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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モブな主人公

作者: バッド

 俺は死んだ。享年は……おっさんだったとだけ言おう。死因は事故死。そして転生した。


 ちなみに事故死と言っても、古典テンプレのトラック衝突ではない。エスカレーターで右側を猛然と走って登っていた奴が、足を滑らせて左側でのんびりと立っていた俺に激突。そのまま転がり落ちて死んだ。エスカレーターを走って登るのは違法である。あいつはマジに許さない。


 俺が最後に思ったのは、独身の俺の貯金は国に没収されるんだろうなぁ、こんなことなら仕事を辞めて思い切り贅沢したかったという想いだ。だって、老後の資金として5000万貯めていたのだ。酷くない?


 とはいえ、死んだ。死んでしまった。意識は闇に覆われて、死後の世界は本当はないんだろうなと、恐怖に襲われて、もっと好きなように生きれば良かったと悔やみながら死んだ。大体の人間が最後に思うことだと思うのだが、どうだろうか?


 しかし、俺はトラック事故死でもないのに、転生した。最初は真面目に驚愕したものだ。


 転生した先は、現代日本に見えた。両親は思い切り日本人で黒髪黒目、一軒家に住み、父は会社員、母は専属主婦の仲の良い平凡そうな両親だった。即ち、俺は最高の環境を得たのだった。


 転生したのに残念だったね、平凡じゃんと嘆く者は若いのだろう。このご時世、一軒家を持つというのは凄い。しかも土地も両親のものだ。さらに専業主婦を母がやっていても、そこそこ裕福だ。だって、おやつに手作りクッキーが出るんだよ? 母親の手作りおやつなんて、俺は都市伝説だと思っていました。


 何よりも嬉しいのは仲が良い両親だったことだ。離婚しそうにないし、父は家事を手伝い、休日には家族で外食。この両親は聖人かなにかかなと思ったものだ。


 素晴らしい環境。俺はこの環境を崩さないように頑張った。不良になったりして家庭を破壊するとか絶対にノーサンキューだ。


 夜泣きをしないことから頑張って、パパ・ママはいつも仲良しで嬉しいといつも笑顔でありがとうと伝えてきた。こういったコミュニケーションが家庭円満のコツなのだ。たぶんね。よくニュースとかでやっていたし間違いない。


 で、5歳ぐらいまでは幸せな家庭を楽しんでいた。いや、このあとに重い展開とかがあったわけじゃない。アメリカ映画のようにシリーズが変わると仲良しだった両親が離婚とかそんな展開はなかった。


 良い子にしている俺の頑張りもあって両親はこれからもラブラブとはいかないが、それでも仲は良く、暮らしていた。


 変わったのは俺だ。


 ある日、母親に散歩に連れて行かれて、てこてことと歩いていたら妙なものを見たんだ。


「おかーさん、あれはコスプレ?」


 アラフォーのおっさんの魂はもはや変わったのだ。5歳の可愛らしい子供になった俺は指差した。これでもご近所で可愛らしいと評判なのだ。まぁ、お世辞というか、社交辞令もあるだろうけどね。身奇麗にしていたから、同年代の子供よりかはウケが良かった。


「あぁ、あれはダンジョンに向かう冒険者ね」


「コスプレは会場に行ってから着替えないとだめなのに……。でも髪もピンクとか緑とか気合入れてるなぁ。ここらへんでコスプレ会場があるのかな?」


 メカニカルな鉄の鎧に未来的な機械でできた槍を持つ緑髪の巨漢のおっさん、節くれだった木の杖を持つ魔女の三角帽子と黒いロープを着込んだ少女。ちなみにピンクの髪をしていた。


 同じような格好と変わった髪の色をした人たちが歩いていき、近場にコスプレ会場があるんだなと俺は思った。前世ではコスプレ会場に行ったことがなかった。夏とか冬にあるコミケというものにも行ったことがなかった。なので、行ってみたいなぁと俺は初めてのお強請りを口にした。


