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3話

 ローブ王国の王城管理の敷地というものはかなりの面積がある。執事や侍女達の居住区や他にも王城内で勤める者達の宿舎もあった。


 私が今回国王陛下より住まいと今後の仕事をするにあたり使っても良いといわれた場所は王城の庭の端にあり、小さな小川の流れる横に建てられた家であった。


 可愛らしい赤い屋根の一軒家であり、庭には美しい花々も咲いている。


 急ぎ建てられた家だということで、一人で住むには広すぎる二階建ての家であった。外には保管庫なども併設されていた。


 王城内ということで騎士達が巡回していることもあり安全でとても住み心地のよさそうな場所である。


 乙女ゲームの世界なのに追放されないのだなと内心思いながらも、追放されても私の顔は聖女としてかなり有名であり、ローブ王国ではかなり生きにくかっただろう。


 王城内に住めて、またそこで仕事をしてもいいというのであれば、その方が今後も生きやすいだろう。


 そのように思って生きることにした。


「ラフィーナ様。この荷物はどこへ置いて置きますか?」


「あ、セオ様。こちらに置いていただけますか?」


「はい。分かりました」


 私は一緒に荷物を運んでくれるセオ様に、本当にいいのだろうかと少し悩ましく思ってしまった。


 ただ手伝ってもらえることは大変ありがたい。


 その後セオ様に手伝ってもらい荷物を元々住んでいた神殿から移し終えた私は、休憩をしようと家の中でセオ様と向かい合って座る。


 お茶もないので水なのだけれど、セオ様はそれを一気に飲み干すと息をつく。


 私の神殿の部屋とこの家とでは結構な距離があるのだけれど、そこを二人で往復をして荷物を運んだのだ。


 二人で過ごしたことなどなく、私は少しだけ緊張しながらも、今更ながらに尋ねた。


「セオ様、本当に引っ越し手伝っていただきありがとうございます……そのですが、本当に良いのですか? あの、セオ様はとても優秀な方なのに、レオナルド殿下の側近をやめるなんて……」


 セオ様は悪くないのに、今回の一件の責任をセオ様が背負う形になってしまったのではないか。


 そう思い尋ねると、セオ様は私に向かって優しい笑みを向けると静かに言った。


「私から国王陛下にお願いをしたのです」


「え?」


 どういうことだろうかと私が首をかしげると、セオ様は真っすぐに私のことを見つめて言った。


「ラフィーナ様、今回の一件、本来ならば私がレオナルド殿下を諫めるべきだったのです。ですがそれが出来なかった。これは側近としてはあってはならないことです……本当に、申し訳ありませんでした」


