15話
呆然とし目を丸くする四人を見つめながら、私は静かに話始めた。
「私、ここで新たに人生をやり直したいと思っています。聖女ではなくラフィーナとして、頑張っていこうと思っています」
その言葉に、食いつくように三人が声をあげる。
「私に手伝わせてください!」
「俺だって君のためなら何でもできる」
「僕が魔法で手伝ってあげるよ!」
三人の言葉に、私は笑顔で答える。
「結構です。何度言っても分からないようなので、はっきりとお伝えしますね。皆様が好意を寄せる女性は聖女ラフィーナであり、私ではありません。三人とも、私と仕事をしている時に好意を抱いていただいた様子ですが、聖女として働いている時の私は、効率的に人をどう助けるか、また何を優先すべきかを念頭に置いて働いています。相手からの好意をあまり意識したことはありませんし、はっきり言ってそれは聖女の仕事だからやるだけであって私自身が本当にやりたかったかと問われれば違うと答えます」
私がそう告げると三人は言った。
「この想いは本物です!」
「俺だって」
「僕だって、ラフィーナちゃんを本当は攫いたいけれど我慢したんだよ!」
私は首を横に振ると言った。
「私、私生活はけっこうずぼらなんです。自分のこともまだ自分でできなくて、セオ様に教えてもらいながら頑張っています。昨日も鶏肉を焦がしました」
「「「え?」」」
「仕事も、出来るならのんびり忙しくない程度にしたいんです。毎日頑張りたくありません。夜は8時間はずっと眠っていたいし、休日はごろごろとして何もしたくありません。お化粧もおしゃれもそんなに好きではありませんし、髪の毛を梳かすのすら面倒くさい時があります」
三人は驚いた様子のまま固まっている。ちなみにレオナルド殿下も同じような顔をしている。
「皆様、私に幻想抱いていますよね? 一生懸命で健気で自己犠牲する聖女みたいな」
一瞬セオ様が吹き出しそうになるのを手で押さえたのに気付いた。
ちらりと見ると、少し笑うのを堪えている。
そうなのだ。私でも笑ってしまいたくなるけれど、この方々には現実を知らしめなければいけないと思った。
「仕事の時の私は忘れて、今の私を見て、好きだって言えます? 私、皆様に尽くすような甲斐甲斐しい女ではありません」
三人は何といっていいのか分からない表情を浮かべており、私は一人一人に言った。
「ロンド様、私のどこが好きです?」
「えっと……だ、誰にでも優しくて、分け隔てなく、救ってくれる……」
「聖女の仕事なので笑顔で優しくしないとクレームが来ます。分け隔てなくも同様でえこひいきしたと言ってくる人がいるので、丁寧に甲斐甲斐しくなります。ですが常日頃の私は人間と適度な距離感を取って生きていきたい派です」
「あ……」
ロンド様が黙ったので私はパトリック様へと視線を向ける。
「パトリック様は私のどこが好きですか?」
「俺は、仕事をテキパキとこなし、いつも迅速に適切な対応をする姿が……」
「馬車馬のごとく働いていたので、やらないといけないことが多すぎて最短で仕事を終わらせる方法を必死に探して行っていました」
「あ……だ、だけれど真面目な君も君だろう!」
「はい。でも、ぐーたらしたいという私もいます。パトリック様、貴方様が忙しい時に、ソファでごろごろする私がいても、大丈夫ですか?」
「あ……それは」
私は視線をアレス様へと向けると、アレス様は自信満々な表情で言った。
「僕はどんなラフィーナちゃんも好きだよ!」
私は、静かに素直に思っていたことを言った。
「私、甘えられるより、甘える派なんです」
「え?」
「甘えられても、こうどうしたらいいのか……相性が多分悪いかと思います」
「え!? 甘えさせてもらえないってこと……それは……ちょっと」
アレス様にとってはかなりのポイントだったのだろう。それから黙ってしまった。
微妙な雰囲気が部屋の中に流れていく。
私がふっているはずなのにふられているようなこの雰囲気は何なのであろうか。そう私は内心思った。
私はため息をつくとレオナルド殿下の方へと視線を向けた。
「先ほどお怒りだった様子ですが、あとは皆様でお話しください。私はすでに元聖女であり、レオナルド殿下の元婚約者です。ノエル様についても早急にそちらで対処すべきかと。私には無関係なことでございます」
真っすぐにそう伝えると、レオナルド殿下は唇を噛み、私のことを真っすぐに見つめると口を開いた。
「私は……私を皆で止めていたら、能力のないノエルとは、婚約しようなどとは思わなかっただろう」
その言葉に、私は真っすぐ言葉を返す。
「そうですね。周りが悪かったのですね。ですが、婚約破棄はすでに成立されて私は元聖女。王子殿下が元婚約者の元へ来ることはよくは思われません。もうここへ来るのはおやめください。それは皆様もです」
私がそういうと、レオナルド殿下が立ちあがり、無言で扉から出て行った。
それに続いて三人も出て行く。
カランコロンと音を立てて扉が閉まるのを見つめた。
そして私は椅子にぐったりと座り込んだ。
「はぁぁぁぁ。疲れました」
セオ様は微笑み、私に新しい紅茶をいれなおし、それからクッキーも出してくれた。
「おつかれさまでした」
「はい。ありがとうございます」
やっと、大きな問題が一つ解決したような気がした。
セオはいい男ですわ(´∀`*)ウフフ





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