 しょうもない願いを初めてのお強請りにしたもんだが、転生してからは好きに生きようと決めていたんだよ。あ、もちろん家族仲は最優先ね。


 そうしたら母親はクスクスと笑って教えてくれた。


「コスプレって。あの人たちが聞いたら怒るわよ。彼らは『マナ』を扱える力に目覚めて魔導学院を卒業した冒険者たち。ここらへんなら第3学院の『弥生』ね」


「ぼ、冒険者?」


 はぁ? と俺は困惑した。まずい、この会話はまずいと本能が警告音を奏で始めていた。が、そんな俺の困惑には気づかずに、母親は俺の頭を優しく撫でながら教えてくれた。


「この世界にあるダンジョンを攻略する人たちよ。魔物が現れるこわーいこわーいダンジョンを破壊してくれる立派な人たちなのよ。髪の色が黒でないのは、『マナ』を扱えるように覚醒した証なのよ」


「へー」


 マジかよと、母親の顔を凝視してしまったが、嘘をついたりからかっている様子はなかった。え? そういう世界観?


 半信半疑になり、ここは地球じゃないのと俺が恐れていた時である。


「ほら、魔石や魔物の毛皮、ああいうのをダンジョンから回収して売るのも冒険者のお仕事ね。魔物っていうのはね、ダンジョンを放置すると外に出てきて人を襲うの。こわーいこわーいなのよ」


 母親が指差すさきにはトラックに積まれた魔石や毛皮があった。ゴゴゴと俺の前を通り過ぎていくトラックのエンジン音を聞きながら、俺の心もゴゴゴと危機感を感じていた。


 その日、俺の常識は壊れた。その日の夕方、どうやら異世界に転生したらしいとぼんやりとテレビを見ていた時、あるニュースがやっていた。


 魔導学院同士の大会があって、うんちゃらかんちゃら。もうパワードスーツにしか見えない鎧、しかも女性はなぜか露出多めのパワードスーツを着た人たちが戦っているニュースがやっていたのだ。


 最高峰の冒険者は飛行が当たり前とかなんとかアナウンサーが興奮していたが、俺はそのエロティックなオタク向けのパワードスーツを見て、ハッと気づいた。気づいてしまったのだ。正直気づかなければよかったのにとも思う。


 俺の将来は前世の経験を活かして、金持ちになる予定だったのだ。まずはロトで当たる数字を研究しようと固く誓っていたのだ。


 だが、気づいてしまったのだ。


「ここ、『魔導の夜』の世界じゃん!」


 テレビの前でちょこんと座っておとなしい子供を演じていた俺はガバッと立ち上がり驚愕の叫びを上げるのだった。


 『魔導の夜』は現代ファンタジーものの小説だ。ダンジョンが生まれる世界観、なにかよくわからんけど、魔石とか魔物の素材が高く売れて、冒険者は昔から優遇されている。


 それらの背景を元に、学院で主人公が次々に現れる美少女といちゃいちゃしつつ、様々な敵から世界を滅ぼすという学院に封じられている魔神の封印を守るという話。結局封印は解かれて、最後に主人公が倒すんだけどな。


 テンプレの展開だが、この小説が出版された頃はそのような展開は斬新で、25巻まで発売して完結した。今ならよくエタらなかったなと、そこに感動するレベルだ。学園モノのファンタジーって、完結したの見たことないからね。


 たしか前世では死ぬ前の5年ほど前に完結したはずである。俺は1〜10巻、25巻を買った。途中は飽きて放置したのである。最終回だけどうなったか気になって買ったのだった。長く続くシリーズものであるあるだと言えよう。


 これがローファンタジーで人気があり、アニメは5期まで。ゲームにもなったりした人気作であった。ゲームはちなみにオープンワールドゲームで、主人公は別キャラでキャラメイクができた。小説の主人公たちとの絡みもあって、ファンだけでなくゲーマーにも人気のRPGであった。俺もやり込んだものだ。


 小説の世界に入り込んだらしいと俺は気づいた。小説とかでよくあるパターンだ。しかも自分の名前は聞いたことがない。最終回までやったアニメは全部見たから、サブレギュラー的な賑やかし系モブでないこともわかる。記憶にはキャラの名前はほとんどないので自信はないが、あの小説のキャラは可愛かったので覚えている。そこに俺みたいな顔の奴はいなかったと断言できる。