 私はあの日、もしかしたらセオ様はレオナルド殿下を問いただすために走っていたのだろうかとふとそう思った。


「……レオナルド殿下の決めたことです。セオ様……王族命令を出されては、私達には止めようがありません。ですから、セオ様のせいではありませんわ」


 そう告げると、セオ様は首を横に降る。


「……自分は、ラフィーナ様の、これまでの頑張りを知っています。それなのに、結局止めることが出来ませんでした……」


 項垂れるセオ様に、私は首を横に振る。


「セオ様のせいではありませんし、もう過ぎたことです。私はこうして住まいもありますし報奨金もあります。ですから、大丈夫です」


 私はこれからここで小さな店を開いていこうと考えている。


 国王陛下からも許可が出ていることであるし、王城の中でお店が出来るなんてむしろ幸運なことだろう。


 来る客も王城で働く者か貴族であるから、問題も起こりにくい。


 そう思い、セオ様を安心させようともう一度口を開こうとした時であった。


 自分のお腹が空腹を訴える音を立て、私は思わずお腹を押さえて、恥ずかしさでうつむいた。


 こんな時にお腹が鳴るなんてと、恥ずかしくてたまらない。


 そんな私を見たセオ様は立ちあがると言った。


「この住まいはラフィーナ様の為に急ぎ建てられたものであり、備蓄庫に恐らく食材も入れられているはずです。確認してきますね」


「は、はい……あ、私も一緒に行きます!」


 私は恥ずかしいけれども自分が何もしないわけにもいかずセオ様について立ち上がると、セオ様は小さく笑い声をあげた。


「ふふ。すみません。なんだかラフィーナ様が可愛らしく感じてしまいました。では、行きましょうか」


「え? は、はい」


 さらりと可愛らしいと言われ、内心驚く。


 また、セオ様は普段の様子を知って、案外セオ様のことを何も知らないのだなと私は思った。


 食糧庫へと向かって歩くセオ様についていきながら、不思議な感じだなと思ったのであった。


 部屋の一番突き当りの奥に食糧庫はあり、中を開くと少しひんやりとしていた。


 魔法具の氷が運び込まれているようであり、中には野菜や肉なども保管してあった。


「よかった。色々ありますね。調理場を借りてもいいですか?」


「え? あ、はい。あの、でも……」


「どうしました?」


「私、すみません……料理作れないんです」


 今まで、神殿で食事は提供されてきたので料理というものをしたことがなかった。そんな私にセオ様は微笑むと言った。


「私が作りますから、大丈夫ですよ。では行きましょうか」


「え? は、はい!」


 セオ様は手際よく食糧庫から食材を取ると、それをもって調理場へと移動した。


「調味料なども用意されていますね。すぐ食べたいでしょうから、簡単に焼いていきますね。少しお待ちください」


「は、はい」


 セオ様は手際よく調理場で肉や野菜を焼いていくと、パンをナイフで切り、それを皿へと盛り付けていく。


 私は肉と野菜の焼ける匂いに、空腹を感じてお腹を押さえた。


 また音が鳴ったら恥ずかしすぎる。


「簡単なものですみません。どうぞ」


 机の上へと並べられたのは、塩コショウで焼かれた鶏肉であった。野菜は何かで和えられており、香ばしくて美味しそうな香りがした。


「食べてもいいのですか?」


「もちろんです」


 私は、神殿以外で食べるのは初めてだなと思いながら、ゆっくりとそれを口へと運んだ。


 その瞬間、柔らかな鶏肉の美味しさによって幸福に包まれた。


「おいしぃ……」


 セオ様は優しく微笑む。


「よかった。これからは、私がラフィーナ様の食事を用意しますね」


 私は、ハッとする。


 私は今、まさに胃袋を掴まれたのではないだろうか。


 先ほどまでは私はセオ様は元の側近へと戻った方がいいのではないかと、そう伝えようと思っていたのに、もぐもぐと咀嚼しながらその気持ちがしおしおと沈んでいく。


「私は料理得意なのです。趣味でして。あぁ、料理の他にも掃除洗濯、紅茶を淹れるのも得意です。あぁそうだ。お菓子作りも得意ですよ?」


 にこやかにセオ様はそう言う。


 けれど本来私は自分の感情をぎゅっと押し殺し、セオ様に尋ねた。


「ですが、ですが……セオ様は優秀な方です。私の傍にいるより、レオナルド殿下の元へと帰った方が、国の為にもなりますし、それに、それにセオ様の未来にとっては良いのではないでしょうか?」


 美味しいご飯は食べたいし、これまで日常生活を自分一人でしたことのなかった私としてはセオ様がいてくれた方がありがたい。


 けれどセオ様の未来がかかっているのだ。


 だからこそ私はそう言ったのだけれど、セオ様ははっきりと告げた。


「私は侯爵家の次男でして、爵位はもってません。だからこそ側近としての立場を大事にしてきました。ですが、もういいのです。今はラフィーナ様の役に立ちたいのです。もしラフィーナ様が将来、私のことを邪魔だと思うならばその時に言ってください」


 私はその言葉に、少し考えると、ゆっくりとうなずいた。


「では、私ここでお店を開くつもりなので、その手伝いをしてくれませんか?」


「はい。ラフィーナ様がされるのであれば、お手伝いさせてください」


 あっさりとそう言われ、私は驚いてしまう。


「本当にいいんですか?」


「もちろんです。ふふ。国王陛下もここで仕事をしても良いと言っていましたから、何でもできますね」


 あっさりと了承され、私は本当に良いのだろうかと思った時、家の扉が開き、私は一体誰だろうかと顔をあげると、そこには、顔見知りの男性が三人立っていた。


 そしてそれは、乙女ゲームの攻略キャラであり、元、私のお仕事相手の三人であった。


 これまでも様々な場面で出会っては仕事を共にしてきた。


 三人とも、乙女ゲームのキャラだけあって見目麗しい。


「ラフィーナ様、私と結婚してください」


「ラフィーナ。俺と結婚しよう」


「ラフィーナちゃん。僕と結婚しよ」


 突然の求婚に、私とセオ様は目を丸くしたのであった。


突然の求婚!

男性が三人求婚してくる……しかも職場の人間。現代で考えると、ホラー。


読んでくださる皆様に感謝です(*´ω`*)

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