表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/36

こういうこと、なのかもしれない。


――因果応報


俺が、莉子で。

しかも莉子のように天然じゃなく、自分の意思で。

付き合いたいって言ってきた奴らを、見ないようにしてた。

どうせ、顔だけなんだからって。


自分を見て笑ってくれたその姿に、自分が重なった。



制服じゃなくて。

眼鏡でもなくて。


顔だけじゃなくて――



“俺”、を見て欲しかったんだ……





奥歯をかみ締めると、反動をつけてフェンスから身体を離す。

そのまま屋上の入り口へと駆け出した。


「おい……っ」


屋上から校内に入るドアに手を伸ばそうとしていたそいつが、俺の声に振り返る。

すこし、驚いたような表情で。


「どうしたの?」


ノブにかけようとしていた手を下ろして、身体ごと俺のほうに向き直った。

その目の前で立ち止まり、少し息を整える。


「……悪かった」

追いついたけれど気のきいた言葉が出てこず、ストレートに呟いた。



知らない癖に、どうでもいいように告白を受けて悪かった。

付き合ったくせに、お前を見なくて悪かった。

きっと傷つけただろう、……悪かった――


俺が、莉子の言葉を……態度を気にしているように。



「えっ、え? 何、どーしたの?」

いきなり謝られた彼女は、驚いたように両手をぶんぶん振り上げる。

「なんでいきなり謝ってるの? うっわ、涼介じゃないみたい」

その言葉に、うっ……と言葉に詰まる。


いや……そう、そうなんだけど。


俯けていた顔を、横に背ける。


「いい……だろ。別に」

……いや、そーいう事言いたいんじゃなくて……。

内心頭を掻き毟りたい気持ちに襲われながら、それでもプライドが頭をもたげる。


彼女は驚いていた顔を笑みに変えて、思いっきり声を上げて笑いだした。


「それが涼介でしょ? いやだ、謝んないでよ。やー、鳥肌立っちゃった」


大げさに両腕を手のひらで擦りながら笑うから、つい釣られて顔が笑う。

「それを言うなら、私も謝るわ。顔だけ目当てでごめんねー」

「はっきり言うなぁ、お前」

あまりにもはっきり言われて、いっそ受け入れやすい。

そりゃあね、と彼女は肩を竦める。


「だって、性格悪いもんねー。自分で分かってんでしょ?」

「マジで、はっきり言うな」


呆れたような声で呟くと、涼介ほどじゃないと笑う。


「特別になりたかったのよ、例え見られてなくても。そうなるには、付き合うのが一番って思ったの。……でも」


少し口を噤んで、口元を綻ばす。


「付き合わなくても……こうやって話すの結構楽しいから、私の気持ちが落ち着くまで付きまとってやるわ~」

最後はいたずらっ子のような表情で言い切ると、小さく片手を挙げて身体をドアに向ける。

その腕を、とっさに掴んだ。


ぐっと力を込めると、軽い体は簡単にこっちに振り返る。

少し驚いたように瞬きをしている彼女に、口を開いた。


「何か、好きな事……言え」

「――は?」


意味分からない、と呟く彼女の言葉を遮る。


「だから、悪かったと思うから。何か――」


言う事聞いてやる……、と言外に含める。

彼女は本当に驚いたように声を上げて、俺の手から自分の腕をはずした。

「ホントに変わったね、涼介。これは、莉子さんに感謝だねー」

莉子の名前に思わず眉間にしわが寄る。

「うるせぇな、莉子は関係ねーだろ」

「素直になればいいのに。じゃぁね、今日の放課後一緒に帰ってくれる? それでおあいこって事でどう?」


私は顔で選んだ事、涼介は適当に返事をした事。

そう続けた彼女に、そんなんでいいのかと聞き返す。


なんか奢れとか、ないの?


「涼介と付き合いたいとかもう思わないし。でも、付き合ってる時に楽しい思い出なかったからさ。学生らしい望みって事で」



そうやって笑う彼女の頬は、少し赤く染まっていて。

本当は俺のことがまだ好きなんじゃないかと思う彼女の願いをきくのは、もしかしたら残酷なんじゃないかと自問自答しつつ。





俺は、頷いた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