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5話

 白い壁、そこに可愛らしい花輪の飾りをかけ、小窓の横には庭に咲いていた花を活ける。


 窓を開ければ心地の良い風が吹き抜け、私はなんて素敵な日なのだろうかと感じた。


「ラフィーナ様。こちらの小瓶の乾燥した薬草は、ラベルを貼って奥の戸棚に片づけておきますね」


 振り向くと、エプロンをつけたセオ様が、私が作った乾燥させた薬草の小瓶を手に持っている。


 作ったものを作業台の上に置きっぱなしにしてしまっていた。


「すみません。お願いします」


「はい。これが終わったらカウンターの方に紅茶を用意しますね」


「はいっ!」


 奥の部屋は作業台を置いて、薬草を煎じた薬づくりの部屋にした。そして、表の部屋は、小さな紅茶を飲めるカフェのような形にしたのである。


 これまで聖女として働いていた頃は、書類仕事も多かったけれど薬を作ることも多かった。


 ただし作った薬の多くは自分の知らない人の元へと運ばれるものであり、感謝されることもなく、誰が使ったのかも分からない。


 顔が知らない相手に薬を届けること自体が嫌だとかそういうことではない。


 ただ、出来ることであれば相談を受けてその人に合った薬を作りたいとこれまで何度も思った。


 その方が何倍も効果が出ると自分で思ったからである。


 だけれど聖女と次期王妃という立場上、一人一人に会う時間もなかったので仕方のないことであった。


 だけれども、これからは違う。


 やっと準備が整い、可愛らしい部屋が出来上がった。


 ここであれば、王城へと来た人の相談に乗った上で薬を調合して渡すことが出来るであろう。


 最初セオ様にそれを相談すると、セオ様はすぐに面倒な王城に出す申請などを迅速にすませ、国王陛下からも許可を取ってくださった。


 その有能ぶりに驚いたのだけれど、セオ様の有能さはそればかりではなかった。


 私が作った薬の分類分けから、美味しい三時のおやつまで、笑顔で難なくこなしていくのである。


 聖女であった頃は基本的に贅沢はいけないとされ、食べ物や飲み物も制限されることが多かった。


 それが最近では優雅に庭で取れた薬草の紅茶などを、セオ様のおかげで美味しく飲むことが出来ている。


 私はセオ様の言葉で気合が入ると、セオ様が紅茶を用意してくれるまでの間に、先ほどまで続けていた薬の調合の片づけをしていく。


 瓶などに詰めた分はセオ様が片づけてくれたので、すり鉢や干しておいた薬草の仕分けをする。


 そうしていると良い香りがし始め、視線を向けるとセオ様が焼き立てのクッキーと紅茶を準備しているのが目に入った。


「ラフィーナ様。用意できましたよ」


「はい! わぁぁ。今日もいい香りですね」


「えぇ。さぁどうぞ」


 私は手を止めると、一度手を洗い、セオ様と一緒に窓際のカウンター席に座る。


 こうやってのんびりとおやつを食べる時間があるなんて、今までであれば考えられないことであり、私はなんて幸せなんだろうかと思った。


 最初の頃は本当に優秀なセオ様に手伝ってもらってもいいのだろうかと思っていたのだけれど、一緒に過ごせば過ごすだけ、出来れば一緒に今後も働いてほしいと思った。


セオ様は細かな気配りも出来る方で、一緒に過ごしていると居心地がいいのである。


ただし問題は、お給金である。


 そう考えていることが見透かされていたのか、紅茶を飲みながらセオ様に言われた。


「ラフィーナ様、私は自分の意思でラフィーナ様の傍にいさせていただいているので、お給金などはいりませんからね」


「う……ですがさすがにただ働きは心が苦しいです。それにセオ様にも生活があるのに」


 その言葉にセオ様は微笑みを浮かべると言った。


「あ、私自分の蓄えもありますし、実の所、個人で経営している会社もありまして、そちらは信頼できる者に任せて事業を展開しているので問題ありませんよ?」


「え?」


