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7話

「お父様……あの方はどなた?」


 王宮で開かれた舞踏会。


 それは絵本の中で見てきたものよりも遥かに煌びやかであり、美しく、豪華なものであった。


 演奏される音楽にのって、ダンスホールでは美しい令嬢達が男性達と共に踊る。


 うっとりと見惚れる光景であった。


 そしてその中でもひときわ輝く男性がいた。美しい金色の髪に青い瞳。それは物語の王子様そのままであった。


「ははは。あの方はレオナルド殿下だよ。ノエルはレオナルド殿下に会うのは初めてだったなぁ」


 お父様の言葉に私はうなずく。


先日開催された舞踏会にてデビュタントを果たし、これで一人前のレディとして扱われるのだとドキドキとしていた。


 今日はデビュタントを果たしてから初めての王族の方もいる舞踏会である。


そして私は運命の人に出会ったのだ。


「レオナルド殿下……はぁ、とても素敵な方ね。物語の王子様そのものだわ」


「まぁ。ノエルったら。うふふふ。そうねぇ。ノエルが聖女であったならば王子様の婚約者になれたでしょうけれどね」


 お母様が微笑みながらそう告げる。


「聖女?」


 その時、会場内が拍手喝采に包まれ、レオナルド殿下が美しい銀色の髪と瞳の乙女を連れて現れた。


 皆が笑顔でそれを出迎えており、私は驚いた。


「綺麗な人ね」


「聖女様よ。レオナルド殿下のご婚約者だ」


「え?」


 私の運命の人の婚約者?


 言葉の意味が分からずに見つめていると、周囲からの声が聞こえてくる。


「聖女様はお美しいな」


「聖女様とレオナルド殿下がご結婚されれば王国も安泰だな」


 私はその言葉を聞いてなるほどと理解した。


 聖女だから、レオナルド殿下と結婚できるのである。つまりレオナルド殿下はあの女性と結婚したいわけではなく、彼女が聖女だから仕方なく結婚するのだ。


 運命の相手である自分はここにいるのに。


「おかわいそうに」


 私はそう誰にも聞こえないほどの声で呟くと、これは自分に課せられた恋の試練なのだろうと思った。


 王子様と結婚するのは自分であり、あそこにいる聖女は偽物である。


「私が聖女になって王子様の婚約者になれば、問題ないわ」


 私は簡単なことだと微笑みを浮かべると、その為には準備をする必要があるなと自分に協力してくれる相手を探さなければならないなと思った。


 そしてそれと同時に、レオナルド殿下にも自分が運命の相手であると気づいてもらわなければと、私は思った。


「大丈夫。私、頑張るわ」


 レオナルド殿下の運命の相手は私だもの。大丈夫。


 恋に試練は付き物だと小説には描かれていた。つまり自分もこの試練を乗り越えさえすればきっと幸せになれる。


 そう、その頃のノエルは思っていた。


 しかし、現実は厳しい。いや、聖女と成ること自体が難しかったわけではない。


 ほんの少しの聖女の能力があったからこそ、聖女候補に入ることは出来た。そしてそれさえできれば公爵家の力を使い、神殿と話をつければ昇り詰めることは容易い。


 そして聖女候補筆頭になったと同時に、私は神殿内以外にも自分に協力をしてくれそうな存在を見繕った。


自分の利益もあると考える者は、容易く動く。レオナルド殿下の周りにはそうした者が多くいたので利用しやすかった。また、神官長のルカ様も私には優しかったので動きやすかった。


そして私の想いを知ると共感してくださり、ルカ様とはお互いに支え合える存在となった。


 レオナルド殿下と恋に落ちるのも運命であるから問題なかった。


 協力者と共に、偶然を装って出会い、私達は運命通りに、恋に落ちた。


 その瞬間というものは今思い出しても胸がときめく。


 聖女候補としての厳しい日々に涙する私を優しく抱きしめてくれるレオナルド殿下。


 そこからは一緒に話をして、レオナルド殿下との仲を深め、そして二人でこの運命を真実の愛にするために、ラフィーナ様には婚約破棄という形でさよならしてもらう。


「ノエル。君の為に婚約破棄は成立したよ。愛している」


「あぁ! 嬉しい。これで私達幸せになれますね」


「あぁ」


 そうやってレオナルド殿下と語り合ったことを思い出しながら、キスとかしちゃった私はにやにやと口元が緩む。


 ただ問題は、それからだ。


 私は部屋の中で独り言ちる。


「……聖女ってつまんない。面倒くさい。はぁぁ~むーりー。もう結婚式の準備だってすごく大変なのに、聖女の仕事まで出来るわけないじゃない。なんだか妃教育がどうのこうのって言われるけれど、そんなの後からでも大丈夫でしょう。なのに、あれしろこれしろってうるさいのよねぇ」


 私は美味しいケーキを机の上に並べ、侍女に温かな紅茶を入れてもらう。


 神殿に侍女は連れて行けないと言われたけれど、お父様から神殿への寄付を増やしてもらってレオナルド殿下にも神殿に話をしてもらった。


 侍女がいないと私は生活が出来ないし、ケーキは必需品である。


 美味しい温かな紅茶を一口飲み、私は息をつくと今日も忙しいなぁと思い、良いことを思いつく。


「そうよ。私忙しいんだもの。聖女の仕事、割り振ればいいのよね。うんうん。私って頭いいわ」


 自分が忙しいならば誰かに仕事を任せるのは当たり前のことである。


 そして暇人がいるということも知っている。しかも国王陛下の采配により王城内にいるのでとても便利がいい。


「国王陛下って頭がいいのね。最初はどうしてどこかへ追放とかしないのかなって思っていたけれど、こうやって私が大変な時に仕事を割り振れるようにするためだったんだわ」


 なるほどな。先見の明というものはこういうものなのだろう。


「私もまだまだね。うんうん。そうと決まれば、溜まっている仕事を全部やってもらうために準備をしないといけないわね。そうだ! ルカ様にとってもいいかもしれないわ。早速話に行きましょう。うんうん。あ、そうだ。あの机の上のやつも片づけちゃいましょう。あんな長文誰が読むっていうのよ」


 元聖女の残して言った引継ぎの書類には埃が被っているけれど、長文を読むなんて面倒くさい。


 今まで放っておいたけれど、元聖女が王城内にいるのであれば、元聖女に仕事を回せば引き継ぐ必要もなく問題解決である。


「私って頭いい」


 これで心置きなく結婚式の準備をすることが出来る。


「ダサいドレスじゃなくって、このふわふわしたキラキラのドレスにしましょう。うんうん。時間はないけれど、お父様にお願いをして追加でお金を出してもらえば大丈夫よ」


 お金で解決できるものは解決すればいいのだ。


「あぁ~結婚式が楽しみ」


 私はベッドの上に頭を使って疲れたのでごろりと横になると、枕に顔を埋める。


「はぁ。疲れたわ」


 侍女によって部屋のカーテンが閉められる。自分のことをわかって世話を焼いてくれる侍女の何と気の利くことか。


「ふわぁ」


 瞼を閉じればいつでもレオナルド殿下と夢で会うことが出来る。


「ふふふ」


 心地の良い幸せな時間だなぁと私は夢の世界へと落ちて行ったのであった。


ノエルちゃん……幸せワールド全開……



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