 完全なモブだ。たまに小説でよく見るパターン。モブに転生したと言うやつである。俺の将来は暗雲に閉ざされてしまった。なにせ、魔物が時折現れてモブを殺す世界観だ。うぎゃーと叫んで死ぬ役はまっぴらゴメンなのである。


「だけど、モブが主人公のライバルになったり、ヒロインの一人を奪ったりする展開ってあるよな」


 モブでも転生者なら強くなれるというパターン。主人公と良きライバルになったり、主人公も転生者の場合、だいたいゲスな主人公になっているので、倒しちゃって主人公の座を奪い取ったりするのだ。モブとはなんぞやと首を傾げる展開ではあるのだけど。


 死ぬほどの努力と共にモブ主人公は強くなるのだ。そのパターンを考えてみる。


 魔物が徘徊し、いつ殺されるかわからない世界。しかも怪しげな闇の団体とかもテロを起こしたりする。その上、我が家は学院に近い。巻き込まれる可能性は極めて高い。


 これは選択肢ないよねと、俺は死ぬほど努力することに決めた。このままでは死ぬ可能性が極めて高いので。


 それに主人公のヒロインと恋人になったりできるかもしれない。なに、主人公は何人ものヒロインに好かれるし、俺の好みはだいたいサブヒロイン。勝ち合って奪い合いになることもない。


 しかも冒険者になれば、金持ちになれる。高位冒険者は一回の稼ぎで億単位稼げちゃうのだ。


 これはロトの当たり数字を研究するよりも良いかもしれないと俺は強くなることを決意した。主人公と共に第三学院でテロリストを撃退したり、修学旅行で誘拐されたり、魔神を討伐したりするのだ。楽しそうな展開であると言えよう。


 幼いながらに俺は強い決意をして、強くなる努力をするのだった。




 ………そして10年後、来年は学院に入れる歳になっていた。


 第三学院は無くなっていた。


 消滅したとも言う。いや、消滅させたとも言う。


 犯人は俺。


 よくよく考えてみれば、魔神を封印から解こうとする輩と戦う必要なんか無い。様々な面倒くさいイベントなんてやりたくない。そんな面倒くさいことなどせずに、最初から倒せばよいのだ。幸い封印を解く方法は覚えていた。


 なので、学院に潜入。封印を解いて魔神を倒したのだ。余波で学院が消滅したけど、夜中なので誰もいなかったから問題なし。俺が犯人だとも気づかれなかったので、問題なし。


 ちなみに、魔神をソロで倒した力の源はというと、俺の特殊能力。能力というか、俺だけステータス画面が開いてレベルがあって、ジョブの転職もできたからだ。課金ジョブまであって助かった。無かったら、魔神に苦戦していただろう。もちろん小説の中でレベルなどはなかった。


 この小説はゲームになった。そしてゲームではわかりやすいようにレベルやジョブがあったのだ。ゲームにするにあたり、アクションゲームにしなかった運営を褒めてやりたい。


 そして俺だけゲーム版のプレイヤーキャラだったので、レベル上げやジョブの転職による様々なスキルを手に入れたわけ。目指せ裏ボス10ターン以内ソロ討伐。もちろんしました。やりこみ要素がてんこ盛りで主人公よりも遥かに強くなれたので。


 で、そこまで強くなったら、もう主人公と絡むのとか、ヒロインとかどうでもいいやと考えたのだ。何しろ小説の中の世界。モブもそこそこ可愛かったので、ヒロインに絡む必要もなかったのだ。


 これこそ、しんのモブと言えよう。神でも真でも良いよ。どちらにしても主人公の側に出ない。これこそがモブだよね。


 そうして俺は冒険者になった。冒険者は学院を卒業しなくてもなれるのだ。ただしランクというものが冒険者ギルドには存在し、その中で最下位のランクからだけどさ。


 まぁ、冒険者になれれば問題なし。高ランクダンジョンに1日潜り、数千万稼ぐと、俺は女友だちと遊んだ。いやーんとか笑う友だちの胸元に万札を押し込み、お酒は飲まなかったけど、炭酸ジュースで盛り上がったり。いちゃいちゃした。


