22話
婚約破棄をされた後は、私は置かれた場所で咲くしかないのだとそう自分に言い聞かせて暮らし始めた。
暮らしてみればセオ様との毎日は、穏やかでそして楽しくて、私は幸福な時間を味わった。
では、ここでも同じように出来るのだろうか。
自分の意思を持って生きることを諦めて、人形のようにルカ様の言うことを聞いて、ノエル様が行うはずの、聖女の仕事を行って。
私は生きていけば、それはそれで楽しくなるのだろうか。
そんなことを考えて、私は吹き出すように笑った。
眼前に迫ってきていたルカ様は首をかしげる。
「ラフィーナ? 何故笑うのです?」
「ふふふ。だって、おかしくって」
「おかしい?」
「はい。だって私、全く幸せじゃないんですもの」
「それは、どういう意味ですか?」
顔を歪ませたルカ様に、私は笑顔で答えた。
「そのままの意味です。好きでもない男性に、無理やり愛を押し付けられて、閉じ込められて、その上聖女の代わりに仕事をしろ? ふふふ。バカげています。ぜーったいに仕事はしませんし、ここから逃げ出してみせます」
私は勇気を振り絞ってそう告げる。
その瞬間、ルカ様の瞳がまが暗くなると、静かな声であったが威圧的に言った。
「ラフィーナ。あまり、僕を怒らせないで下さい。拗ねるのもいい加減に」
「ですから、まずそもそも、拗ねるとは? ルカ様とは神殿の仕事上のお付き合いです。好きではありません!」
「何をバカな! 私にいつも笑顔を向けてくれたではないですか! お仕事ご苦労様ですと言ってくれたではないですか!」
そんなことであれば、皆にしている。
聖女の務めでありそして社交辞令だ。そんなことで好かれていると何故勘違いするのだろうか。
「はっきり申し上げますが、社交辞令です。私はルカ様を愛していません!」
「何故ですか! ラフィーナ様は私を愛すべきです! これほど愛しているのですよ!」
「知りません! 私が、私が好きなのはルカ様ではなくセオ様です!」
その時であった。部屋の中が突然暗くなり、私のことを抑え込んでいたルカ様の体が離れ、そして私は誰かに抱き上げられた。
一体何が起こっているのだろうかと思っていると、悲鳴があがり、そして呻く声と、ノエル様の甲高い声が響き渡った。
私は何が起こったのか分からずに身を固くした。
誰なのだろうかという不安が過るけれど、その私を抱き上げる優しい手に、私は声をあげた。
「セオ様?」
「ラフィーナ様、お待たせいたしました」
暗転していた部屋が明るくなり、私は眩しさで目を細めた。
目を開けると、そこにはロンド様に押さえつけられるノエル様の姿と、部屋の端に押しやられ、剣を向けられるルカ様の姿があった。
私を抱き上げていたのはセオ様であり、私はセオ様と視線が合った瞬間に、ほっとして涙が溢れた。
「セオ様」
そしてぎゅっと抱き着いていると、ルカ様が怒鳴り声をあげた。
「ラフィーナから離れろ! この害虫が! 僕のラフィーナが汚れる!」
その声に、セオ様はハッキリと告げた。
「ラフィーナ様は誰の物でもない。黙れ」
「くそくそくそ! どうしてここがばれたのだ! ノエル様! ここは安全だと言ったではないですか!」
押さえつけられているノエル様は悲鳴を上げながら言った。
「離して! 私は聖女よ! 一体誰の差し金なの! ここは公爵家の保有する屋敷なのに! どうしてなのよ!」
その声に、ノエル様を押さえつけていたロンド様が声をあげた。
「公爵家の保有している屋敷を現在すべて確認させてもらっています」
「離して! ロンド様どうして邪魔するの!? 貴方は私の味方でしょう!?」
その言葉に、ロンド様は表情を歪ませると声をあげた。
「違います! 私は……たしかに貴方の恋に力を貸した。だけれど、それは貴方が本当に聖女の力を持っていると思っていたからです」
「た、助けて! ねぇ、レオナルド殿下を呼んで! 私の、私の愛しいレオナルド殿下を呼んでちょうだい!」
その言葉に、ロンド様は静かに告げた。
「……今回の一件にて、レオナルド殿下は現在王国騎士団に調書の為軟禁されております」
ノエル様の表情が一気に焦った物へと変わると声を荒げた。
「私のレオナルド殿下が軟禁!? 不敬ですわ! レオナルド殿下の所へと私を連れて行きなさい! ロンド様! これは聖女としての命令ですわ!」
その声に、セオ様が答える。
「今回の一件につきましては、国王陛下の名の元に早急に対処せよとのご命令です。また偽聖女ノエルを拘束、神官長を不正取引幇助並びにラフィーナ様誘拐、監禁の疑いで拘束します」
その言葉に、ノエル様は悲鳴のような声を上げ、そしてルカ様が声を荒げた。
「そんなのないわあぁぁ!」
「私とノエル様とは無関係です! それにラフィーナと僕は愛し合っているのだ! 誘拐でも監禁でもない! ラフィーナそうだと言ってくれ!」
私はその言葉にぶんぶんと首を横に振った。
「いいえ! ルカ様を愛してなどいません!」
「ラフィーナ……」
「ちょっと待って。私は公爵令嬢よ! 手荒な真似をしてもいいと思っているの!?」
セオ様は静かに言った。
「連れていけ」
「くそくそくそくそ! 僕は、僕は永遠にラフィーナと主にいるんだ。絶対に、絶対にだ!」
ルカ様は次の瞬間胸元から小瓶を取り出すと、それを地面に向かって叩きつけた。
「あははは! ラフィーナ一緒に死のう!」
狂気に満ちた声に、一体何を叩きつけたのかと皆が騒然となった。
小説書くの楽しいです(´∀`*)ウフフ





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