7話:地図と暗号
次の日の朝、俺は改めてあの地図を確認した。
あの時、この船と一緒に見つけたこの地図は、おそらく何かしらの宝が隠されている宝地図だと思われるが、見ただけでは場所を特定することはできない。
一応、港町で手に入れた世界地図と見比べてみても、どこにあるかもわからない。
「どうされましたか?」
「ん?」
そんな俺に、サバトさんが声をかけてくれた。
「その地図がどうかしましたか?」
「実はね……」
俺は無人島で船と一緒にこの地図を手に入れたことを話し、彼女にその地図を世界地図と一緒に見てもらった。
「なるほど……これ、世界地図ではわからない場所にありますね」
「というと?」
「この地図は、何かしらの隠し場所が記されている地図で、例えば財宝や魔王城とかがそうですね。
この地図はおそらく宝地図なのは間違いないとは思います」
「魔王城?」
「はい、世界各地には多くの魔王が存在しており、その魔王を倒すのが勇者本来の役目です。
そのためには、魔王がいる魔王城に行く必要がありますが、その魔王城がどこにあるかもわかりません。
ですが、ダンジョンや隠し箱にはなぜか魔王城の在処が示された地図があるそうです」
「ちなみに宝地図とか魔王城以外にも?」
「そうですね……一応、海賊島を始めとした犯罪組織の拠点地、ドラゴンの住処、伝説の洞窟などがありますね。
ちなみに、これらの地図には一つだけ大きな共通点があります」
「共通点?」
「……場所を特定されないように、必ず暗号が存在することです」
「暗号?」
そういえば、未だに発見されていない幻の財宝“徳川埋蔵金”って、実は有名な童話“かごめかごめ”の歌詞そのものがその徳川埋蔵金の在処を示す暗号だという都市伝説があった。
ただ、どういう内容なのかは忘れてしまったけど、そういうのはどこかで聞いたことがあるな。
それと同じ感覚かな?
「この地図だと……」
サバトさんはどこに暗号があるかを調べてくれた。
「……ありました!
これです!」
サバトさんが指を指したのは、地図の角部分で、よく見ると、小さな絵があった。
右上はヒツジ、左上はカラス、右下はイルカ、左下はカエルである。
「これが暗号?」
「はい、どうやら簡単な方だと思います」
「簡単って?
もしかして、地図の暗号を解いたことがあるの?」
「はい、3回くらいやったことがありましてね……まるで謎解きクイズを解いているような感じで楽しかったですね」
「その地図って?」
「私が通っていた学校での夏休みの宿題で、自由研究として3枚の地図を見つけて、それを全部解いたんです。
そしたら全部、魔王城の居場所でして、それでその魔王城各地に勇者が連合軍と一緒に大軍を率いて、攻め込んでしまいましたけどね」
夏休みの自由研究で、魔王城の居場所が解かれてしまい、そこに勇者率いる大軍が攻め込んできてしまったら、魔王にとってはたまったもんじゃないだろうなぁ……
「そ、そうだったんですね……」
あまり触れない方が良さそうだな。
「……それで、この暗号の解き方は?」
「ヒツジ、カラス、イルカ、カエルの絵が小さく描かれていますが、おそらく紋章を現していると思います」
「紋章?」
「ヒツジは多くの聖職者が信仰のために住んでいるメシア聖国の紋章、カラスは魔術学が盛んなバーバヤーガ王国での王族の紋章、イルカは人魚とエルフが共存して暮らしているアトランティス国の紋章、カエルはスパイ活動をするニンジャが修行のために住んでいるモノノケ国の紋章のことですね」
「なるほど……」
「この世界地図を魔法で具体化すると……」
そう言って、サバトさんは世界地図に手をかざして、呪文を唱えた。
「@○☆#♪◇……」
アニメやゲームとかで魔法の呪文を唱えてるシーンがあるが、以外にも全然聞き取れない。
そう、何言ってるかもわからない。
俺がそう思っていると、なんと世界地図からまるで3Dのように、立体化して映し出された。
「この魔法は上級者向けですね!」
「す、すごい……」
「さてと……」
サバトさんは指で世界地図にひし形を書くようにして線を引き始めた。
「線で結ぶと、ひし形になります。
このひし形の中にこの地図の居場所があると思われます」
「なるほど……そのひし形のどこかにこれが隠されていると?」
「そういうことになりますね」
「ちなみに俺達がいる現在地はわかるの?」
「現在地ですか?
これを出した時からここにありますよ」
サバトさんがそう言いながら指を指した場所には、小さな船があった。
これが俺達が今いる現在地だ。
「結構離れているな……」
「見た感じ、モノノケ国が一番近いですね。
ここからだと南西の方にモノノケ国がありますが、この船の速度だと早くても3日……遅くても4日に到着できるでしょう。
ですが、南西の海には今、極めて危険な海の魔物が出現しているという情報があります」
「海の危険な魔物?