 お金目当て? それでもサイコーなのだから良いと思う。楽しければ良いのだ。金の切れ目が縁の切れ目というなら、金を切らせなければ良いのである。


 小説とかで、金を女の子にバラ巻いたりする成金社長とかいるけど、実際にやるととても楽しい。お札で灯りは点けなかったが楽しんだ。もうパラダイスだ。ワハハと金をばら撒いた。


 時折、重病人や重傷者が俺に治癒をと頼んでくるので治してあげて、週に一回程度、範囲治癒魔法を大勢の人々に使ってあげると喜ばれて、評価もあまり下がらない。あまり酷いと家族崩壊しちゃうからね。両親にもお土産をちょくちょく渡したものだ。


 これこそが主人公に一切関わらないモブライフ。そう思っていました。もう学校も中卒で良い。高校に行かなくても大金を稼げるのだ。真面目に通うのは中学まで。そう決めていた。


 そうしたら、不思議なことに母親から入学証を渡された。なにこれ? 俺はどこにも願書出していないよ。


 え? 第二学院に推薦? もう決まった? ふーん。そういや、第二学院にも魔神いたな。


 明日は第二魔導学院に入学。ワクワクだねと両親と話していたら、ニュースが飛び込んできた。


 第二魔導学院、ガス爆発により消滅?! という悲しいお知らせだった。悲しいけど仕方ない。俺はメソメソ悲しむふりをして、また冒険者稼業に戻るかと肩を落としてスキップをしながら向かおうとした。


 次の日、再建された第三魔導学院にいた。


 なぜか俺は第三学院にいた。あれぇ?


 どうやら一年前に破壊したのが悪かったらしい。魔法のある世界だ。魔法の力を駆使して第三学院は再建されたのである。してしまったのである。


 本来は今年は入学生は無しで、バラバラになった元学院生を戻して第三学年だけで運営するつもりだったらしい。


 だが、第二学院が消滅したことにより、第三学院に生徒が移動となったらしい。誰だ、第二学院を消滅させたやつ。おのれっ! 許さない。


 俺は生徒手帳をひっくり返す勢いで、退学になる規則を探そうと考えるが、その場合、両親が悲しんじゃうだろうと歯噛みした。どうやら、モブとして3年間この学院に通わないといけないようだ。


 仕方ないので講堂で入学式に出た。昼間まで寝て、ちょこっと魔物を倒して大金を手に入れて愉快に遊ぶライフプランだったのに。


「ではサプライズとして挨拶は聖女として名高いあの娘にしてもらいましょう」


 前髪ぱっつんの姫様カットの生徒会長の美少女さんが笑顔で告げる。


 へー、聖女かぁと俺はぼんやりと周りに合わせて、ぱちぱちと拍手をしていたら、なぜか教師に連れられて、壇上に立たされた。


 おぉと、皆は拍手をして俺を羨望とか尊敬の目で見てくる。え? 俺が挨拶するの?


 貧しい人々にお金を配った? あぁ、札の取り合いが醜い争いで見ていて楽しかったからね。

 

 重病人や重傷者を治した? 欠損を治すには途方もないお金と待ち時間が必要? だってマナは1日寝れば回復するでしょ?


 だから、巷では聖女と呼ばれている? 知らんがな。俺は愉快に人生を楽しんでいただけだよ?


 なにやら雲行きが怪しい。


 なるほど、これがモブ主人公なんだねと俺は納得するのだった。


 解せぬ。


 ちなみに今世の俺は女な。モブでもこの小説の女性は可愛らしい。なので、俺も美少女だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] みいちゃん....?
[良い点] 神様たちをパーティに加えるとか、面白いですねー。 主人公が無双したらもっと人気になるはずだけど小学生編も楽しんでます
[一言] 主人公女だったのか 気持ち悪いくそみたいな話を読んでしまったキーワードに入れとけ
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