26話
聖女の頃、基本的には質素な生活だったので、舞踏会にお仕事として参加する時には、美味しい物をこっそりと持ち帰って食べられるかもしれないとわくわくしていた。
ただたいていの場合は聖女としての務めを果たさなければならないので、結局飲み物だけで終わることが多かった。
だけれども今回は食べ物以外に楽しみがある。
セオ様の正装姿を、私はこれまでちゃんと見たことがなかった。
それはそうだ。婚約者である男性以外をまじまじと見つめるわけにはいかず、またその当時の私は男性に興味がなかった。
ただ、自然に口にしてしまったあの日以来、セオ様のことが自分は好きなのだとはっきりと自覚してしまった。
常日頃のセオ様も素敵だけれど、舞踏会などで正装をしているセオ様を見る機会は少ない。
聖女の任が終わってしまえば、私はさらにセオ様の正装姿を見ることはなくなる。
今回が最後のチャンスかもしれない。
私はそう思って、今日はしっかりと目にセオ様の素敵な姿を焼きつけようと意気込んでいた。
「はぁぁ。ラフィーナ様、お美しいです」
「そう? ありがとう」
用意を手伝ってくれたソフィー様にお礼を伝える。
今回の舞踏会用に聖女のドレスとして用意されたものは国王陛下が用意してくれたものであり、袖を通した瞬間にその着心地の良さに私は驚いた。
決して派手なものではないけれど、品があり、聖女のドレスとしては相応しい雰囲気のものであった。
化粧もいつもであれば簡単にすませるのだけれど、気合を入れた聖女候補の皆の手によって私はいつもとは違ってしっかりと施された。
「ラフィーナ様素敵です」
「楽しんでくださいませ」
「はぁぁぁ。ラフィーナ様がお美しすぎて、そりゃあ皆様が心を奪われるのが分かります」
「ですよねぇ。わかります。ラフィーナ様ってお美しすぎるんですよ。それで優しく微笑まれたら、はぁぁぁ。勘違いする男性の気持ちもわかります」
そんな言葉を言われ、私は苦笑を浮かべた。
「皆さんに褒めてもらえて嬉しいわ。では、行ってまいります」
「「「「「いってらっしゃいませ!」」」」」
私は皆様に一礼をすると、神殿から王城に向かって騎士を伴って移動を始めた。
あの一件以来、聖女が行動するためにはその安全を確保することが決められ、私の移動には騎士が伴うことになった。
基本的にはセオ様が一緒にいてくださるので、セオ様がいる時には問題がないのだけれど騎士の方と一緒だと、何となく動きにくい。
仕方がないとはいえ、今後聖女の任を任される者は必然的に自由がさらに狭まるだろう。
安全のためとはいえ、自由がないというのはやはり生きにくいものだ。
舞踏会の会場についた私は、聖女専用の扉の前で待機する。そしてファンファーレと共に、扉が開き、私は中へと入った。
たくさんの拍手が鳴り響き、私は聖女としての微笑みを顔に貼り付けると皆様の方へと美しく一礼を行う。
聖女としての品格を落とさないようにと意識をする。
これは次代の聖女達の為の一つのパフォーマンスでもある。それから私は案内された席へと移動する。
聖女の席は基本的に王族の席の一段下にある、高い位置に設けられている。
舞踏会で聖女は踊ることはないため、案内された最初の席にて待機し、その後会場内を回り貴族の方々へ挨拶、挨拶が終われば席に戻るというような流れになっている。
いつもならば微笑みを携えて一定時間その場に座っているのだけれど、今日は出来るだけ早く挨拶を済ませて後はセオ様の姿を眺める時間に当てたい。
こんな機会はなかなかないのでと自分に言い聞かせるけれど、おそらく自分は今、初恋に浮かれている。
自分自身でも認めてしまうほどに、今恋というものに浮かれているのだ。
今では自分の元に毎日のように通ってきていたロンド様やパトリック様やアレス様の気持ちがよくわかる。
なんとなく三名には理想の女性ではなくて申し訳なかったなとたまに思うのだけれど、自分は自分である為にしょうがない。
セオ様はどこにいるかと、私は会場の中視線を彷徨わせていると、セオ様は少し遠い位置にいるのが見えた。
白色の衣装を身にまとったセオ様は凛々しくてかっこよく、私は、感嘆のため息を漏らす。
出来ることならばもう少し近くで見たい。
最近自分が少し気持ち悪くなる。だけれども、自分の中に生まれた気持ちをどうしても抑えられないのだ。
恋とはつくづく恐ろしいものだと最近思う。
その時、ひときわ大きなファンファーレと共に、国王陛下がご入場なさった。皆が拍手を送り国王陛下の方へと視線を向ける。
あごひげを撫でながら、国王陛下は姿勢を正すと挨拶を述べていく。
皆は頭を垂れ国王陛下の話を聞く。そしておおよそ話し終わったところで、国王陛下ははっきりとした口調で述べた。
「ここで、前任の聖女だったというのに、今回の一件にて聖女の任に戻ってくれた聖女ラフィーナに、感謝とその功績をたたえて、大聖女の名を贈ることをここに発表する」
「え?」
会場中に拍手喝采が起こる中、私は今言われたことの意味が分からずにいると、国王陛下はいつもは鋭い瞳を優しいものへと変えると言った。
「王国に功績を残した名誉職の名として大聖女を記す。ラフィーナ嬢、本当にありがとう。皆の者! 今回の被害が最小限で防げたのは、大聖女ラフィーナがいたからである。感謝の気持ちを込めて拍手を!」
その声に従い後押しされるように、拍手の音が大きく響き渡り始めた。
それと共に、人々の声も聞こえ始める。
「大聖女様万歳!」
「ラフィーナ大聖女様に感謝を!」
「大聖女様! 大聖女様!」
人々の声に私は戸惑う。
これまでこうした機会は一度でもあっただろうか。
私は心臓がばくばくと煩くなるのを感じて、口を開けては閉じてを繰り返す。
その時、国王陛下としっかりと視線が重なる。
私が驚いていると、国王陛下は優しく微笑みそして言った。
「聖女には本当に感謝をしている。ありがとう」
頭を下げてそう言われ私は首を横に振る。
皆からたくさんの拍手が送られ、私は戸惑いながらも、これまで頑張ってきて本当に良かったなと思ったのであった。
今回の大聖女の地位に関しては、決して仕事が割り振られるようなものではない。
名誉職であり、私にとっては誉の勲章のようなものであった。
「国王陛下に、感謝申し上げます」
私は一礼を深々と行うと、また拍手が巻き起こった。それが嬉しくて私は思わず会場の中にいるセオ様へと視線を向けた。
するとセオ様が私に向かって微笑んでくれたのが分かった。
「ありがとう、ございます」
私がそう言うと、会場がどっと沸いた。
「ラフィーナ大聖女様に心からの感謝を!」
「瘴気を払い、王国を守ってくださってありがとうございます!」
「ラフィーナ様、本当にありがとうございます!」
みながそれぞれに私に言葉を告げてくれるので、心の中が暖かくなる。
「ありがとう、ございます」
今までなかった私の居場所を、自分の力で作れたような、そんな気持ちがしたのであった。
皆さん!
暑いですね!!!
水分補給、塩分補給、睡眠!!!
この3つでどうにか夏を乗り切りましょう!!!





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