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9話

 怖い。


 今までは神殿に住んでいたのでこんな風に暗闇から誰かが侵入してくるかもしれないなんて想像もしていなかった。


 けれど、王城内であろうとここは誰かに警護されている場所ではない。


 手が震えそうになるのをぐっと堪え、私は音がした方向に向かって声をあげた。


「だ、誰ですか!」


 ぎゅっと箒を構えていると、物音が外で響いた後に、もみ合うような人の声が聞こえてきて、私は、その聞き覚えのある声に、扉を開けて外へと飛び出した。


「セオ様!」


「ラフィーナ様! 中へ戻ってください!」


「離せ!」


 私はその声に、声をあげた。


「セオ様! その声、その声は多分レオナルド殿下です!」


「は!? えっ!?」


「離せと言っているだろう!」


 私は魔法具の灯を持ってくるとそれを向けた。するとそこには泥にまみれたレオナルド殿下とセオ様の姿があり、私は一体どうしてこんなところにいるのだろうかと驚いたのであった。


 こんな時間にどうして?


 それにセオ様は先程帰ったのではなかったのだろうかと思いつつも、私は辺りを見回してから二人に言った。


「とにかく、一度中にお入りください。その、二人が争ったなどと噂が立ってはいけませんし」


 そう提案すると、レオナルド殿下はフンと鼻をならしてからずかずかと私の家の中へと入って来た。


 セオ様もその後ろについて中に入るけれど、申し訳なさそうに眉を寄せ、私に言った。


「すみません。その……不審に思われるといけないので先に白状しますと、国王陛下の命と自分の意思にて、ここ周辺の警備体制がしっかりとするまで、あちらにある小屋を仮住まいとして寝泊まりしていたのです。それで物音がしたので、駆け付けました……ちゃんと話をするつもりだったのですが、自分でも少し気持ち悪いのではないかという気がして……言い出せませんでした」


 しょぼんと、項垂れるセオ様。その姿に何故か胸が少しトクンと音を立てる。


 なんの音だろうかと思いながらも、セオ様の行動について嫌な思いがあるわけではない。


「まぁ……そう、だったのですか?」


「……すみません」


 私は驚きながらも真面目なセオ様なのですごく心配してくれての行動だったのだろうなとうなずいた。


「心配してくださったのでしょう。それに……物音がした時、本当に怖くて、セオ様ありがとうございます」


「いえ」


「おい。いつまでたたせておくつもりだ。タオルを持ってこい。あと、飲み物を出せ」


 夜に突然現れてそう告げられ、私としては一体どういうつもりなのだろうかと思うけれど、王子相手にそういうことを告げるわけにもいかず、ため息をつくのをぐっと我慢をしてタオルを取りに行く。


 その間にセオ様が飲み物を準備してくれる。


 何も言わなくてもセオ様はこちらの考えを読んで動いてくれるのですごくありがたい。


「どうぞ」


「はぁ。くそが。セオ。お前のせいだぞ。私が泥にまみれるなどあってはならないことだ」


 尊大な態度でそう言うレオナルド殿下に、セオ様ははっきりと告げた。


「元婚約者とはいえ、こんな時間に家の中を覗き込むのは、問題があるかと思います」


 その言葉に覗き込んでいたのかと思いながら、覗き込まれたのが風呂場だったので気持ちの悪さが増す。


 まさか風呂を覗くつもりだったのだろうか。どうして? レオナルド殿下はもしかしてそういう趣味があったのであろうか。


 私は身を守るように両手で体を抱き込むと、レオナルド殿下から一歩離れ、セオ様の方へとピタリとくっつく。


「え……ら、ラフィーナ様?」


「あ」


 顔をあげると、驚いた様子で、顔を真っ赤に赤らめるセオ様がおり、その意外な表情に私は驚いた。


「あ、す、すみません。近かったですね!」


「あ、いえ、大丈夫っです。すみません。過剰反応しました。申し訳ないです。そ、それでレオナルド殿下、どうしたのです?」


 泥をタオルで拭きながらレオナルド殿下は私達を睨みつけると言った。


「家を覗き見たわけではない。話があったが、鍵が閉まっていたので窓を叩いただけだ」


 その言葉に、私は静かに言った。


「お風呂場の窓ですが」


「ぶっ」


 レオナルド殿下は顔をあげると、慌てた声で言った。


「違うぞ! だ、断じて風呂を覗こうとしたわけではない!」


 声をあげるレオナルド殿下に、セオ様は静かに言った。


「ですが、女性の家を訪ねる時には基本的に昼間にするべきでは?」


 レオナルド殿下はその言葉に眉間にしわを寄せるとため息をつきながら言った。


「女性として見てない。そもそも婚約破棄した女を手籠めにするような趣味はない」


 おそらくはセオ様が言いたいことはそういうことではないのだろうと思っていると、以前はレオナルド殿下とぶつかるような発言は極力控えていた印象だったセオ様は、口を開いた。


「レオナルド殿下の主観を求めているのではなく、世間一般的に非常識だと言っているのです。未婚の女性の家に夜赴く行為自体が関係を疑われる物であり、レオナルド殿下がそのような気持ちがないにしろ、ラフィーナ様に悪い噂が立つかもしれないと言っているのです」


 視線を反らすことなく真っすぐにそう告げられ、レオナルド殿下は驚いたような顔を浮かべた後に、いらだった口調で言った。


「お前、私にそのような口をきいていいと思っているのか?」


「私はラフィーナ様を補佐したいと願い出た時に、ラフィーナ様をしっかりと守るようにと国王陛下より命を受けております。ですので、王子殿下であろうと、私は言わせていただきます」


「はっ! 父上の後ろ盾を得たからと偉そうなのか」


「貴方様はそうしなければ、自分の地位を理由に話を聞かないではないですか」


 図星だったのだろう。


 レオナルド殿下は嫌そうに顔を歪めた。セオ様はその姿を見つめながら言葉を付け足した。


「レオナルド殿下。殿下はこの国にとって大事な方です。ですから、どうかもっと様々な視点から物事を見ていただきたいのです」


 真っすぐにそう告げられ、レオナルド殿下は小さく息をつくと顔をあげ私を見つめた。


「たしかに夜に来るのは不躾だった。悪意があったわけではない」


 その言葉に、私は少し驚きながらもうなずきそれから尋ねた。


「わかりました。それで、一体何の御用でしょうか。こんな、夜に」


 すると、レオナルド殿下は言いにくそうに、それでも言わなければならないと決意を固めて、口を開いた。


「……ノエルに、聖女について指導してもらえないだろうか」


 私は予想外の言葉に、ぐっと息を呑んだのであった。


この前、イーブイのマンホール探しをしてきました!

暑かったです。イーブイは可愛かったですが、とにかく暑かったです!

皆様熱中症には気を付けられてくださいませ。

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