13話
雨がしとしとと、大地を濡らしていく。
久しぶりに降る雨に、緑は生き生きと輝き、窓の外を眺めながら私は棚の中に薬を片付けていく。
最近ではセオ様と共に騎士団に薬を提供するようになったり、王城で働く女性達が主に休憩をしに紅茶を飲みに来たり、体調が悪いと相談してもらいそれに対応するようになった。
私の場合は医者ではないので、調合した薬草を茶葉にして、それを渡すようにした。
「ラフィーナ様のおかげで最近体調がいいんです」
「ここで調合してもらった紅茶を飲むと、体が軽くなります!」
そうした声を聴くようになると、嬉しくなり、私も少しは役に立っているのかなと感じることが出来た。
男性はお店の外観が可愛らしいからか、入ってくるのに勇気がいるようで、人のいない時間を狙ってくる人が多い。
「ここの紅茶を飲むと、昨日までの悩みが吹き飛んで体が一気に軽くなります」
「あ、僕もです。さすがはラフィーナ様が作った紅茶だ」
感慨深げに男性客は呟きながら、疲れが溜まったら来るという人が増えた。
私の家は、調合紅茶店のような形となった。
紅茶の中に栄養補給水を少量混ぜており、薬草との相互効果もあり皆元気になって帰っていく。
今日は雨なので人はほとんど来ることはなく、私とセオ様はのんびりと自分達も紅茶を飲みながら片づけや薬づくりなどをして過ごしていた。
あの日から、セオ様との関係はそこまで変わっていない。ただ、一緒にいると、心は穏やかで以前は夜になると思い出してしまっていたことも、思い出すことなく眠りにつくことが出来るようになった。
不思議なもので、セオ様と一緒にいると心が軽くなる。
聖水について、私は聖女の頃作っていたものの行方についてセオ様が疑問に思う点があったらしく、現在調べてもらっている。
私はそうした管理は神殿に任せていたので、一体どうなっているのだろうかと首を傾げた。
聖水についてはルカ様が保管し、どこに配給するかも管理していたはずだ。
ルカ様はいつも親切に接してくれた神官長様であり、私が話をする時にはいつも穏やかに微笑みを携えて聞いてくれたのが印象的であった。
ちなみに、人がいない時間を狙っているように、ロンド様とパトリック様とアレス様は揃って現れる。
三名は今日も人気のない時間にやってくると、笑顔で私の方へと向かってきた。
その手には最近必ずプレゼントなるものが握られており、私は眉間にしわを寄せてしまう。
はっきりと言ってそれを受け取る理由が私にはないのだ。
「これ、ラフィーナ様に似合うと思って」
「最近の流行りのものなんだ」
「ラフィーナちゃん。受け取って!」
そういってくる三人に、私は小さくため息をつく。
「皆様、プレゼントは受け取れません」
はっきりとそう言うと、最初の頃こそしつこく渡そうとしてきた三名だったけれど、早々に諦めると席に着き、セオ様に声をかける。
「いつものをお願いします」
「俺も」
「僕も~」
私は三人とも仲がいいなと思いながら、三名がさりげなくカウンターの所に置いたプレゼントを、三人の座っている席へと持っていく。
「私は皆さんからもらう理由がありません」
そう告げると、三人は困ったように笑う。
最近、何を言ってもしょうがないなというような雰囲気で微笑まれるので、少し気持ちが悪いとすら思ってしまう。
私はここはセオ様に接客を任せて奥で薬を作ろうかなと思った時、三名は私に向かって話始めた。
「ラフィーナ様、ここでの生活は慣れて来たようですね」
「うんうん。お店にもだいぶ人がくるみたいだし、良かった」
「本当に。でももし働きたくなかったら僕のお嫁さんに来て下さい」
私はいい加減にしつこいなと思い口を開いた。
「あの、何度も言っているのですが、私は皆様の誰とも結婚するつもりはありません」
そう告げると、三人は驚いた表情を浮かべた後に立ちあがり、私の方へと来ると言った。
「ラフィーナ様。どうして、どうして私の想いを分かってくれないのですか」
「俺だったらあなたを守れる。結婚してくれ」
「ラフィーナちゃんはさ、僕の良さをまだ分かっていないんだよ」
セオ様が止めに入ろうかと立ち上がるけれど、私はそれを制して、はっきりと告げた。
「そんな風におっしゃいますが、皆様、何故では一人では私に会いに来ないのですか?」
三人は、その言葉に動きを止めた。
真っすぐに私は三名を見つめながら告げる。
「三名でいつも揃って、プレゼントを持ってきて、私の機嫌を伺って……求婚してくることもありますが、大抵は仕事もセット。皆様……私のこと、もしや使える道具とでも思っていませんか?」
そうなのだ。
結局のところ最近三名は求婚のような言葉を並べながら私にノエル様の仕事を押し付けようとしてくるのである。
それが続けばいくら私にだって分かる。
「……私は都合の良い時に仕える道具ではありません」
そう告げると、三人は慌てたように声をあげた。
「違います! ラフィーナ様を愛しているこの気持ちは真実です! ただ、ノエル様が不出来で聖女には相応しくないと分かれば貴方を聖女に戻そうとしてくる者が絶対に現れる! それを防ぎたいのです」
「そうだ。それに、ラフィーナが俺達の誰かと結婚しさえしてくれれば、こんな回りくどいことしなくてもいいんだ」
「僕の物になってくれるなら、すぐにでも結婚して連れ去って、隣国で暮らそう。そしたらノエル様の仕事を押し付けるような真似なんてしなくてもいいんだ!」
私は一体どういう事だろうかと思いながら、尋ねた。
「ノエル様が、不出来? ちょっと待ってください」
額に手を当てながら、意味が分からずにいた時であった。
カランコロンと音を立てて、ドアチャイムの音が鳴り扉の方へと視線を移すと、そこには顔色の悪いレオナルド殿下が立っていた。
突然のことに私が体を強張らせると、すかさずレオナルド殿下の前へとセオ様は向かった。
「殿下、一体どうしたのですか?」
「お前ら、お前ら、ふざけるなよ」
突然怒鳴り声を上げ始めたレオナルド殿下に私は驚き、一歩後ろへとさがった。
怖い。
そう思った時、レオナルド殿下が声を荒げた。
「お前ら笑っていたんだな。私とラフィーナが婚約破棄をスムーズにできるように協力をして、そして、心の中で笑っていたんだな!」
呟かれた言葉の意味が分からずに、私は呆然としてしまう。
「協力?」
呆然としながら私がそう呟くと、しまったと言わんばかりに三人は慌てた様子に変わり、私はだんだんと何が何だか分からずに怖くなっていく。
感情が現状に追いつかない。
「待ってください。一体、何なのですか。ここは、ここは私の家です! ちゃんと話が出来ない人は帰ってください!」
怒鳴り声を、感情を爆発させるように叫ぶと、皆が驚いた表情で固まった。
そんな中、セオ様はため息をつくとお店の看板をクローズに変え、家のカーテンを閉めていく。
それから、四人をテーブル席へと促した。
「落ち着いて喋れる方は席へ。喋れない方はお帰り下さい」
四人は一瞬戸惑ったものの、静かに席へと腰掛けたのであった。
いつも読んでくださりありがとうございます!
ブクマや評価をつけていただけると、飛び上がって喜びます!
どうかよろしくお願いいたします(*´▽`*)





/comics/image_urls/2290/13facb190a3e55c62868758d96d792f06467243a.png)