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再生した友と

 フェニックスは、炎のような紅蓮と黄金色の羽毛に覆われ、炎を纏うことができる煌びやかな鳥だ。

 西ローラシア大陸南部のナイラ砂漠に住む他、ゴンドワナ大陸では北部の砂漠、サバンナ、熱帯雨林といった様々な土地に生息している。

 その身に宿す力により、羽毛を触媒に炎を纏う他、抜いた羽毛を消費して治癒の力を発動することもできる。


 そして、今俺が召喚したフェニックスは、かつての俺の親友だ。


「グレン……」


 魔法陣の中心で丸まった親友を見つめながら、俺はこいつの名を呟いた。


「まあ、モルグルさんが召喚したのはフェニックスなのねー!? すっごいことになっちゃった! 稀少なフェニックスをこの学園で飼育できるなんて夢みたーい!!」


 エリカはわざとらしく、グレンを召喚したことを騒ぎ立てている。

 ただ、俺が不用意にグレンの名前を出したことへの誤魔化しだとすぐにわかった。


「ただ、こんなものを召喚してしまったとなると、身元の確認と総督府への飼育許可申請が必要ね……。モルグルさん、このフェニックスを使い魔にする気はある?」


 打ち合わせ通りの問いに、俺は親友を再び預かる決意を表明する。


「……もちろんです。どうか手続きをお願いします!」


 俺はグレンと一緒に演習場の奥に招かれると、学園のスタッフによる手厚い対処を受けていた。

 これじゃ、まるで産まれたばかりの赤ちゃんと母親だ。


「モルグルさん、とんでもないものを召喚したね……」


「ああ。午前の講義といい、とんでもない逸材がやって来たみたいだな……」


 さっきのカズネもだが、やはりフェニックスを召喚したことに驚いているらしい。


「名前、なし。出身地、アトラス砂漠。年齢、2歳。健康状態、問題なし……」


 エリカがグレンを分析の魔法『ステータス・アナライズ』にかけているが、記録している内容はこいつの素性を隠すものとなっている。

 もし周囲のスタッフがステータス・アナライズの内容を共有していたら、それがほぼ全てデタラメだということがわかっただろう。


「さて、これで手続きに必要なデータは記録できたわ。あたしは授業を再開するから、これを総督府に送ってちょうだい。モルグルさんは総督府からの許可が降りるまで待ってててね」


