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総督府襲撃事件

前回の投稿から何ヶ月も遅れてしまいました。

本当にすみませんでした

 あれは、母さんが死んでからおよそ半年後の、年が明けて間もない満月の夜だった。


 度重なる暴動にたえかねた総督府は、レグナスさん率いる勇者パーティに解散を言い渡した。

 そして、次の勇者を選ぶ勇者選挙で、あのカーン・カラヤンが他2人の候補をぶっちぎって、得票数84%という快挙を成し遂げた。

 このユートピア直轄国の国民のほぼ全てが、この革命もどきとしか言いようのない出来事に歓喜していたように思う。


 今、俺はパーティ会場に忍ばせた使い魔を通して、新しい勇者の勝利を祝うパーティを監視していた。


「さて、我らが新たな勇者、カーン・カラヤン様のご入場です!」


 勇者就任を祝う会場で、ステージの上にカーンが上がる。

 喜色満面の笑みを浮かべたカーンは、壇上でスポットライトを四方八方から浴びながらマイクを手に取る。


『はい、皆さんご注目! 私カーン・カラヤンは国民の支持を受けて、見事勇者に任命されることが決定しました! そう、異界の勇者様の国の勇者です! はい拍手!』


 調子のいいカーンの呼びかけに、会場から拍手が巻き上がる。

 既に酒が入っているのか、ワイングラスを片手に顔を赤らめてふらついている。


『いやー、あの毒婦ルナが殺されてからというもの、快挙快挙の連続でしたよ! みんな勇者……いや、元勇者レグナスやめろやめろってデモを繰り返して、とうとうあいつも堪えられなくなって辞めちゃったんですから! 本当言うことなしですよ!』


 緩みきった顔で、壇上に立って言いたい放題していやがる……。

 こいつの周りではしゃいでる奴らにも言えることだけど、本当にどれだけの悪事をやってるかわかってないんだな。


『みなさんわかりますか? 僕はですね、異界の勇者様が治めた国の勇者になったんですよ! これってすごいことですよね! ね!』


 カーンは半分理解していないかもしれないが、このユートピア直轄国の勇者はあくまで勇者に過ぎないのであって、『異界の勇者』の後継者ではない。


 この国は『名もなき魔王』が討たれた後、勇者連合による苛烈な破壊、略奪、強姦、虐殺の限りを尽くされた。

 ちなみに、それらの蛮行に参加した者の中には、魔王を疎ましく思っていた地下組織『救星団』や、魔王軍が負けた途端掌を返したオーク……後に『スナガ団』の前身となる武装集団も含まれていた。

 それを憐れに思った勇者様は、自らがこの国の統治者となることで、勇者連合軍による蛮行を止めさせた。


 それ以来、この国は「勇者様の直轄地」という意味と、魔王からの決別という意味を込めて『ユートピア直轄国』という名前に変わった。

 ちなみに、それから5年ほどで勇者様はもとの世界へとお帰りになられたので、総督府が勇者様の代理として政務を務めている。

 それに伴い、各国に勇者が任命されているのと同様に「ユートピア直轄国の勇者」も任命されるようになった。


 あれだけレグナスさんに「お前は異界の勇者様とは関係ないんだぞ!」などと揶揄しておきながら、自分は異界の勇者の代理人かのように振る舞うあたり、こいつの自分を客観視する能力の欠落が見てとれる。


