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「全然意識されないねー、見ていて清々しいくらい」
呆けていた俺は、いつの間にか横に慶太が立っていたことに気づかなかった。
少し驚いて、肩を震わす。
その肩をぽんっと叩かれて、足が前に動いた。
「ほら、莉子さんたちいっちゃうよ。昼飯抜きになっちゃう」
惰性のまま足を動かして、莉子たちの後ろをついていく。
何も言わない俺を見ながら、くすくすと小さく笑う慶太は少し覗き込むように俺を見る。
「初めてなんじゃない? こんな反応。涼介の仕掛け、すべてスルーしてくれたね。彼女」
仕掛けたもの。
それは、口調に声音に笑顔のことですね。
「――追い討ちかけんな」
ぼーっとしながら、前を行く莉子と修平の後姿を見る。
百八十を越える修平と、百五十あるかないかの莉子。
大人と子供、見た目は反対。
莉子が話しやすいように身体を屈ませて歩く修平は、とても楽しそうに笑っていて。
少しでも修平の声が聞こえやすいようにと、首を反らせて見上げる莉子も楽しそうに笑ってる。
「あれぇ? もしかして、涼介。……ホントに落ちた?」
隣を歩く慶太が、莉子たちに視線を固定してる俺を見て、意地悪そうな笑みを浮かべた。
落ちた?
あぁ、俺が?
「落ちたというか――。俺、昨日さ。お前に女に対して執着ねぇって言ったけど、前言撤回するわ。今出来た、執着したい女」
少し驚いた顔をして、口を開く。
「え? もしかして莉子さんに、一目惚れ? マジで?」
その言葉に、慶太を見る。
「ゲームのラスボス倒す気分」
「は?」
口に出した途端、わくわくした気持ちが湧き上がってくる。
「俺に興味をもたねぇ女、初めて。あいつ、絶対攻略してやる」
「攻略って……、相手は生身の人間なんだけど」
呆れた口調の慶太の言葉なんて、耳に入ってこない。
視線の先は、前を歩く二人の姿だけ。
「ねぇ、君たちは何が食べたい? 洋食系なら新食堂、和食なら旧食堂、軽食なら喫茶室」
修平と一緒に振り返って、思い出すように左の人差し指を口に軽く当てて考えながら俺達に告げる、莉子の姿。
だって、マジで初めてなんだよ。
ここまで俺に興味持たない奴。
俺のココロ。
なんか、新しいゲーム始める時のあんな感じ。
今まさに、電源ボタン、入れる瞬間。