 突然の新事実に驚いているとセオ様はにこやかに言った。


「私は次男ですから、ある程度自分で生きて行けるようにと幼い頃から父に色々と叩きこまれまして。なので、お金の心配はありません」


 はっきりとそう告げられてしまった。けれどだからと言ってそれに甘んじるわけにはいかないと、私は気合を入れて言った。


「そ、その、出来る限り、出させてください!」


 セオ様は楽しそうに微笑むと正論で返される。


「実際の所ラフィーナ様は働かなくても十分生きていける報奨金も出ているのに……根っからの働きたがりですよね」


「う……でもセオ様もですよね?」


 セオ様は微笑むと紅茶を一口飲み、息を吐いた。その仕草を見つめながら、私も紅茶を一口飲み息を吐く。


 男性と二人でこうやって紅茶を飲むのはレオナルド殿下以外とはこれまで経験したことがなかった。

 

「セオ様って、癒し成分でていませんか?」


 こうやって気安く話しかけられるようになるなんて思ってもみなかった。


「癒し……いえ、これまではお前がいるだけで空気がぴりつくというようなことばかりでしたね」


「まぁ」


「仕方がありません。仕事によってはせっつかなければやらない相手もいるので」


 どこの誰とは言いませんけれどと小さな声で呟かれているようで、私は笑ってしまう。


 こうやってのんびりと過ごしていると、以前までせわしなく動き続けていたことが嘘のようである。


 その時、扉があき、先ほど取り付けたばかりのドアチャイムがカランコロンと音を立てた。


 響きが可愛らしくて、つけて良かったなと思い視線を向けると、そこにはこの前の一件から、数日おきに姿を見せるようになった、ロンド様、パトリック様、アレス様の三人が立っていた。


 来るときにはいつも三人で来るので、私は仲がいいのだなと思いながら立ちあがった。


「こんにちは。あの、今日はどのようなご用件ですか?」


 出来ることならばレオナルド殿下と仲の良い皆さんとはあまり関わりたくないなと内心思ってしまう。


「実は、ラフィーナ様にご相談がありまして……」


「ラフィーナ。力を貸してほしいんだ」


「お願いだよ。ほら、可愛い僕に免じてさ」


 仲がいいなと思いながら、私は曖昧に笑みを浮かべると三人はいつも私のことを取り囲むようにして立つので、少し怖い。


 レオナルド殿下の婚約者であった頃、たしかに仕事を一緒にしたこともあったけれど、ほとんど会話もしなかったはずなのに距離感が近いのである。


 この間の求婚といい、どういうつもりなのか全く理解が出来ない。


 助けを求めるようにセオ様をちらりと見ると、セオ様が優しい声で言った。


「そちらに机と椅子を用意しました。たびたび来られるので、そちらに座ってください。紅茶を入れますね」


 三人はその言葉に驚いたようにセオ様を見た後に私へと視線を移して言った。


「もしかして私の為に用意をして下さったのですか?」


「いや、俺のための席ってこと?」


「ふふふ。僕のためだよねぇ?」


 嬉しそうなのだけれど、セオ様に周囲を取り囲まれると怖いと相談したところ、では今後お客さんもくるかもしれないのでと机と椅子を用意しますねと、手際よく用意されたものである。


 決して私が用意したものではない。


 そしてはっきりと言って、私はあまりこの三名と仲良くしたいとは思っていない。


 突然求婚される意味も分からず、そして距離感が近すぎて怖いと感じてしまう。


「今日はそれで、何の御用ですか?」


 私がそう尋ねると、三人は困ったように言った。


「実は聖女様が聖女の仕事をしてくださらなくて」


「聖女様の仕事が滞っているんだ」


「魔法使いとの連携も全くとってくれないんだよ」


「え?」


 思いがけない言葉に、私は間の抜けた声が出てしまったのであった。


働きたくなーいのはね、気持ちは分かるけれども……。

任された仕事をしないなんてさぁ大変(/ω\)

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