 俺とエリカは演習場まで戻ると、他の人物の召喚を再開する。


「そんじゃ、次はアタシが行くし」


 ティルが召喚装置の前に出て、魔法陣の前にある台座へと手をかざす。

 刻まれた線が銀色に輝きはじめ、やがて光に包まれる。


「よっしゃ!……ってありゃ?」


 魔法陣の中央には、プラチナのような色の大きな果物が転がっていた。

 アイラはこれを見て、何なのかすぐにわかったようだ。


「これってもしかして、『仙桃せんとう』?」


 仙桃とは、ほぼ全ての大陸に生える桃に似た樹木と、その木に生る果実だ。

 エルフの文化では女神が植えた樹として崇められ、どんな国でも例外なく高級品となる他、『竜酒』という酒を作ることもできる。


「えーと先生、これって食べて味をレポートするとかじゃないですよね?」


「まあ、植物だったら植えて育てろってことになるわね」


 そりゃそうだ。畑に植えるはずの種籾を食べ尽くすなんて馬鹿のやることだ。


「スタッフさーん! これ育てるのに向いてる鉢かなんかない?」


 エリカの指示で、スタッフがティルに仙桃を育てるのに向いている鉢植え、砂利や土、肥料、仙桃の栽培に関するマニュアルを持ってくる。

 召喚物の育て方は、従来のやり方では学園の書庫にある本を利用していたらしいが、現在はインターネットを含めて外部からの情報も併用されている。


「さて、それじゃ次の人!」


 次はアイラが召喚する番になった。

 台座に手を添えると、光の中からアプリコット柄のハムスターが現れる。


「わぁ……! もしかしてハムスター?」


 なんとも可愛らしいハムスターに、アイラは無邪気に眼を輝かせている。

 確かに、キョトンとした顔でアイラを見つめる様はなんとも可愛らしい。


「これはローランハムスターね。ペットとしても人気だから、比較的飼いやすいんじゃないかしら?」


 アイラもティルと同様に、ハムスターを飼うためのケージや敷物のチップ、給水器、餌、回し車、かじり木など至れり尽くせりな用具を持ってくる。


「餌などは学園から支給されますので、一の丸にある物流棟まで取りに来てください。足りないものがあれば、学園内のショップで買っていただくこともできます」


 続いて、カズネがある意味うちのグレン並の生き物を召喚する。


「おぉ……! これ、竜じゃないか!」


 召喚されたのは、枝分かれした角とビリジアンの鱗を持つ龍だ。

 東ローラシア大陸で見られるような、蛇のように長い身体のタイプだ。大きさと比較的丸っこいシルエットから子供だとわかる。

 グレンと同様に身元確認を受けた上で、もし親の龍がいるなどの問題がなければ、このままカズネの使い魔として登録できるはずだ。


「なんでカエル?」


 続いて、眼鏡をかけた細身の少年が、カラスほどもある茶色いカエルを召喚した。

 見た目からして、これも東で見られるセンキョウヒキガエルだろう。


「うへぇ……蜘蛛だ」


 次に、マッチョでいかつい顔にスポーツ狩りのオークが、大の男の手に乗るサイズの蜘蛛『レティリアラクネ』を召喚した。

 オークとは珍しい……というか、こいつは見た目に反して虫が苦手なのか。


「虫がダメなら送り返して召喚のし直しもできるわよ」


「い、いえいえ、せっかくオイラのところに来てくれたんですから、オイラが最後まで育てます!」


 あのオークは、見た目通りに義理堅い性分らしい。


「……あー、虫取り網ありますか? 素手じゃちょっと……」


 まあ、前途多難みたいだが。


 それ以外にも蛇だったり、鯉だったり、蝶だったり、豚だったり、稲の種籾だったり……。

 本当に千差万別の生き物が、召喚用の設備から呼び出されてくる。


 ちなみに魚など水中の生き物である場合、周囲の水を球状に浮かべる形で同時に召喚するようになっている。

 説明を受けた中にあったが、例えば水中の生き物をいきなり空気中に放り出したりしたら死んでしまうので、一時的に召喚した生き物が暮らせる環境を再現している。

 ただ生き物を取り寄せればいいというものでないのが、召喚術の大事なポイントだ。


 召喚物と召喚者、それぞれ千差万別なやりとりを見つめながら、俺は鳥籠に入っている親友との出会いを思い出していた。

 母さんの研究を手伝っていたときに一緒に召喚して、それ以来ずっと面倒を見続けていた。


「そういえば、俺達もこんな風に出会ったんだよな、グレン」


 俺は周囲のスタッフに聞こえないよう、小声でグレンに呼びかける。

 でも、やはり反応がない。


「……やっぱり、再生する前のことは覚えてないよな?」


 あのとき、重傷を負った身を再生するために、こいつは一度灰になった。

 その中から蘇った卵が孵ったものの、こいつはそれ以前の記憶を失くしている。


 無反応なグレンを見つめていると、エリカが俺を離れたところに呼び出した。


「ルア、召喚されたフェニックスの身元確認……を装った書類偽装と、フェニックスの飼育許可の手続きが完了したわ。これで、グレンはもう一度ルアの使い魔よ」


「えっ!? それじゃあ……」


「そうよ。今度こそ、この子を守ってあげなさい」


 俺は鳥籠を抱き締めると、かつての相棒に呼びかける。


「また一緒にいてくれるか、グレン」


 相変わらず、雛鳥に戻ったグレンの反応は薄い。

 でも、たとえ俺のことを思いださなかったとしても、こいつは大事な親友だ。


「あと、これからクラスのみんなに使い魔契約のやり方を教えるから、ルアが最初にお手本を見せてあげてね」


 それだけ伝えると、エリカは演習場へと戻っていく。


 今度こそ、こいつを犠牲にはしない。

 俺のために命を投げ打ってくれたこいつを。

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