親の背を見て子は育つ
「沖縄の父さんからだ」
受け取った荷物の宛名には祖父の名前があった。
「中身は……お野菜?」
妻もやってきて箱の中を一緒に確認する。
「『寒さに強いゴーヤを作ったのでどうぞ』だって」
同梱されていた手紙を僕は読み上げていく。
「四季折り折りのお野菜が目白押しね」
「一年中食べれるようみんなが努力してるからね」
「今夜はシチューにするとして問題は……うーん」
「どうしたんだい?」
悩みだす妻に僕は問いかける。
「ゴーヤとナスをどうしようかなって」
「それなら僕に良い考えがあるよ」
僕は妻にやってみたいことを伝えた。
☆ ☆ ☆
「おじいちゃんから荷物が届いたの!?」
少しして夕食に取り掛かる。
娘が階段から降りてきてエプロンをつけ始めた。
「ほら兄さんも」
「うちの台所は三人が限界だよ」
一緒に来た息子は下の子の名前を呼ぶ。
「おいでリツちゃん」
「あい?」
「ご飯ができるまでリビングで一緒に遊ぼう」
息子は下の子の世話を買って出てくれた。
(ありがとう、助かったよ)
心の中でお礼を言ってやりたいことを始める。
「ゴーヤは小鉢で良いかな?」
「良いわよ。炒め物が二品になるから」
「ありがとう」
妻に確認を取りお礼を言ってフライパンを取る。
☆ ☆ ★
「さてと、まずゴーヤを作っちゃおうか」
僕はごま油で玉ねぎを茶色く炒めゴーヤを入れる。
ゴーヤに火が通った後溶いた卵を回し入れていく。
(卵と玉ねぎの甘さがゴーヤの味を包むのさ)
かつてゴーヤを育てていたときが頭をよぎった。
(あの時もこうやって少しずつ処理したっけ)
やがてゴーヤと卵と玉ねぎの炒め物が完成する。
「お次はナスか。油を吸いやすくしておこう」
僕はナスに包丁で切り込みを入れる。
(ピーラーで縞々模様に皮を剥くのもありだよね)
洗ったフライパンを熱していく。
豚バラ肉を投入し、ナスと同時に炒め出す。
少ししてナスが油を吸ってしなしなになり始めた。
「完成っと。そっちは?」
「こっちもできたわよ。ナスはお皿によっておくわ」
「ありがとう。僕はリビングに行ってくるよ」
妻と娘にお礼を言い僕は楽しげな声の所に行く。
☆ ★ ★
「いただきまーす」
家族そろっての食事が始まる。
ナスとゴーヤをみてリツちゃんは二の足を踏む。
ぱくぱく。ぱくぱく。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
ごっくん。
ぱくぱく。ぱくぱく。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
ごっくん。
ぱくぱく。ぱくぱく。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
ごっくん。
僕たちは楽しそうにおいしそうに食べる。
リツちゃんは僕たちをしばらく見ていた。
そして冒険したくなったのかナスを一口入れる。
みんなでリツちゃんの感想を待つ。
「ナスあまーい」
リツちゃんの声にみんなが微笑む。
「おくちのなかでとけちゃった」
びっくりした様子でリツちゃんは言葉を続けた。
「油を吸うとナスは甘くなるからね」
「カロリー注意なのよね……」
「あら?豚バラ肉は健康に良いのよ」
それぞれが思い思いの言葉を口にする。
「ゴーヤもうん、味は抑えられてるね」
「卵と玉ねぎが主役でゴーヤは良いアクセントよね」
ゴーヤ料理も好評で少しホッとした。
「このシチューのふわふわしてるのなあに?」
「緑色の四角いほこほこしてるのは芋?」
リツちゃんと息子が質問してきた。
「ふわふわはゴーヤのわたよ」
「緑で四角いのはブロッコリーの茎よ」
娘と妻が種明かしをする。
「しょっかんがおもしろーい」
「ブロッコリーの茎って食べられるんだ」
リツちゃんと息子が感想を漏らす。
「ゴーヤも種は食べられるよ」
揚げ焼きでささっと炒めるのがコツと妻は言う。
「ブロッコリーの茎の皮は繊維が固いからね」
ピーラーで向いてから鍋に入れたと妻は話す。
「あく抜きとか下処理は?」
「そのまま入れて出汁にしちゃった」
興味ありげに聞く息子に妻は言葉を返していく。
★ ★ ★
「ごちそうさまでした」
後片づけを始める。
さっきとは逆に女性陣はリビングでくつろぐ。
リツちゃんの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ありがとう父さん。手伝ってくれて」
「こっちこそ食事当番譲ってくれてありがとう」
「びっくりしたよ」
「今はフードロスを減らす時代だからね」
食べられるものは食べようと僕は息子に告げる。
「それもあるよそれも」
息子はお皿を洗いながら話す。
「リツちゃんがナスやゴーヤを食べたこともだよ」
お皿を受け取り僕は水分をふき取る。
「僕たちが楽しそうにおいしそうに食べていたろ?」
「うん。それは夕食前にも言ってたよね」
息子と妻と娘には事前に伝えていた。
「親が楽しそうにしていればね」
僕は吹き終わったお皿を置いて息子を見る。
「子どもも真似たくなるものさ」
「そういうものなの?」
洗い終わったお皿がまた渡される。
「そういうものだよ」
受け取ったお皿を僕はまた拭き始めた。
「興味のスイッチは僕たちが持っているものだから」
会話を楽しみながら家族の時間は進んでいく。