21話
私は呆然としてしまったのだけれど、このままではいけないと思い、どうにか話をまとめながら自分の現状を知ろうと声をあげた。
「今の話からして……ルカ様は、私をこの部屋に閉じ込め、そしてノエル様の行うはずの聖女の仕事をやらせようとしているのですか? 何故……何故閉じ込めるのです? それにどうして聖女の仕事を自らしないのですか?」
私の言葉に、ルカ様は困った子を宥めるかのように頭を撫でて言った。
「閉じ込めるだなんて、ここは私とラフィーナの愛の家ですよ? これから一緒にここでずっと過ごしましょうね。外の世界には出なくても、必要なものは全部僕が用意してあげますからね。愛していますよ」
うっとりとした視線でそう告げられる。そしてそんなルカ様を見つめていたノエル様は優しい微笑みを浮かべて呟いた。
「ルカ様も、初恋が実って良かったですねぇ。私も運命の恋の相手であるレオナルド殿下との恋が上手くいって良かったです。でもねぇ、私実は聖女の力は全然弱くて、候補もぎりぎりなれたんです。他の皆様に協力してもらって裏工作してどうにか聖女になれましたけれど、今後続けていくためにはラフィーナ様のお力が必要なんです」
悪びれる様子もなく、ノエル様はそう言うと、机の上に瓶を並べていく。
それは空になった、聖水の小瓶であった。
聖水の小瓶を私はガラス細工師に頼み、特注で作っていたので、たしかにそれは私の物なのだけれど、それは栄養補給水を作り始めてからの小瓶ではない。
昔の、聖女の時代に作った時の物だ。
「え? この小瓶……」
ノエル様は楽しそうな様子で話し始めた。
「実は、ラフィーナ様が作った聖水ルカ様がかなりの量保管してあったんです。ラフィーナ様の聖水を出来るだけ誰にも渡したくなかったのですって。でもねぇ、私の実家が神殿にたくさんの寄付をすることと、ラフィーナ様をここへお招きするお手伝いをすることを条件に譲っていただいたんです。うふふ。ほら、聖水って喉から手が出るほど欲しい人はいっぱいいますから、そうした方々には聖女の地位につくのを手伝ってもらったり王子妃になってから優遇してもらえるようにいろいろ手を回していましたの」
にこやかに話し終えたノエル様は、美味しそうにジュースを飲み、それから笑顔で言った。
「さて、では聖女の仕事はお任せしますね」
私はその言葉に反射的に首を横に振って答えた。
「嫌です」
「「は?」」
ノエル様と、ルカ様は驚いた様子でこちらを見つめていたけれど、私からしてみればどうしてそのような顔をするのかが分からない。
私はもう一度言った。
「お手伝いはしません。私をここからだしてください」
真っすぐに私がそう言うと、二人はしばらくの間沈黙した後に、大きくため息をついた。
「もう。ラフィーナ様ってばおちゃめさん。ルカ様。よーくラフィーナ様を甘やかしてさしあげてね。それからたくさん愛を伝えて、聖女としての仕事をする必要性を話してくださいませね。お二人が一緒にいる為ですからね」
「ああ。分かりました。ラフィーナはまだ恥ずかしがっているのでしょう。これからたっぷりと愛情を注ぎ、可愛がってあげましょう。そうすれば、私の愛を受けて手伝ってくれるでしょうから」
頭がおかしいとしか思えない会話に、私はこれからどうするべきだろうかと必死で考える。
きっと助けは来てくれるはずだ。
セオ様ならば私がいなくなったことを不審に思って探してくれる。
「私は手伝いません。あの、先ほどから愛とおっしゃいますが、私はルカ様を愛してはおりませんし、それにきっとセオ様が私を見つけてくれるはずです」
そう伝えると、先ほどまでは笑顔だったルカ様から表情が抜け落ちる。
ぞっとするほどの暗い瞳で見つめられ、私は驚くと、ノエル様が言った。
「あー。だめですよ。ほら、ルカ様ってばラフィーナ様大好きですから、ラフィーナ様の口から違う男の名前が出るだけで不愉快になるんですよ」
そんなの私の知ったことではない。
「ラフィーナ。まだ拗ねているんですね。大丈夫。安心して。愛しています」
迫ってくるルカ様の顔に、私はひっと悲鳴を上げて、怖くて丸まった。だけれども、腕を掴まれ体を開かれ、顔が近づいてくる。
「や、やめて」
怖い。
「大丈夫。愛しています」
愛とはいったい何なのだろうか。
他人から押し付けられるものが、愛なのだろうか。
父には愛されず、レオナルド殿下には捨てられ、そして私を好きだと言う男性は皆、本当の私という物を見ておらず、幻想だけで愛を告げてくる。
ルカ様はどうなのだろうか。
私の何を愛しているのだろう。
ここへ閉じ込めて、何がしたいのだろう。
私はそう思った。
あっついですねぇ!
皆様水分取ってくださいね(*´▽`*)
 





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