16話
すっきりと晴れた青空の広がる日、私は庭で育てていた薬草を朝一で収穫をすると、それを天日干しするために準備を進めて行く。
家の中にはすでにセオ様がおり、朝食の準備をしてくれている。
最近では一緒に朝食をとってから働き始めると言うのがいつものルーティーンになっていた。
腰をずっと曲げていたので、私は大きく背伸びをすると、草と土の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「気持ちのいい天気ね」
青い空から降り注ぐさんさんとした太陽の光を全身で浴びながら、私はもう一度深呼吸をすると薬草を干してから手を汲んでおいた井戸水で洗い、家の中へと入った。
家の中に入ると、焼き立てのパンの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「はぁぁぁぁ。良い香り~」
「ラフィーナ様。お疲れさまです。もうすぐできますよ」
「あ、運ぶの手伝います。いつも朝食の準備ありがとうございます」
「いえ、作るの好きですから」
私達はお互いに手伝いながら朝食を食べる準備をすると、向かい合って席に着き、朝食を食べ始めた。
焼き立てのパンに、ベーコンとトマト、それに昨日収穫した野菜が並ぶ。
新鮮なものを新鮮なうちに調理して食べる。それはとても幸福なことなのだと、私は最近になって良く思うようになった。
聖女は質素倹約の生活であり、贅沢をすることはなかった。だから、何を食べても味気なくそれでいて、それが繰り返されると食欲すらもなくなっていく。
だけれども、ここで暮らすようになってから私は変わった。
朝起きて一仕事をしたらとてもお腹がすいている。朝食が待ち遠しくて楽しみでならない。
こんな日々が訪れるなんてと、昔の私ならば想像もしなかっただろう。
少し前までは、ロンド様やパトリック様、アレス様が誰も来ない時間には現れるのではないかと思っていたけれど、あれ以来三人がここに顔を出すことはなかった。
しばらくの間私は、三人に対して失礼だっただろうかと思ったり、嫌な思いをさせてしまって申し訳なかったななんて考えていた。
それをセオ様に伝えると、好意を返せない以上は仕方がないので、むしろその方が相手にとっては良いのではと返された。
婚約はしたことがあっても恋愛なんて経験もなかった私にとっては、そういうものなのかなと思った。
三人がこなくなると、必然的に二人きりの時間が増えていった。
穏やかで、他愛のない会話をしながら一日が始まり、そしてお客さんを出迎えていく。
お客さんが来る時間もまばらで、昼食をやっているわけではなく、基本的に飲み物と薬だけにしているので忙しすぎることもない。
時間の流れが穏やかで、私はなんて幸せなんだろうかと思った。
幼い頃のように、生きるためにびくびくとする必要もない。
聖女の時のように、毎日の仕事の量に忙殺されることもなく。
地に足をつけてしっかりと生きているという感じがした。
一日がゆっくりと流れていき、太陽が傾き始めるころに店を閉める。そしてその後はセオ様と談笑しながら一緒に晩御飯を作り、食べて、そして栄養補給水作りを始める。
セオ様はやはり心配なのでと、陰からではなく今では私が栄養補給水を作る横に椅子と机を持って待機するようになった。
ちなみに私が栄養補給水を作る位置には、セオ様が木で小さな桟橋を作ってくれて、そこにラグとクッションを置いてくれた。
格段に座りやすくなり足が痛くなくなった。
そして、ここ最近栄養補給水の威力が以前よりも良くなっているように私は感じていた。
「ふぅ……出来た」
出来上がった量も以前よりもかなり多い。
最初こそ、良質なものが出来るならいいかくらいだったのだけれど、これは大丈夫だろうかと最近思い始めている。
「終わりましたか?」
セオ様はやってくると、私の表情を見てから栄養補給水を見つめる。
「もしかして、また質が上がっていますか?」
私はうなずいた。
「はい。そうなんです……」
「ふむ。では飲み物に混ぜる時にはもう少し薄めないといけませんね……あと、少し実験をしてもかまいませんか? 一応効能を把握しておきたくて」
「はい。あ、以前までの効能でしたらまとめているノートがあります」
その言葉にセオ様は優しい瞳で私を見つめると言った。
「ラフィーナ様は本当に丁寧に仕事をされますね。素晴らしいです。そのノートをまた明日にでも見せてもらってもいいですか?」
トクンと何故か心臓がなり、私はこの気持ちは何かなと思いながらもうなずいた。
「はい。分かりました」
「では、今日はこれでおやすみなさい。栄養補給水は保管庫の方に運んでおきますね」
「ありがとうございます」
栄養補給水を作った後は疲労感を伴うこともあり、セオ様はいつもそう言って運んでくれる。
とてもありがたいなと思いながら、こんなにセオ様に甘えてもいいのだろうかと思う自分もいた。
セオ様と別れ、私は夜の仕度を済ませていく。
そしてベッドへと入った私は天井を見つめながら瞼を閉じる。
「何だろう……すごく幸せ」
平穏で穏やかな日がとても幸せで、私は瞼を閉じる時も陰鬱に昔のことを思い出すことが少なくなっていった。
思い出すのは今日のセオ様に作ってもらった美味しいごはんと、穏やかな一日だけ。
「おやすみなさい」
そう小さく私は呟きながら、夢の中へと落ちていった。
翌日、保管庫に片づけていた栄養補給水がごっそりとなくなっているなどとは、この時の私は思ってもみなかったのであった。
栄養補給水欲しいです(●´ω`●)
全回復したい。
最近、朝目覚めてもHPが70%くらいなのですが。Maxまで回復したいです。





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