4
「莉子さん。俺、洋食が食べたい」
俺の声に莉子さんは当てていた指を口元からはずし、慶太と修平にも了解をとる。
そのままにこりと笑うと、あさっての方向に歩き出そうとした修平の上着の袖を、くんっと、その小さな手で掴んだ。
「こっち、ね?」
見上げて笑うその顔に、修平が嬉しそうに笑い返す。
ドクンッ
――え?
一瞬、心臓が、音を出した。
「――え?」
意味が分からず、自分の胸元に視線を移す。
左手で着ていたシャツを掴むと、慶太に背中を少し強めに叩かれて振り向く。
「ほら、行こう」
「――あぁ」
視線を莉子に戻すと、彼女の手はまだ修平の袖を掴んでいて。
「……」
思わず、足が動いた。
大股で二人の傍まで歩いていくと、莉子の左手を掴みあげる。
「え?」
びっくりして俺を見上げるその顔を、なんだか右手で一掴みしたくなってくるな。
にやり、と笑ってさっさと歩き出す。
「え? ちょっ……ちょっと」
まだ修平の袖を掴んでいた手が、俺が引っ張る勢いで外れた。
なんか、すっきり
「食堂はどこ? 俺、腹減ったよ。莉子さん」
俺に合わせるようにどこか焦って歩いていた莉子さんが、顔を上げて俺に掴まれたままの手を少し引っ張る。
「ちょっと涼介くんっ、歩くの速いっ! そんなに急がなくても食堂は消えないからっ」
――だから、そこかよ。少しは意識しろよ。
男に手ぇつながれてんだから。
突っ込みたいのはやまやまだけど。
何もいわずに、ぐいぐい引っ張っていく。
莉子の隣に、修平と慶太が歩いていて。
にやにや笑いの慶太と、莉子を少し心配そうに見ている修平。
ってか、修平。お前のその視線、気にくわねぇ
「涼介くんてばっ」
一向に離されない手にやきもきしてきたのか、莉子が少し大きめの声で俺を呼ぶ。
俺はにこにこと笑いながら、「両手に花だ」と修平たちを見る。
「ね、莉子さん?」
莉子さんは複雑な表情を浮かべて、首を傾げた。
「それいうなら、女の子でしょ?」
「えー、でも莉子さんがもし二人いて両隣に立たれていても、なんか――両手に……ハムスター?」
「何それっ」
ショックを受けたかのようなその表情に、俺は手を掴んだまま大爆笑で応えてみた。