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9話:調子に乗る勇者

俺達が船を目的地のモノノケ国がある南西に進めてからだいぶ経過し、とうとう夜になった。

夕食を食べていると、サバトさんからこんな話を聞いた。


「ハーピーセイレーン?」

「翼と魚の尾鰭を持つ半鳥魚人の魔物です。

美しい歌声で船乗りを誘惑して、誘惑されたその船乗りを襲って、内臓を引き摺り出して食べると言うとても危険な魔物です。

日中は海底に身を潜めてるが、夜になると獲物となる船乗りを探すために海から姿を現して飛び回っています。

特にウミボウズホエールがいる海域では、船から逃げ出した船乗りがいないかを飛び回って探しているため、この海域ではハーピーセイレーンの目撃情報がとても多いのです」

「なるほどね」


なるほど、ハーピーとセイレーンを合わせたような魔物ってことか?

確か、セイレーンは岩礁から船乗りたちを誘惑して死に至らしめるというのは聞いたことがあるな。


「なので、寝ている間は耳栓をして眠ってください。

特にこれは全ての音を遮断させてくれる特別な耳栓です」

「あ、あぁ……ありがとう」


そして俺達はすぐに眠りについた。


次の日の朝、俺はサバトさんよりも早く起きて、耳栓を外し、外の様子を見るため、船上に行った。

しかし、そこには何故か全身血まみれのオニキス達がいた。


ブチッ!


モグモグッ……


ガツガツッ……


ゴックンッ!


全員、明らかに他の魔物を食べていた。


パリパリッ!


エメラルドに至っては骨を砕いて食べていた。


「な、何食ってんの!?」


俺は思わずそう叫んだ。

そのタイミングで、サバトさんも船上にやってきた。


「ツナミさん、おはようござ……へっ!?」


サバトさんは魔物を食べてるオニキス達を見て青ざめ、そして泡を吹いて気絶した。


「お、おい!?

大丈夫か!?」


それから15分経過して、サバトさんは意識を取り戻した。


「大丈夫?」

「は、はい……ご迷惑をおかけしてすみません。

さっきの衝撃的なのを見てしまって思わず……」

「俺もビックリしたよ!

ってか、アイツらは何を食ってんだ?

見た感じ、何かしらの魔物を食べているように思うが……」


俺とサバトさんは改めてオニキス達の食事の様子をチラ見した。

よく見ると、エメラルドの背後には4体の魔物の死体があり、その魔物は全員同じ人型の不気味な魔物だった。

しかも食べられてる魔物を含めると、全員翼と尾鰭があった。


「アイツらが食ってる魔物ってまさか!?」

「そうですね……アレが昨日話したハーピーセイレーンですよ。

見た感じでは、5匹でこの船を狙ってたようですが、オニキス、ヒスイ、エメラルド、カルサイトが5匹とも仕留めたようですね」

「ってことは、俺達を守ってくれたってこと?」

「もしくは、単純に肉が食べたかったのかもしれませんね!」

「……そうかもね」


俺達はそう話しながら見守ってると、5匹のハーピーセイレーンの死体は全て、オニキス達によって骨すら残すことなく、美味しく食べてしまった。

そして床に垂れてしまったハーピーセイレーンの血を綺麗に舐め始めた。


「血も残さずになめているとはな……」


すると、サバトさんはハッとした顔をしながら、ポケットから小さな瓶を取り出した。


「ちょっと待ってください!」


そう言いながらオニキス達のところへ行き、血に呪文を唱えた。


「@☆♪♨︎➿❤︎✂︎……」


相変わらず何言ってるのかを聞き取ることができなかったが、呪文を唱えている間、血は大きな雫の塊となり、宙に浮かんだ。

その雫の塊となった血は、瓶に全てを入れた。


「すごい……」


俺が関心していると、サバトさんが血が入った瓶を見せながら俺のところに戻ってきた。


「薬の調合に役に立ちます。

ハーピーセイレーンの血には、魔力を増加させる力があり、薬の調合次第では、より強力な魔法が放てるようになります!」

「へぇ〜〜っ、そうなんだ」

「早速これで作ってみます!」


そう言って、サバトさんは血の入った瓶を持って、そのまま台所へ向かっていった。

そんな彼女をオニキス達は残念そうに見つめ、しばらくしてから、諦めたのか、それぞれバラバラになって、船上から外を眺め始めた。


(まぁ、こればかりは仕方ないね)


俺はそう思いながら、舵輪を握り、船を進めた。

その間、サバトさんは鍋にさっき回収したハーピーセイレーンの血、オテサーネクの種(俺達が食べていた木の実)、そしてサバトさんが持ち込んだと思われる何種類かの薬草を入れて、呪文を唱えながらかき混ぜていた。


グツグツッ!


(これは良い薬ができそうですね!)


彼女はそう思いながら懸命に混ぜ続けた。


その頃、ユウシ達はと言うと、同級生達で騎士団として結成し、ユウシも勇者として本格的な活躍をしていた。

そして周囲から彼のことを称えるようになったことで、ユウシ達は、めっちゃ調子に乗っていた。


「いやぁ〜、異世界転移で勇者として活躍できるなんて最高だな!

