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「ね、ちょっと涼介くん! 歩くの速いっ」



莉子の手を掴んだまま廊下を突き進み、特別教室棟……略して特室棟に入る。

そこは視聴覚室やらPC室やらが集まった、三階建ての校舎。

本校舎で学祭はやってるから特室棟は誰もいなくて、静まり返ってる。


三階まで階段を上がって一番奥のドアを開けた。

そこは、図書室。

よく、時間つぶしに使ってる場所。


入り込んで、後ろ手でドアを閉める。

そこでやっと莉子の手を離した。


「どうしたのー? ちょっ、息が……」

膝に両手をついて呼吸を整える莉子を見下ろしながら、自分自身、思いっきり自問自答中だった。



……俺、何してんの?



修平と莉子を見てたらなんかもやってしてきて、つい莉子を連れ出してきちゃったけど。

これ、傍から見たら嫉妬してる彼氏の図?

はからずも、クラスの奴等にネタ提供してきた感じ?


いや、だから!

俺に惚れさせるんだってば。

俺から行動を起こしてどーすんだ!


人生最大の後悔をしながら、思いっきり溜息を零した。


溜息ついでに傍らに視線を移すと、

「莉子さん?」

いるはずの莉子がいなかった。


慌てて辺りを見回すと、本棚の間に小動物発見。

莉子は俺の言葉に、ひょこっと顔を上げた。


「涼介くん、わざわざ図書室に連れてきてくれたのね! 私の専攻だから」


――は?


意味の分からない言葉を、脳内で咀嚼する。

その間にも、莉子はしゃべり続けてて。

「うわ、懐かしいわ。全訳源氏物語」

あ、私の専攻って――日本古典文学……


先週行った莉子の所属している研究室、確かそんな名前だった。



脳内で消化し終わった俺は、にっこりと笑いながら莉子の方に歩いていく。

「そう、莉子さん好きそうだったから。高校の図書室とか、懐かしいでしょ」


はっはっは、決してそんな理由で連れてきたんじゃないけどね!


という心の声はもちろん口にはださず、笑みを貼り付けたまま莉子の横に立った。


ちぃっせーなー、しかし。

真横に立つと、身長差が際立つ。

なぜなら、頭のてっぺんしかほぼ見えないから。


まじまじと上から見下ろしていたら、嬉々としてページを捲っていた莉子さんがその手をとめた。

「でも、あれじゃ修平くんに悪い事をした気がする。あとで、一緒に謝ろうね」

他にも見たい本があったのかそれに指を当てて引き出しながら、数段高い位置にある俺の顔を見上げた。


――


「莉子マジック……」

「え?」


思わず呟いた俺の言葉に、莉子が小さく首を傾げる。


――


見上げるから当たり前だけど上目遣いになってる視線に、瞬きを忘れたようにそれを見返す自分。

首を傾げた事で、頭のてっぺんしか見えなかった俺の眼に、白い首元を晒す。


「涼介くん? どうしたの?」


何も言わない俺に、莉子は首を傾げたまま本にかけていた指に力を入れたらしい。

紙の擦れる音に視線を移すと、俺を見上げたままの莉子の指の先に棚から落ちかけそうな本。

「わっ」

とっさに左手を伸ばして、莉子の手ごと本を押さえる。

「えっ?」

何が起きたか理解できなかったのか、自分の手に重なる俺の手をびっくりしたように見つめる莉子。


「本、落ちそうだった……から」


そう言いながら、俺は自分の腕の中を凝視していた。


離せ……離せ、俺!


そう念じているのに。

莉子の手のひらに重なった自分の手は、言う事を聞かず本との間に彼女の手を抑え込んだまま。

さほど広くない、ていうか凄い狭い俺の腕と本棚の間に閉じ込められた莉子は、重なった手のひらを見ている。


ちっちぇ……


莉子を見下ろしていたら、何もしていない右手が何かの欲求にうずうずしてきた。


ぎゅって抱きしめたら、莉子はどんな反応をするんだろう。

恋愛ごとにはちっとも振れない頭なのは、よく分かりましたけど。

でも、抱きしめられたら少しは思考がそっちに向かうんじゃ……


右手が訴えるうずうず感にしたがって、腕を上げようとする俺。


いやいやいや、でもそんな事やって嫌がられたら……


思い直すように腕を下ろす、俺。



そこで、はたと気付く。


え、なに俺、莉子に嫌われるの怖がってんの?

ありえないありえない、大丈夫。

大体の女は、喜ぶはず……


そうだよ、俺に惚れさせるんだから、抱きしめるくらいはやった方がいいはずだ。


そう自分の考えを肯定して、ゆっくりとその手を莉子の腰に回そうと……


「ありがとう、涼介くん。本を落とすとこだったわ」


振り向きながらにっこり笑って微笑む莉子の無邪気な表情に、俺の右手は思わず止まり、


「ね、それ以上は涼介がいろいろまずいんじゃないの?」


背後から聞こえてきた慶太の声に、そのまま撃沈しました。






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