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正門を抜けてしばらく歩いた路地に、地元の小さな公園がある。

そこで、待ち合わせて駅へと歩いていく。

強制登校ではあっても、下の学年よりは早く帰るからほとんど周りに学生はいない。

だから教室に帰り迎えにいくといったけれど、彼女は頑なにそれを拒んだ。

「また付き合い始めたとか言われたら、面倒だからね」と、笑いながら。



肩を並べて歩くのは付き合っている間にもあっただろうけれど、どーでもよく相手をしていた俺は“一緒に帰宅”なんてことはしたことがなかった。



「そーいえばさ、涼介」

「ん?」

別に甘さも無くかといって嫌な雰囲気もなく、友達と話すような会話を続けていた時、思いついたように彼女は立ち止まった。

つられるように足を止めながら、少し後ろにいる彼女を振り返る。


「実は私の名前、覚えてないでしょ」


思わず、体の動きが止まる。

なぜなら、それは図星だから。


俺のその反応に楽しそうに笑いながら、再び歩き出す。


「絶対頭ん中じゃ、あいつとかあれとか、そんな呼び方してたでしょ」


同じ様に歩きながら、疑問ではなく断定するように話すそいつにどう返答しようかぐるぐると考える。

さすがに俺でも、「まったく記憶にない」とか言える心臓は持ち合わせちゃいない。

視線を廻らせながら考えていたら、前を歩く彼女がくすくすと笑う。

「ほら、困りなさい~? あー、いい気味」

言葉は嫌味のようだけれど、口調も表情もそんな雰囲気を楽しんでいて。


この状況を、少し楽しんでいる自分に気付いた。



向けられる好意を、全て同じものだと思って切り捨てていた。

顔だけに引き寄せられて、顔だけを目当てに彼女になりたがる女。

よく話せば、普通の……友達として、話せるのに。

馬鹿みたいに思い込んで、見ないようにしていた。

だから、相手からも顔への好意以上のものを返してもらえなかったんだ。

当たり前だ。

こっちが、好意を持とうとしなかったんだから。


なのにずっと、顔だけ目当ての奴だから、すぐに別れを切り出されるんだと思ってた。



「涼介?」


黙ってしまった俺に、怪訝そうな声が掛かる。

俯けていた視線を上げれば、自分より頭一つ分下にある彼女の顔。

視線を合わせながら、口端をあげた。


「わり、ちっとも思い出せねぇや」


知ったかぶりをするんじゃなくて、格好をつけるんじゃなくて。

知ろうとするならば、正直に。


俺の言葉にきょとんとした顔を見せた彼女は、次の瞬間噴出して笑い声を立てた。

「ホント、涼介変わったわ!」

「そこまで笑うか?」

突っ込みながら、つられるように自分も笑う。



恋愛でも、そうじゃなくても。

相手を知ろうとする事、それが大切だと……気付かされた。



「お前、名前なんて言うの? 教えてくんね?」

一通り笑って落ち着いてきた声で、彼女を見下ろす。

まだおかしそうに腹をさすっていた彼女は、一度深呼吸をして俺を見上げた。


「あのね、私の名前は――」


そこまで言った時、彼女の視線が不自然に揺れた。

何か複雑な色を浮かべて、俺から視線を逸す。


「どうした?」


満面の笑みだったその表情が、なぜ一瞬にして翳ったのか少しも分からなかった。

ただ彼女はもう一度視線を俺の後ろに移すと、口端をあげて笑みを作った。


「何してるんですか?」


俺の横をすり抜けて、後ろへと駆け出す彼女を視線で追う。

音符でもついているような、弾んだ声。

同じく弾むように駆けるその先には。





「莉子……」




ベンチに、莉子が座っていた。

初めて会ったときと同じように、腕を組んで背もたれに重心をかけながら。




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