19話
レオナルド殿下が出て行ってから、セオ様はため息をつくと言った。
「今回の一件、内密にしておくことはできません。レオナルド殿下はあぁ言いましたが国王陛下にはご報告をしなければなりません」
「そう、ですよね」
「はい……」
セオ様は大きくため息をつき、それから視線を私に向けて言った。
「大丈夫ですか?」
そう尋ねられ、私はセオ様に瞳を真っすぐに見つめられながら、これは心配されているのだなと思った。
これまで人から心配される経験というものが乏しい私は、セオ様のこうした気遣い一つ一つがくすぐったい。
「大丈夫です。私よりもセオ様の方が大きな怪我を負ってしまって……本当に治って良かったです」
「ラフィーナ様のおかげです。……ラフィーナ様、今回の一件、正直な気持ちを教えていただいても良いですか?」
その言葉に、私は視線を彷徨わせた後に、小さく息をつく。
「そう、ですねぇ……驚きと、疑問と……ですかね」
「詳しくお聞きしてもいいですか?」
セオ様の言葉に私はうなずくと、先ほどまでレオナルド殿下が座っていた位置を見つめながら呟いた。
「レオナルド殿下が……聖女様を愛しく思うことはわかりますが……それでも今回の一件は決して内密に処理してよいことではありません。そして聖女様については、聖水も作れない人が何故聖女になれたのだろうかと、疑問に思いました」
私の言葉にセオ様もうなずく。
「レオナルド殿下については、私も驚きました。また聖女様については神殿は、一体どうなっているのでしょうか。聖女の存在は神殿を存続させるためには必要不可欠なはずです。それなのに……どうしてノエル様を聖女に? レオナルド様からの命令であろうとも聖女を勝手には決められないと思うのです」
それはそうだろう。
私は以前感じた神官長であるルカ様の様子について口を開いた。
「私が婚約破棄の件をルカ様にお伝えした時、神官長のルカ様は驚いている様子はありませんでした。ですから、ご存じだったのではないかと思ったのです」
「神官長様が? それはどうして……とにかく、私は一度調べてきます。ここは安全ですから今日はこの部屋でゆっくりとしていていただけますか?」
セオ様にそう言われ、私はうなずいた。
「わかりました。セオ様ありがとうございます」
「いえ。では行ってまいります」
「お気をつけて」
セオ様はその後すぐに部屋から立ち去り、私は部屋の中に一人になる。
することもないので、侍女の用意したサンドイッチを食べようと口へと運んだのだけれど、私は一口食べて、手を止めた。
美味しくないわけではない。王城の料理人が作った物であるから、美味しい。
だけれども、セオ様の作ってくれた手作りのサンドイッチの方が何倍も美味しく感じられた。
「大丈夫……かしら」
私は心配になり、じっとしていられずに立ち上がった時であった。
部屋がノックされ、視線を扉の方へと向けると、部屋の中に先ほど話をしていたばかりのルカ様が現れたのである。
一体どうしたのだろうかと思いながら、私は挨拶を口にする。
「ルカ様? お久しぶりでございます」
「ラフィーナ様。お待たせしてしまってすみません」
「え?」
「やっと準備が整いましたので、お迎えに来ました」
突然の言葉に一体なんだろうかと思った時であった。急に眠気が訪れ、私はふらりと体をぐらつかせた。
そんな私のことを、ルカ様が抱きとめる。
そして私のことを、恍惚とした表情で見つめてくる。
「あぁ、やっと手に入れた」
その時、私はハッと思い出す。そう言えばこの世界は乙女ゲームの世界であったと。
そして神官長のルカ様は隠しキャラであったということを。
「ルカ……様?」
私は輝くルカ様の瞳を見つめながらぞわぞわとしたものを感じる。
「愛しいラフィーナ様。一生大事にいたします」
そして隠しキャラのバッドエンドはヒロインの監禁ルート。私はそんなことを何故今思い出してしまったのだろうか。
いつも思い出すのが遅い。
私は遠ざかっていく意識の中、そう思ったのであった。
楽しんでもらえたら嬉しいです(●´ω`●)





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