27話
美しい花々がいたるところに飾られた会場では、楽しいひと時が続いている。
令嬢や令息達は楽しそうに踊り、皆が笑顔で、明るい雰囲気。
私はそれを眺めながら、こうやって皆が笑顔でいられるように聖女としての私の役割が貢献しているのかなと、少しだけ誇らしく思えた。
会場内を、私は皆に挨拶をしながら回っていく。
「大聖女様、ありがとうございます」
「大聖女様がいればこの国も安泰ですね」
「大聖女様! あぁ、お会い出来て光栄です」
歩いていくとたくさんの人々から声がかかり、私はそれに笑顔で対応していく。
そんな私の前に、正装姿のセオ様がやってくると一礼をし、それから私に向かって手を指し伸ばした。
「ラフィーナ様。少し休憩に行きませんか?」
私に向ける視線はいつもの穏やかなセオ様で、急に心臓が締め付けられるような感覚が訪れる。
ぶわっとあふれ出しそうな、その感覚に、自分が大聖女として皆から見られることに気を張っていたのだなと気づく。
セオ様が大聖女としてではなく、いつものように優しい瞳で見つめてくれた。
それにとてつもなく安心して、またいつものセオ様との日常に帰りたいと願う。
私がいたいと思う場所は、大聖女としての地位のある自分ではなくラフィーナとしての自分なのだなとはっきりとした。
「はい。セオ様」
セオ様の手を取り、私は一緒に会場を進み庭へと出た。
夜風が吹き抜ける。
心地の良い風を私は胸いっぱいに吸い込み、それから息をはいた。
「あちらに席を用意しています。行きましょう」
庭の方を指さしながらセオ様がそう言い、私はうなずくと一緒に歩いて行く。
本来の夜の庭というものは、おそろしいくらいに真っ暗だ。
前も後ろも自分すらも闇に溶けて見える。
だけれど、舞踏会の日には魔法具の光が灯り、幻想的な雰囲気を醸し出していく。
そんな庭の中に、明るく可愛らしい席が用意されていた。
「休憩用にと用意してもらいました。可愛らしい席ですね」
セオ様は椅子を引いてくれて、私は席に座ると目の前にはおいしそうなお菓子や料理が侍女達によって運ばれてくる。
飲み物はセオ様が入れてくれた。
舞踏会なのにいいのだろうかと視線を向けると、セオ様は微笑みながら言った。
「今の時間は皆さんそれぞれ楽しんでいるので大丈夫ですよ。ラフィーナ様もほとんどの方に挨拶は終わったでしょう? なので、少し休憩をしましょう?」
その言葉に、少しならばいいだろうかとうなずく。
これまでは舞踏会の間はおいしそうな料理を横目で見ていたものだが、今は目の前にある。
不思議な感覚でいると、セオ様も席に着きそして口を開いた。
「これまで、レオナルド殿下のことばかりで、自分の視野が狭かったのだなと反省しました」
「え?」
「ラフィーナ様、きっとこれまで食べたかったのに我慢してたのだろうなって思いまして。 ふふふ。なんだかラフィーナ様は本当に可愛らしい人ですよね」
「え?」
戸惑う私に、セオ様は優しく微笑むと言った。
「食べましょうか?」
「あ、は、はい」
私はドキドキとしながらも、こんなにゆっくりと舞踏会の料理を楽しむことが出来るなんてとワクワクとした気持ちであった。
そして一口食べて美味しさに驚く。
「んんんんー! 美味しいです」
私の声にセオ様はうなずくと言った。
「いつものラフィーナ様も可愛らしいですが、今日の聖女姿のラフィーナ様も大変可愛らしいです」
「んぐ……げほっ、げほげほ」
「飲み物をどうぞ」
「は、はい」
私は飲み物を飲み、どうにか落ち着くとセオ様を見つめた。
セオ様は両手をあげるとわざとらしく言った。
「すみません。つい可愛らしくて、抑えられませんでした。ふぅ。自制します」
「自制?」
首を傾げると、セオ様は困ったように言った。
「ラフィーナ様……あまり迫られるのお好きでないでしょう? すみません」
「あ、えっと、その」
たしかにこれまでの一件を見ていればそう思われても仕方ないかもしれない。
ただ、私としては、好きでもない男性にぐいぐいこられても怖いだけなのだ。
これが好きな人となると、話しは変わってくるわけで。
私は、ぐぅぅっと唇を噛んでそれから勇気を振り絞ると、一気に恥ずかしいことは終わらせてしまおうと口を開いた。
「わ、私は、その、私自身が好意を抱いていない人から、好きだとか結婚してくれだとかアピールされても、その怖いですけれど、ですがその、わ、私としては、好きな人に、こ、好意を、明確に告げてもらったり、そのたもろもろなんといいますか……う、嬉しいです」
最後尻すぼみに声が小さくなってしまう。
何といえば伝わるのか分からないけれど、この時の私にはもうすでにいっぱいいっぱいで、恥ずかしくてたまらない。
私がちらりとセオ様を見ると、セオ様は両手で顔を抑えて耳まで真っ赤にしながらうつむいていた。
「せ、セオ様?」
「すみません。あまりに、あまりに……ラフィーナ様が可愛らしくて」
「へ? えっと」
「すみません。私、こういうの慣れなくて……すみません。もっとかっこよく男性らしくリード出来たらいいのですが」
その言葉と照れている姿に、私の胸はきゅんとする。
なんだろうか。これまでの人生で男性をこんなにも可愛らしいと思ったことがあったであろうか。
ない。
私はドキドキとしながら、セオ様を見つめる。
「あ、あの……私」
セオ様とこれからもずっと一緒にいたい。
そう告げようとした時であった。
庭先からこちらへと歩いてくる人影が見えて、セオ様が席を立ち身構えた。
読んでくださる皆様に感謝です!(●´ω`●)
お出かけしたいですが、この暑さで、え? もう外に出ることすら無理では? となっています。





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