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「涼介って俺から見ても確かにカッコイイけど、――お前、女に執着ないだろ?」
「――うん、ない」
慶太の問いに、即答。
「じゃぁ、何で付き合うんだよ」
修平の、まっとうな疑問。
「てか、何これ尋問? 二人してうぜぇな」
イラついた声を上げると、二人は俺の頭の上で目を合わせて頷いた。
「宮下 涼介くん。君の噂は、結構酷いものなのだよ。そりゃ、お前の性格知ってるから俺達は否定もできるし、流しもできるけどさ」
慶太の冷静な声って、時と場合によってはスゲいらつく。
――って、流すんかい
「どうして素行のよくないお前が、推薦で受験が終わってるってのが不公平でムカつく」
「そこかよ」
笑いながら頷く慶太を見上げた。
いや、心配されてるのは分かってんだけど。
でも、一応、俺にも主張はある。
「確かに、モテるさ。むかしっから。でも、皆みてんのは顔なんだよな。素を見せたってイメージが違うとか言われてみろ。どーでもよくなるぜ、女なんか」
「じゃぁ、付き合わなきゃ良いじゃない」
正論だな。
「振ればふったで、しつこく付きまとわれてみ? だったら付き合って、振られた方が全然マシ」
断言。
女は振られるのは許せないけど、振るのは優越感込みで許せるらしい。
慶太は苦笑い気味に、俺の横に座った。
「なんというか、優しいのか優しくないのか」
「優しさだと思うぜ?」
俺の言葉に、修平は奥が深いとか呟いてるけど。
深いんじゃない。どーでもいいんだよ。
「じゃぁ、あながちあの女の人も、しつこく付きまとうタイプなのかな?」
「んあ?」
視線を上げると
「うわ、まだ見てやがる」
さっきベンチで見ていた女、まだ同じ体勢で俺を見てる。
ガン見。なんか、怖さまで感じますが――
どうせ、顔目当てなんだろ。
なんか、すっごいムカついてきた。
だいたい昨日別れた女も、一体何様だってんだ。
言いふらしたって、自分だけ被害者面しやがって。
なぁ、そこの人。
あの女、昨日、俺に向かってなんて言ったと思う?
{あんたなんて、顔だけじゃないの! 不感症!!}
あ、思い出したらちょっと傷ついた――
不感症の意味がわかんねぇよ!
なにもしてねぇだろ!!
こちとら、ナイーヴ(ブじゃない)なお年頃だってんだ!
座ってたコンクリから立ち上がって、じっとこっちを見てる女をにらみつける。
「涼介?」
いきなり立ち上がった俺を、二人が怪訝そうに見る。
「なんか、すっげムカつく」
それだけ言い置いて、女めがけて歩き出す。
「お、おい。涼介、ちょっと待てって」
「何するつもりさ」
慌てて追いかけてくる二人を、無視して近づいていく。
大股で歩いて、その女の前に立ちはだかった。
「――おい」
いきなり目の前に立たれて驚いたらしく、頬杖をつくように手のひらにのせていた顔を少し上げて俺を見上げる。
大きな目をパチパチとさせて首をかしげている仕草が、小動物を見るようで、むかむかする。
自分は何も知りません、みたいな顔しやがって。
「俺に見惚れるのは勝手だけど、視線がうぜぇんだよ。逆ナンなら間にあってっから」
見下ろしたまま、冷たい声で言い放つ。
後ろには追いついてきた二人が、黙って突っ立ってて。
勢いで言ったものの、何の反応も示さない目の前の女に怒りが積もる。
「何か言え」
「――逆ナン……?」
怪訝そうなその視線を、じっとにらみ返す。
睨んでいるつもりなのにちっとも怯まないその態度に、沸騰直前だった頭が余計に沸騰していく。
怒鳴ってやろうかと口を開いた時、横から割り込まれて視界がふさがる。
「おねーさん、突然ごめんね」
いきなり慶太が目の前に出て、しゃべりかけた。
「さっきから俺達の方、見てたでしょ? あまりの視線の熱さに、何かなぁと思って」
ある意味、こいつの方がタラシっぽいんですけど。
きょとんとして話を聞いていた女が、右手で左の手のひらをぽんっと叩いて頷いた。
「ごめんごめん、あんまりにもカッコイイから見惚れちゃって」
「やっぱり――」
逆ナンじゃねぇかよ、とふてくされた声で言い捨てた途端、耳を疑う言葉が聞こえた。
「制服に」