20話
雨の音で、私は目を覚ますとずきずきと痛む頭を押さえて起き上がった。
眩暈がして、私は瞼をぎゅっとつむるとゆっくりと開き、辺りを見回した。
そこは薄暗い部屋であったけれど、清潔感のある、可愛らしい部屋であった。化粧台や机やソファもあり、本棚には様々な本が並んでいる。
ただ、普通の部屋とは違うのは、扉はなくて、格子がはめられているというくらいのことである。
つまりここはどんなに綺麗に整えられていようとも、牢屋の中であるという事実は変わらない。
「……ここは」
辺りを見回すけれど、誰もいない。
私は外に出られないものかと立ち上がった時であった。
じゃらりと音がしたかと思い、視線を音のした方へと向ける。
「え……」
足には鎖がはめられている。冷ややかなその感触に私はぞっとしながら鎖を引きずり格子の所へと向かう。
「誰か、誰かいませんか?」
声を上げるけれど、そこには誰もいない。暗い空間に、私の声だけが響いて聞こえた。
「はぁ。私、どうしてこんなに思い出すのが遅いのかしら。意味ないじゃない……」
どうしようかと思いながらそう呟いた時であった。
暗い中に足音が響いて聞こえ、こちらに向かって誰かが来る気配を感じた。
私は一体誰だろうと暗闇に向かって目を細めると、そこには可愛らしい女性がこちらに向かって楽し気な様子で歩いてくるのが見えた。
「……ノエル様?」
「あら、目が覚めたのですか。丁度良かった。差し入れを持ってきましたの」
「え?」
「うふふ。お邪魔してもかまいませんか?」
そういうと、レオナルド殿下の現婚約者であり聖女のノエル様は持っていた鍵でがちゃりと鉄格子の扉を開けると、中に入ってきた。
手には籠が持たれており、ノエル様はそれを机の上におくと、可愛らしいテーブルクロスをそこに敷き、飲み物を準備していく。
「ねぇ。わたくし、こうしたこと慣れませんの。手伝ってくださらない?」
「……どういうことなのですか? 説明してください」
「はぁ。まぁ別にかまいませんけれど。あ、ほら、ルカ様も来ましたわ」
私が身を強張らせて振り返ると、そこには嬉しそうに笑みを浮かべたルカ様がいつの間にか立っていた。
私は怖くて距離を取ろうとするけれど、ルカ様の腕の中に抱き入れられ、そして軽々と抱き上げられるとそのままソファへと腰を下ろす。
私は膝の上に乗せられ、恐怖で体が震えた。
「あぁ。すみません。怖がらせてしまいましたね。大丈夫。ここにはラフィーナを傷つける者はいませんよ」
突然名前を呼び捨てられ猫なで声でそういわれ、ざわりと背筋に鳥肌が立つ。
「離してください」
怖くて声が震えながらそう告げると、頭を撫でられ始め、私は意味が分からずに体が強張る。
「あぁ。待たせすぎてしまったから、拗ねているんですね。ごめんごめん。でも、もう大丈夫ですよ。ほら、ラフィーナの家が完成しました」
「あぁもう。いちゃいちゃは後でしてください。はぁぁ。わたくしがなんで飲み物準備しなきゃいけないのかしら。まぁいいわ。うふふ。クランベリージュースを持ってきたの」
「あぁ。美味しそうですね。ほら、ラフィーナ。飲もうか」
コップに注がれたジュースを、ルカ様が私の唇に押し当ててくる。
私は怖くて一口どうにかそれを飲むと、嬉しそうにルカ様は微笑みながら言った。
「あぁ。やっと夢が叶った」
ぎゅっと抱きしめられ、私は小さく悲鳴を上げる。
「お、お願いします。離してください。ルカ様、一体、どういうことなのですか? わ、私、怖いです」
そう告げると、ルカ様は困ったように微笑みながら話し始めた。
「レオナルド殿下と婚約破棄後、本当はすぐに迎えたかったのですが、この部屋の準備が整っていなかったので時間がかかったのです。そしてやっと整い、貴方を迎えに行ったら、あのセオ殿に邪魔されてしまいましてね」
「え?」
私は驚き顔をあげ尋ねた。
「あれは、保管庫の……栄養補給水を盗みに……では、なかったのですか?」
その言葉にルカ様は首をかしげて言った。
「栄養補給水? あぁ、貴方が作った聖水ですね。あれは先にノエル様に渡しておこうと運び出そうとしていただけです。本当の目的は貴方でした」
「え……私? 私を、連れ去ろうと……していたということですか?」
「連れ去る? ははは。やだなぁ。迎えに行っただけですよ?」
瞳を細めて、私をじっと嬉しそうにルカ様は見つめる。そして楽しそうな声で言った。
「だけれどね、邪魔されたのです。殺せればよかったのですが、死ななかったようで残念です」
「何を……」
「私のラフィーナに、べったりとくっついていた悪い虫。あのように不快な虫、早く排除しなければなりませんね。大丈夫。早々に駆除しますからね」
「本当に邪魔よねぇ。あーでもやっとこれで、レオナルド殿下に怒られずに済むわ! ここ最近、聖女の仕事をしろ、妃教育を受けろってうるさくって。でもこれからは聖女の仕事は五年間はラフィーナ様がしてくれるし、それが終わったら次の聖女に引き継げば問題なしね」
「えぇ。ラフィーナに仕事をさせるのは少し忍びないですが、ですが、仕事があったほうが生活にメリハリは出るからいいでしょう」
「そうよねぇ。私、毎日忙しいから助かるわ」
一体何の話をしているのであろうか。
私は呆然としてしまった。
皆様熱中症などお気を付け下さいませ!(*´▽`*)
 





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