこを見て、莉子のいるベンチを見る。


あぁ、なるほど。


内心納得して、莉子達の方に歩き出す。


初めて会った時と同じ態度……だけじゃなくて、場所も一緒だったか。


鼓動を早める心臓を意識して正常に戻そうと努力しつつ、ゆっくりと足を動かした。

彼女と莉子は楽しそうに会話を交わしていて、とりあえずその横に立つ。


「あぁ、やっぱり学ランにはセーラー服よね! しかも今時逆行昔ながらのセーラー服!! 素敵!」


やっぱり、制服の話かよ。



「えー、でもダサいですよこれ。いつの時代って言いたくなるくらい」

袖の部分を軽く引っ張りながら、彼女は眉を顰める。

莉子はそんな彼女を見上げると、甘いわ、と人差し指を立てて横に数回振った。

「紺と白のセーラー服。それに、カーディガン。このスタンダードな組み合わせを素敵に着こなすのがいいんじゃない!」


スタンダードな組み合わせって、誰にでも似合うのが前提なんじゃね……?


多分同じ事を思っているのだろう苦笑気味の彼女を、莉子はキラキラした目で見上げていて。

指がうずうずとしているのが、目の端に映った。

うわ、こいつ絶対写真撮りたくてうずうずしてやがるっ。


「あぁ、でも本当に涼介くんは制服似合うわねぇ」

それでもやっぱり言い出せないのか、視線を俺に移してにこにこと笑みを零す。

「あれから結構制服男子を見たけれど、まだ涼介くんの上を行く子には会えないわ」

あー、なんかもう、発言が変態くさい。


――なのに


「あっそ。それはどーも」


あえてそっけなく、なんでもなく返す言葉。


俺、阿呆だ……

意識、凄ぇしてるのもろわかり……


「やだなー、ご謙遜~」

じゃないか、莉子、相手じゃ。


「で? お二人は恋人さん?」

「なんで、さんづけ」

思っても無いところを突っ込まれたのか、莉子は一瞬きょとんとしてから笑い声を上げた。

可愛い、高い声。

「気にしないで、私、なんでもさん付けする癖があるの。警察屋さんとか」

いや、さんだけじゃなくて、屋って……。警察はなんかの店か。

手錠でも売るのか、違反切符買取かっ


突っ込もうとしたけれど、脱力した俺に突っ込む気力がなく。


「ねーねー、恋人さんなら写真、……嫌じゃないよね……?」


そっと両手で出してきた、必殺莉子のデジカメ。


「すんごく素敵なカップルなんだもん! 撮らせてっ、お願い!!」


その言葉で、まったく自分が莉子の恋愛感情に影響を与える男じゃない事が丸分かりで。

しかも何がむかつくって……


視線を下に向けて、学ランを見る。


マジでこいつ、制服着てねぇと俺ってわかんねぇんだな。

現に、制服着てれば一発で気付くくせによ。

おまけかよ、制服についてる食玩的なあれか?


つーか、もうデジカメまで出してる莉子に、拒否はきかねぇんだろうな。

溜息をつきつつ、諦めて頷こうとした時、

「莉子さん、写真はダメですよ~」

隣に立つ彼女から、やんわりとした返事が返された。


……ノリ的にOKするかと思ったら。


思わず彼女を見下ろす。

反対に莉子はデジカメを両手で持ったまま、縋りつくような視線を彼女に向けていて。

「ダメ? 凄く素敵なのにーっ、大人だけどここで駄々捏ねてもダメ?」

どんな脅しだよ。

「ダメですよ。私写真嫌いなんです」

「えー、そんなー」

それでもなお言い募ろうとした莉子に、彼女は満面の笑みを零した。


「もし隠し撮りとかしたら、子々孫々呪いますから」


表情と言葉がちぐはぐの彼女を、莉子は瞬間冷凍でもされたかのように見上げたまま固まった。


しばらくして彼女が口を開いた。

「じゃ、私たち帰りますね?」

瞬間冷凍から溶けつつある莉子はぎこちなく口端をあげながら、デジカメを鞄にしまいこむ。

「うん、気をつけてね」

音がしそうなほど緩慢な動作で片手を挙げる莉子を残して、俺達はその場から歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