シーサーペントとかクラーケンとか?」
「確かに海では危険な魔物ですが、一番危険なのは、“ウミボウズホエール”です」
「ウミボウズホエール?」
「全身真っ黒の巨大なクジラに似た魔物で、船を積極的に襲うと言われています」
どうやら、最近ではウミボウズホエールの目撃情報が増えるようになり、それが原因で漁業ができなくなったり、郵便船や観光船を始めとした商船などの多くの船は全て運航停止又は中止となっているそうで、やむを得ない場合や俺達のような海賊が乗る海賊船などのごく一部は危険を承知でそこに船を進めている場合があるそうだ。
「つまり、この船はまさにその危険区域に進めようとしているってことか?」
「そういうことになりますね。
ですが、そこに行くかどうかは、あなた次第ですよ。
私とあなたの仲間の一人になったので、どこにでも着いていきますよ……私のキャプテン!」
「お、おぉ……」
途中から視線を感じたので、振り返ってみると、そこにはオニキス達がずっと俺のことを見つめていた。
「お前らもこの船に乗ったからには、死ぬまで着いて来てね!」
「グワッ!」
「シャッ!」
「グアオォッ!」
「キューッ!」
オニキス達の反応を見て、俺は腹を括った。
「よし、そのまま南西に進む!
最初の目的地は、モノノケ国!」
こうして、俺達はモノノケ国に行くことになった。
俺達の船からだいぶ離れた場所から見ていた人達がいた。
「なんて大きな船だ」
「海賊船か?」
「いや、幽霊船じゃね?
だってあの帆、ボロボロじゃん!」
「でもよく見ろよ……人が乗ってるんだぞ!?」
一人の男がそう言いながら望遠鏡で見ていた。
「しかもよく見たら、魔物も乗ってるぞ!?
でもここからだと流石になんの魔物かはわからねーが……」
「やめろよな!
そんな悪い冗談!」
「いやマジだって!」
すると、一人の男が現れた。
その男は、7色の色で染め上げた髭を持つ大男であった。
「ったく、さっきからうるせーぞ!」
「船長!」
「あそこに見たことのない船が!」
「何?」
「この望遠鏡でご覧ください!」
部下と思われる男はそう言って、望遠鏡を髭の男に渡した。
そして髭の男はその望遠鏡で覗いてみた。
「あの船か?」
「はい、そうです!」
「いや船長!
コイツは冗談を言うのが好きなんですよ!」
「ハァ!?
冗談じゃねーってさっきからそう言ってんだろ!?」
「……いや、あるぞ」
「えっ?
本当ですか?」
「しかもあの船、タダの海賊船ではないなぁ……」
「えっ?」
「どういうことですか?」
「……あの船かどうかはわからねーが、今から約1000年程前、“始まりの勇者スタート”が“絶滅の化身”と呼ばれた邪神の討伐の旅に出た際、勇者とその仲間達を邪神がいる“決戦の地”へ船で連れ出したという伝説の海賊王“キャプテン・X”……そしてアイツが乗った海賊船の名前は確か、“アーク・オブ・ザ・ヒーロー号”とされている。
伝説では、勇者とその仲間達が一緒に邪神に敗れ去った時、唯一残されたキャプテン・Xは勇者達の無念を晴らすために、邪神を相手に死ぬまで暴れ回ったそうだ。
だが、奴が死んだ後も、船は動き続け、やがて邪神が姿を消して、各地で魔王を召喚している間、成仏が出来ずにいたのか、船はどこかに彷徨いだし、それ以降の目撃情報が途絶えてしまったとな」
「でも船長、それって、船自身が痛んで、そのまま沈没したんじゃないんですか?」
「いいや、最後まで傷一つも残さず、沈没することもなく、いつの間にか姿を消したと噂されている。
俺はそんな噂は信用しねーが、もしもあの船が本物のアーク・オブ・ザ・ヒーロー号だとしたら、俺達は今乗ってる船長と仲良くしなきゃならねーってことになる」
「船長!?」
「何を言ってるんですか!?」
「俺達と敵対してくるかもしれませんよ!?」
「そうですよ!
海賊同士で仲良く……」
「同盟という手がある。
アイツらと同盟を組んでおけば、俺達にはあのアーク・オブ・ザ・ヒーロー号という後ろ盾をあることができるだろう。
少なくともこれは俺達“虹髭海賊団”のためだ」
「船長……」
“虹髭”と名乗るその男は船員達に振り向いた。
「野郎ども!
手遅れになる前に、あの船を追いかけるぞ!
そしてあの船に接近し、船の船長に同盟を持ちかける!
ぐずぐずしてると、俺達が後悔することになる!」
こうして、虹髭率いる虹髭海賊団は動き出した。