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眼下では、修平がシュートを決めている。
上がる、歓声。
ここからでも見える、莉子の姿とそれを見る修平の姿。
皆で行こうと言う莉子の言葉に、首を横に振った。
不思議そうな表情の莉子と修平と、その他の生暖かい視線に背を向けて窓際の椅子に座った。
――天然は手に負えない。
確かになぁ……と、窓枠に頬杖をついた。
莉子も天然だけど、はっきり言えば修平も天然。
周りの空気を読むどころか、空気ってナニ? とか本気で聞かれそうな感じ。
――本気じゃないなら、修平の邪魔しちゃ駄目だよ
慶太の言葉が、脳裏に浮かぶ。
確かに、修平は莉子に気があるかもしれない。
っていうか、ある。うん。
でも、先に目をつけたのは俺で。
横槍いれんじゃねぇって、俺、思うのおかしい?
「おかしいよ、涼介」
――
一瞬、目の前が真っ白になりました。
俺の脳内思考に返事が……
「涼介らしくないね」
傍に誰かが寄ってくる、気配。
強めの女の口調に、誰かが図書室に入ってきた事に気づく。
内心、焦った俺はそっちに視線も向けず、口も開かなかった。
いや、なんか驚きすぎて声とか掠れそうだから。
鼻につく、香水の匂い。
視界に入ってきた茶色い髪。
「涼介、ずいぶん可愛らしいお姉さんが好みだったんだ」
俺のすぐ前の椅子に腰掛けた、女。
……見覚え、ある顔だな。
名前、出てこないけど。
「本命なんだって?」
くすくすと笑うその雰囲気は、慶太そっくりで。
イラついたけど、無表情のまま校庭を見続ける。
「本命さん、高坂くんと仲いいよね。ホントに、涼介と付き合ってるの?」
つきあってねーよ、だからなんだよ、おめーには関係ぇねーよ。
「ねぇまさか、涼介が追いかける恋愛?」
追いかける恋愛……?
気にしないようにしていても、いつの間にかこの女の言葉に脳内で返事していて。
意識がどんどん、女に向かう。
「告白してもさ、お前の事知らないけどそれでもいーなら、それが常套句の涼介がさ。似合わなすぎて、うけるんだけど」
「……うるせぇな」
つい、答えてしまった。
女は嬉しそうに口角を上げると、椅子から立ち上がる。
「本当に、あの人の事好きなの?」
「答える理由、ないね」
一度開いてしまえば、もう何度口を開こうと変わらん。
もともと、俺は短気。
言い返す方が、性に合ってる。
「あるんじゃない? 最後の彼女だった私にくらいは」
そう言って踵を返すと、図書室から出て行った。
そうか、今の付き合ってた女だったのか。
つーか、タイミングよすぎだっての。
俺が一人になるの見計らってきやがったなら、ストーカー一歩手前だな。
心の中で悪態をつきながら、視線をまた校庭に戻す。
眼下では、バスケがまだ続いていて。
いつの間にか、教授が乱入してシュートしてる。
……あ、はずした
悔しそうに人差し指を立ててもう一度とバスケ部員にせがんでいる教授の傍には、坂口と莉子の姿。
そこに修平が近寄っていって、ボールを莉子に渡す。
……ボールに潰されそうだな
思わず、強張っていた頬が緩む。
小動物が玉転がしでもしそうな感じ。
莉子は困ったように修平を見上げていたけれど、坂口に押し出されて渋々ボールを構えた。
それを周りが囃し立てる。
無理しないでーとか、そんな声が聞こえてくる。
それに同意しながら、莉子の姿を見つめた。
どう見ても、シュートっていうかボールを高く投げられないだろ。
フォローしたいのか、修平が一歩踏み出した時だった。
トーントーン……
バスケボールを軽く地面に叩きつけた莉子は、次の瞬間それを両手で掴むと綺麗なフォームで宙に放り投げた。
それは、綺麗な弧を描いてゴールへと吸い込まれていく。
「――え?」
数秒後、静まり返ったコートに歓声が鳴り響いた。