あの陰キャを無人島に置き去りにしてよかったぜ!

アイツは今頃、魔物に襲われて餓死してんだろうな!」

「マジでそうなったら笑うよ!」

「おいおい、そんなこと言ってやるなよ!

可哀想だろ!?」

「何言ってんだ?

俺達の学年で唯一の陰キャだぜ?

ノリが悪いし、足手纏いになるからな!」

「まぁ、アイツは何故か優等生として先生達に優遇されていたから、少しムカつくけどな」

「まぁ、だからと言って、イジメなんてしたら面倒なことになるから、むしろ俺らの方がまたま優しいと思うぜ?」


ユウシは同級生達とそんな雑談をしていると、一人の兵士が慌てた様子でやってきた。


ガチャッ!


「勇者様、大変です!

魔物の大群が襲撃してきました!」

「よっしゃ!

俺達の出番だな!」

「ほ、本当ですか!?

ありがとうございます!!」

「あぁ、そっちの上司に“ユウシ様が参戦する”って言っておけ!」

「ハッ!」


そう言って、兵士はすぐに走っていった。


「さーて、行くとするか!

魔物の大群なんて、俺にとっては朝飯前だ!」

「いいぞいいぞ!!」

「その調子だ!!」

「おうよ!!

お前らも行くぞ!!」

「おぉ〜っ!!」


こんなら調子で、ユウシ達は魔物達と戦うことになった。

しかし、彼らは元から運動神経が良く、何度も武器を扱うための特訓をしていたため、ほとんど無傷で魔物達を一掃していくのであった。


ズバァッ!!


「ギャアァーッ!」


ドサッ!


「ったく、ゴブリン、スライム、ゾンビ、スケルトン、レッドキャップ、インプしかいねーのかぁ?

もっと強い魔物と戦いたいぜ!」

「流石ユウシ様!!」

「素晴らしい戦いぶりです!!」

「おいお前ら、ボーッと見てないで、さっさと他の魔物を倒してこいよ!」

「は、はい!」

「承知しました!」


ユウシは兵士達に次々と指示を出しながら戦っていった。


(ちょろいもんだぜ!

兵士はみんな俺の指示に素直に従ってくれるから楽だぜ!)


すると、スズネが走ってきた。


「スズネ?

どうした?」

「大変よ!

めっちゃヤバいのが来たんだけど!」

「ヤバいの?」


すると、スズネの背後から巨大な魔物が姿を現した。


ドスンッ!!


「ガルルルーーーッ!!!!」

「ほう?

フォレストトロールか……上等!!!」


ユウシはフォレストトロールに立ち向かった。


「ガアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーッ!!!!」


ドッシンッ!!!!!


「お前バカだろ?

どこに目つけてんだ!?

そんな貧弱な棍棒で俺を倒すなんてできねーよ!!

だって俺、勇者だからね!!」


ズバァッ!!!


ユウシは、巨大な棍棒を持つ両腕を斬り落とした。


更に……


「それ!!」


ズバァッ!!!


両足を斬ったことで、フォレストトロールはそのまま倒れた。


ドシンッ!!


そしてとどめをさすべく、ユウシはフォレストトロールの首を斬り落とした。


ズバァッ!!!


「よーし、これで終わりだな!

にしてもやっぱり弱いな!」


ユウシ達の活躍により、襲撃してきた魔物達を全滅させた。

そしてユウシ達が休んでいると、遠くにいる兵士達からとある噂を耳にした。


「……なぁ、知ってるか?」

「なんだよ?」

「テンプル聖国の港町で、ヤバい魔物を乗せた船が来たっていう噂だよ!」

「テンプル聖国って確か、メシア聖国を護衛する護衛兵を育成する国だっけ?

そこの港町にか?」

「そう!

しかもその船の船長は自分から海賊と名乗ったんだぞ!

それに、テンプル聖国での魔術師排除による“魔女狩り”で狙われた一人の魔女を匿って、そのまま船は港から離れたらしいぞ!」

「ちなみにその魔物は?」

「噂だと確か、リーパーパンダ、アイランドクラーケンの幼体、ブラッディールフの雛、ランドスライドスネークの幼蛇だと聞いたぜ!」

「おいおい、冗談はやめてくれよ!?

あんな危ねー魔物をどうやって手懐けたんだって!?

んなもん無理だろ!?

どうせその海賊って、魔王軍の関係者とかじゃねーの!?」

「いや、普通の人間で、魔王軍とかそんなのは関係がないっていう証言があった!

ただ、魔女を追いかけていた魔女狩りの連中は、命乞いのために食べ物や金、家具などを引き渡したそうだよ」

「マジかよ……」

「あぁ、メシア聖国とテンプル聖国では海賊を嫌っているからなぁ……今回のことで、魔女狩りに続いて、海賊狩りをやることになった……らしいよ!」

「まぁ、あそこは特別な場所だからな!」


(ふ〜ん……海賊ねぇ……しかも魔物を手懐けるとはな。

まぁ、俺には関係ないか!)


ユウシは、頭の中でそう思いながら兵士達の噂を聞いていた。

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