8話:ウミボウズホエール
船は南西に進めることにした。
南西の先にある目的地のモノノケ国は、ニンジャの国で、ニンジャ達は主にスパイとして活動するそうだ。
そのため、多くの国ではニンジャを利用して、敵対国についての情報を調べたり、裏切り者を炙り出して始末したり、そして魔王に仕える幹部達を探したり、後は護衛など、ニンジャにはより多くの仕事があるそうだ。
「ちなみにモノノケ国を建国したのは、“チヒタ”と呼ばれる異世界から数百年前に転移されたという人で、彼自身がその“ニンジャ”だったそうです。
ニンジャとしての能力を活用して、何人かの魔王軍の幹部達を炙り出して倒した実績があります。
その実績が当時の世界皇帝に認められ、“是非ともニンジャという素晴らしい人材を育てて、後世に残して欲しい”と頼まれ、そこから元海賊島だった場所に今のモノノケ国として建国されたそうで、そこから現在までに世界中で活躍する優秀なニンジャを生み出しています」
「すごいなぁ……この世界にもニンジャがいて、そのニンジャというのを残した人が俺と同じ転移された人だとはなぁ」
「ちなみにモノノケ国の名前の由来は、実はチヒタ自身の本名が“モノノケチヒタ”だそうで、そこから来ていると聞いたことがあります」
モノノケチヒタ……って、数多くの忍者伝説を残したと言われる謎多き忍者“物怪地飛太”なのか!?
……いや、考えてみれば確か、戦国時代が終わり、平和な時代が訪れた頃、引退をして放浪の旅に出たが、それっきり行方不明になったと聞いたことがある。
放浪の旅の間に「恨みを持つ人間に暗殺された」とか「突然の病で死んだ」とか色々な説が出ていたが、未だにその謎が解明されていない……でも、この異世界に転移されたってことになると、全ての辻褄が合う!
でも俺は今、その異世界にいるから、元の世界の人達にこのことを言うことなんて、今の俺にはできないからな。
「ツナミさん?」
「い、いや、なんでもない!」
すると、船上にいたオニキス達が突然と騒ぎ出した。
「グアオオォォ〜〜ッ!!!!」
「グワーーッ!!!!」
「シャーーッ!!!!」
「キューーッ!!!!」
突然と騒ぎ出したので、思わず振り向いた。
「どうしたんだ!?」
「何があったんですか!?」
するとだんだんと波の動きが激しくなり、そこから豪雨が発生した。
「また嵐なのか!?」
この光景を見たサバトさんは青ざめた。
「ち、違いますよ!
これは嵐ではありません!!」
「えっ!?」
「奴が来ます……ウミボウズホエールが!!」
「それってさっき言ってたあのクジラの魔物?」
「そうです!
既にこの船は狙われてます!
もはや船で逃げる手段はありません……この船を手放して脱出して逃げるか、船を守るために戦うか……そのどちらかです!
ですがほとんどは船を手放して、海へ飛び込んで脱出しますが、シーサーペントやクラーケンなどの海の魔物がいる限り、生き残るのはほぼ不可能かと……」
そして船の目の前、海面から巨大な真っ黒な怪物が姿を現した!
ザバァーーーンッ!!!!!
「グウウゥゥゥオオオォォォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
「アレがウミボウズホエール……なんてデカさだ。
俺は普通のクジラすらこの目で見たことはないが、明らかに友好的ではないな。
だが、せっかく手に入れた船を手放すことはできない……こうなったら、戦うしかない!!」
「ツナミさん、本気ですか!?
どうやって戦うんですか!?」
「!?」
そうだった。
サバトさんは魔法という武器がある。
俺もあの港で手に入れた品質のいい拳銃とその弾と刀がある。
だが、あんなのを相手に戦えるとは思えない。
しかし、ここで俺は冷静に考えた。
「……いや、この船にある大砲で戦うことは?」
「大砲ですか?
ですが奴には砲弾どころか、魔法にも耐性があります!
私の魔法でも奴を倒すのは不可能かと……」
「でもこのままだと船は沈められる!
ここは俺達の命とこの船を守るために!」
そう言って、俺はすぐに大砲がある砲室へ向かい、大きな砲弾を大砲に入れた。
そこへエメラルドがやってきて、大砲を持ち上げては、他の大砲にそれぞれ入れていった。
「手伝ってくれてありがとうな」
「グアオォッ!」
「後はこれをあのクジラに大砲を放つだけだ」
俺はすぐに大砲を打つ準備をした。
すると俺の背後からサバトさんが駆けつけてきた。
しかもサバトさんの手から白く発光する小さな火の玉を出していた。
「それは?」
「どうやらその大砲は、魔法の力で発射される“マジックキャノン”のようですね。
既に砲弾が入ってるようですが、後はこれで……」
そう言って、サバトさんは、呪文を唱えながらその火の玉を大砲全体に纏わせた。
ところが、大砲が虹色に輝き始めた。
「えっ!?」
「何が起きたんだ!?」
サバトさんと俺が驚いてると、大砲の向きをウミボウズホエールに向け、なんと勝手に大砲が発射されたのだ!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドオンッ!!!!
