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「何よ、あんたもう帰ってきたの? 邪魔くさいんだから、外にいればいいのに」


玄関をあがった途端に廊下に顔を出した母親が、非難するような視線を向ける。

それを流すように、出る時に投げ渡された買い物リストを階段を上りながら母親に向かって投げつけた。


「買い物もしてこない! 何あんた、思春期? 反抗期? 青い春?」


青い春ってなんだよ、普通に青春って言えねぇのか……、いやそっちの方が恥ずかしいか。

ていうか、こんな状態でも突っ込みを入れる自分の性格が嫌過ぎる。


黙ったまま、階段を上りきって部屋に入る。

ドアの閉まる音と共に、ベッドに倒れこんだ。



脳裏に浮かぶ、修平と莉子の姿。

見送る自分が馬鹿らしく思えて、溜息をつく。

俺にはまったく気付かないくせに、修平にはちゃんと気付く。

本当に、俺って制服のおまけだってわけか。

私服だと、隣にいたって気付かれない。



落ちていく最悪な気分に、ガシガシと頭をかく。



つーかなんだって、こんなに莉子の事が気になるんだ?

もう、どうでもいいじゃないか。

最初は、俺を意識しない莉子に興味を持っただけ。

顔しかとりえが無いとか言われてむかついていた時に、その顔にさえ興味を持たなかった莉子に、プライドをぎたぎたにされただけ。

その、仕返しをしたかっただけ。


それだけだったはずなんだ。


途中まで、上手くいってた気がしたのに。

恋愛感情に持っていけなくても、それでも知り合いくらいにはなれた気がしてたのに。



――もう二度と会うことはないだろうから



そんな事、初めて言われた。

口に出さずに自分で思っていた事があっても、人に言われた事なんてなかった。


だから、気になるんだろうか。

悔しいから?

俺には会わなくて、修平とは会うから?


それって、ただの子供じゃんか……


「あー、くだらねぇ」



「なにがー?」



うつぶせの身体をくるりと仰向けにした時、部屋のドアが開いてひょっこりと顔が出てきた。

「お前、何腐ってんの?」

のほ~んとした顔になんとなく修平が被って、視線を天井に戻す。

「うるせーなー、入ってくんなよ」

「おやおや、本当に青い春?」

俺の言葉を無視して入ってきたのは、七歳上の兄貴、皓。

既に社会人の皓は、俺と違った女顔。


「青い春って一体なんだよ。かーさんも皓も、頭沸騰中?」

「まったく、かーさんに似て口悪いんだから」

「皓はとーさんに似て、女っぽいんだよ」


……一体、どんな会話だ。


うちの両親は、父親が女顔で母親が男顔。

昔からからかわれてきたらから、もう慣れっこだけど。



ベッドの脇に座り込んだ皓は、くすくすと笑いながら壁に背をつけた。

「で、一体何をそんなに落ち込んでるのさ。涼介がイライラしてると、かーさんも心配してイライラするんだよねー」

「心配してイライラって、おかしくねぇか?」

普通、心配してやきもきとか、心配して悲しむとか。

「そっくりじゃない、涼介と。そのとばっちりを食うのはいつも俺ととーさんなんだから。どうしたの、何があったの?」


小さく首を傾げる姿は、莉子に似てる。


俺より七つも上の癖に、いつも俺より年下に見られる皓兄貴。

身長も、皓の方が上なのに。

つーか、男の癖に女に見えて、しかもある程度綺麗に見えるのは、まずいんじゃねぇか。


「あー、マジなんでもねぇ。つーか、その女顔、目の前で晒さないで」

なんか、雰囲気が莉子を思い出させるから。

「んん? 涼介には珍しい、女の子がらみか」


皓はしゃがんでいた身体を起こして膝たちになると、ベッドに両腕を置いて寄りかかった。


「そんなこと言ってねーだろ。ったく、女みてぇにべらべらうるせぇ」

「おーおー、反抗期。涼介に好きな子がねぇ」

仰向けの身体を起こして、皓を見下ろす。


「怒らせたい?」

「怒らせたいかも」


即答する皓の頭を、右足で押しのける。


「お前、おにーちゃんの頭を足蹴にする?」

後ろに両手をついた皓は、苦笑気味な表情を浮かべて立ち上がった。



「はいはい、じゃー出て行きましょうかね」

腰に手を当てて叩く仕草をしながら歩き出す皓の背中を睨みつけると、ドアを開けたその姿のままもう一度振り返った。

「自分の気持ちには、素直になった方がいいよ? 後で、絶対後悔するから」

「うるせーなっ」

手元の枕を投げつけると、上手い具合にそれをかわして部屋から出て行った。



閉まったドアを一睨みして、もう一度ベッドに横になる。


なんで、女がらみって断定できるんだ。

気持ちに素直?

何の気持ちに。




「あー、うるさいうるさいっ」



うつぶせになって、頭をガシガシと掻く。


面倒なんだよ、もう、とにかく面倒!


「よし、莉子の事は忘れよう! もう、終わった事だ。俺のプライドも、言われた事もどーでもいい! どーでもいいことを考えるほど、俺は暇じゃない!」




自分に言い聞かせるせるように言葉にすると、よしっ、と納得して昼寝になだれ込んだ。





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