「ドウサン、下がってろ」


 俺はパーティ会場のダクトに潜ませていた、使い魔の一体である蛇に呼びかける。

 そして、オリーブ色のマスクとフードとで顔をすっぽりと覆い隠す。


「……さて。グレン、始めるぞ」


 退避が完了したのを見計らって、塔の柵に掴まっていたグレンに呼びかけた。


『キュルル……』


 可愛らしいさえずりの後、バサバサと翼を羽ばたかせる。

 飛び立ったところで、俺はその脚に掴まった。


 フェニックスというのは、成鳥にもなれば下手な猛禽よりもでかい。

 その気になれば、子供を攫っていくことも容易だろう。

 ……尤も、大人しいフェニックスは人などを狩ることはないのだけれど。


 パーティ会場があるヤント市は、ローラシア大陸東西の陸橋となっている『蝶番の地』のど真ん中に位置し、南北の海に面した港町と繋がっている。

 もとの都市部であった城塞都市の最奥、かつての本丸跡地に建てられたビルへと、俺とグレンは風に乗って飛んでいく。


『家族が死んだからってどうしたっていうんだよ! 毒婦ルナや偽勇者レグナスを応援してたから当然の報いだろ!』


『シン魔王軍に発言権なんざねーんだよ!』


『カラヤンみたいな奴が勇者になれるなんて、おかしいと思わないのか!?』


『ギャハハハハハ!! またシン魔王軍の陰謀論かよ。芸がねーなー』


『魔王の国の住民なんて、分際をわきまえて頭下げて生きてりゃいーんだよ!』


 ヤント市の中を駆け巡るドウサンが、市内ではしゃぎまわるカーン支持者の戯言を拾ってくる。


『ざまあ! ざまあ!』


『ざまあ! ざまあ! ざまあ! ざまあ!』


 その合間に聞こえてくるのは、レグナスさんの失脚と同時に流行り出した『ざまあダンス』の不快な掛け声だ。

 奴らは母さんやレグナスさん側の者を魔王軍の残党……『シン魔王軍』とレッテルを貼り、集団での吊し上げと暴力を用いて潰してきた。


 大喜びしている反レグナスさん陣営の戯言も、もう散々聞き慣れているとは思っていたんだけどな……。

 この国の人間を懲らしめる側に回ったことで、本来備わっているはずの罪悪感ってものが機能してない証拠だ。


 今から俺がやろうとしていることが正しいとは思わない。

 でも、今の俺にはこれ以外のやり方が思いつかない。


 ビルに近づいてきたところで、ヤント市の各所から空襲警報のサイレンが鳴る。


「行くぞ、グレン!!」


 俺はビルの屋上へ飛び降りながら、第4階梯の炎魔術『フェニックスクラスター』をぶっ放す。

 グレンの分身のような不死鳥を象った炎が、いくつもの火線に分裂して会場の真上へと着弾し、切り抜いたように綺麗な大穴を開けた。


「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 崩落した天井から、パーティ会場へと降り立つ。

 ど真ん中にあったシャンデリアがシャンパンタワーを下敷きに、瓦礫がその周囲を覆い尽くしている。

 おろおろとするこの国の官僚と、あわてふためく使用人らの向こう側に、壇上で唖然とした顔でこちらを見ているカーンがいた。


 だが、こんな豪勢なパーティ会場を作った総督府も間抜けじゃない。


「皆さん、落ち着いてください! 警備の指示に従って避難してください!」


『B、C、D班は侵入者を取り囲め! 他の班はご来場の皆様の避難を誘導せよ!』


 すぐさま警備を務める冒険者が飛んできて、来客や使用人らの避難を誘導し、そのまま俺を取り囲む。

 母さんがアロウズに殺されたときを彷彿とさせる動きだ。


「邪魔……するなっ!」


 俺はエルヴン・ナイフを逆手に構え、左手には魔術を発動するためのワンドを持つ。

 単独での戦闘で重宝している『剣と魔法』という、文字通り接近戦と魔法の両方をこなせる構えだ。


 警備の連中が飛びかかるよりも早く、俺は衝撃波を発生させる『フォースウェイブ』を発動させて吹っ飛ばす。

 狙いはカーンとその取り巻き連中だけだから、仕事で立ち塞がっている連中を殺したくはない。


「ひ……ひぃぃ!」


 壇上で突っ立ったままのカーンへ向けて歩を進めると、このボンクラは魔王でも目の当たりにしたかのような顔で腰を抜かした。

 こんな腰抜け勇者様を、こいつの信者共に見せつけて幻滅させてやりたいもんだ。


「お前達! 賊を勇者カラヤン様へ近づけるな!!」


 残りの冒険者達が、カーンと俺の間に割って入る。

 もともと、俺も治安局に所属していた冒険者の一人だ。

 あんまり冒険者は巻き込みたくないんだが、いちいち手加減しているほどの余裕もない。


「ふっ!」


 俺は左手の杖を向けると、数えきれないほどの電撃の矢を飛ばす。

 雷の第2階梯魔術『ライトニングジャベリン』に、いくつもの散弾へと分裂させる『キャニスター・ショット』というアレンジを加えたものだ。


「ぐああぁぁぁぁあああ!!」


 全身を小さな電撃で貫かれた相手は、致命傷にこそ至っていないもののバタバタと倒れていく。

 そして、残りはカーンだけとなった。


「おお、お、お前、レグナスの支持者だろ? 僕を殺してただで済むと思ってるのか!? 僕はユートピア直轄国の勇者だぞ! 僕を殺すってことは、魔王を倒した勇者連合を敵に回すってことだぞ! わかってるのか!?」


 俺は答える義理はないという意思表示として、エルヴン・ナイフの鋒を突きつける。


「や……やだやだやだやだ! 死にたくない! 死にたくない!」


「あなたがたは反対者が同じことを言ったとき、助けたことが一度でもあったんですか?」


 泣き喚くカーンの喉元に、刃を突き立てようとしたそのときだった。


「……なっ!?」


 会場のドアから、炎、氷、雷、水、風……ありとあらゆる魔術の閃光が飛んできた。

 俺が『ガードソルジャーズ』に所属していたときの立ち位置と同じ、対魔術師戦闘を想定した魔術師の班だ。


「くっ……!」


 辛うじて『フォースシールド』の障壁で防ぐものの、この激しさじゃいつまで持つかわからない。


「よ、よくも……よくも僕の命を狙ったなああぁぁぁぁぁぁあ!!」


 防御に気を取られた隙を突いて、カーンが腰の派手な剣を抜いて斬りかかった。

 首筋を狙ったそれを、俺は身を反らして躱す。


 その表紙に、顔を覆っていたマスクにかすってしまった。


「……チッ!」


「あ……あ……。る、ルナ…………」


 舌打ちをした俺の顔を見て、カーンが驚愕の顔を浮かべながら母さんの名を呟く。


 そこへ更に、魔術の射撃という追い打ちがとんでくる。

 障壁が耐えられなくなり、ひびが広がっていく。


 障壁が砕ける寸前、紅蓮と金色の翼が割って入った。


「……グレン!?」


 苛烈な攻撃をその身に受け、グレンは悲痛な鳴き声をあげる。

 しかし、すぐに立ち直って飛び立つ準備を始めた。


「……悪い、グレン!」


 一か八か、俺はグレンの脚につかまった。

 そのままグレンは俺を持ち上げ、夜空へと高く飛び上がる。


「に、逃すな! 早く対空射撃の準備を!」


「おい、お前ら! 勇者である僕を差し置いて何をしてる!? 早く助けに来い!」


 カーンの怒鳴り声が遠ざかっていき、夜空をタゥルイシル方面へと飛んでいく。


「えっ!? ぐ、グレン……お前、まさか……」


 そんな中、俺は親友が致命傷を負っていたことに気がついた。

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