ドガァッ!!!!!
「グウウゥゥゥオオオォォォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
砲弾は全て命中した。
しかも大ダメージを与えれた!
「す、すげぇ……」
「あ、あり得ません……私はその辺の魔法使いと同じレベルの実力なのに……大砲の威力がなぜこの威力を!?」
「どうしたの?」
「……普通、マジックキャノンの威力は、自分が出した魔力と同じ威力しか発揮されません。
ですが、このマジックキャノンは、私の魔力よりも更に数倍にもなって、発揮されたんです!
これができるのは、勇者だけです!」
すると、ウミボウズホエールは、遠吠えをあげながら、海へと潜っていった。
「グウウゥゥゥオオオォォォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
ザバァーーーンッ!!!!!
そしてそのまま海の奥へと姿を消した。
すると、波の動きは穏やかになり、豪雨も止んだ。
「アレ?
あのクジラ、もう潜っていったのか?」
「……違います。
アレは多分、このマジックキャノンの威力を恐れ、諦めたんだと思います。
ですが、ウミボウズホエールはマジックキャノン程度では、諦めることはありません……本来はね」
「本来?」
「ウミボウズホエールは、天敵がいないと言われる海の魔物で、全ての海の生態系の頂点に君臨します。
あの魔王軍ですら存在そのものを恐れるほどの脅威となっています。
しかも皮膚が硬いので、どんな強力な大砲でも、どんな強力な魔法でも……効かないのです」
「なるほど……となると、この船は普通の船ではないな」
俺はサバトさんに、無人島の森の中に長いこと放置されたこと、船自体は古いのに、新品のようにとても綺麗で、傷一つもないことなどを話した。
「そういうことだったんですね。
となると、前から聞きたかった質問をあなたにする必要はなくなりましたね」
「質問?」
「気になってたんです。
私は先にあなたのこと、船にいるあの魔物達の話をしていたので、次はこの船について聞こうかなと思ってたんです。
かつての仲間達に裏切られ、あなたが無人島に置き去りにされた時、あなたがあの地図と一緒にこの船を見つけたという話から……ずっとね」
「そうだったのか……」
「落ち着いた時に聞こうかなと思ってましたけどね」
「……それより、もう奴らは現れないのか?」
「……私にもわかりません。
別の個体が現れる可能性ならありますが、ウミボウズホエールは、ドラゴンと同じ知能があります。
そのため、一度痛い目に遭ったさっきの個体はもう襲ってくることはないかと」
もしかしたら、ソイツは他の個体に俺達の船のことを伝えている可能性もあるってことかな?
本で読んだことはあるけど、クジラやイルカ、シャチは確か、超音波を発したり、聞いたりすることができ、それで互いにコミュニケーションをとっているってな。
となると、ウミボウズホエールとかいうクジラの魔物は多分、この船のことを伝えているとは思うからきっと襲ってくることはないと思う。
とにかく、いつ現れるかわからないから、先に船を進ませよう。
「とりあえず、ウミボウズホエールにまた襲撃される前に、モノノケ国へ進めよう!」
そして再び船を進めた。
すると、オニキス達がまた騒ぎ出した。
「グアオオォォ〜〜ッ!!!!」
「グワーーッ!!!!」
「シャーーッ!!!!」
「キューーッ!!!!」
「また騒いでますね!
もしかして……」
「サバトさん、俺は急ぎで舵を取るので、代わりに見てもらえませんか?」
「勿論、私が見に行きます!」
サバトさんはオニキス達がいる船尾に向かって、船尾から見える海を見つめた。
すると、別個体と思われる数匹のウミボウズホエールが海面から続々と顔を出してきた。
ザバァッ!!
ザバァッ!!
ザバァッ!!
ザバァッ!!
「ウミボウズホエールが何匹も……でも、その様子だと、私達の船に襲う気はないようですね……」
ウミボウズホエール達は、俺達の船をじっと眺めた後、ゆっくりと海の中へ沈んでいった。
「……」
ちょうどその頃、ウミボウズホエールがいる海域に、虹髭海賊団の船が入ってきた。
「船長、ここの海域ってまさか!?」
「……とうとう入ってしまったか。
ウミボウズホエールの縄張りにな……」
「しかし船長、大丈夫ですか?
奴らが出現する時は、大きな嵐を引き起こすと……」
「……いや、大丈夫だろ?
むしろウミボウズホエール達が何故か出てこない」
「出てこない!?」
「それはあり得ねーだろ!?
ウミボウズホエールは、船を見つけたらすぐに襲ってくるほど凶暴なんだぞ!?」
「落ち着けって!」
「お前の言う通りだ。
それが本来……ならな。
だが、唯一襲わなかった船が存在する。
その船は、海に住む魔物達にとっては恐ろしく、無意識に遺伝子に恐怖が刻まれてるほどだ」
「その船ってまさか!?」
「あぁ、仮に奴らが出てこないのなら、アーク・オブ・ザ・ヒーロー号……それしか考えられん」