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「空中に浮いた受験票」 これは幸せの予感か、それとも呪いの前触れか

作者: いまっく

大学受験当日、自転車で家を出る。

しかし、途中であまり時間がないことに気がついた。

タクシーで行けばよかったと後悔したが、もう遅い。

このまま自転車で大学まで行くことにした。

しばらく走ると、目の前に長い坂道が伸びる。

自転車を一生懸命漕いで坂道を上ると、単線列車の踏切に差し掛かった。

そこを通り過ぎて、さらに坂道を登りきったところに大学がある。

「うわー!!」俺は一瞬大声を上げた。

受験票を忘れたことに気づき、あわてて引き返す。

さっき来た道をまた戻るのか……。

そう思った時だった。

目の前に1台のトラックが現れた。

そのトラックには『引っ越し』の文字があった。

運転手の顔を見ると、父だった。

眠そうな顔だ。どうやら寝不足らしい。

俺は直感的にこう思った。まったくの直感だ。

(父のトラックに受験票が積まれているんじゃないか?)

荷台の中を覗くと段ボール箱だらけだった。

引っ越し業か? と思ったけど、段ボール箱に描かれた模様がやけに派手だ。

ぐにゃりと歪んだ太陽がいくつも折り重なっている模様の段ボール箱もあれば、怪しげに踊っているトカゲのイラストが描かれてあるものもある。よく見ると、どの箱にもマジックペンで何か文字が書いてあった。


『今年の運勢』『恋愛運』

『仕事運』『金運』

『受験運』『健康運』

『人間関係』『総合運』


箱にはそれぞれ違ったことが書かれている。

そしてどの箱も真っ赤なテープでとじられていた。

はて? 父はこのトラックで一体何を運んでいるのだろうか。

などと考えていたのだが、受験票を取りに帰らないといけないことを思い出した。

父の運転するトラックはすでにどこかへ行ってしまった。

俺は再び坂を下って家に戻る。

自転車に乗っている間ずっと考えていた。

あの段ボール箱は何なんだろう。占いでもしているんだろうか。

それともおまじないグッズとか? そんなことを考えているうちに家にたどり着いた。

「ただいま」

玄関を開けると母さんがいた。

「おかえりなさい。忘れ物は?」

「大丈夫だよ」

俺は自分の部屋に行き、机の上に置いていた受験票を手に取る。

これで安心して試験会場に向かうことができる。

今からだったらタクシーを使えば間に合うだろう。

しかし、本当にあのトラックは一体何だったんだろう。

気になって仕方がない。俺は階段を下り、

「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」と言った。

すると母さんは台所からひょっこり顔をだし、「どうしたの?」と聞いた。

「あのさ、さっきお父さんが運転していた引越し用のトラックを見たんだけど、荷台の中にいろんなものが入っていたんだよ。例えばさ、箱の中に『恋愛運』とか『仕事運』とか書かれたものがあったりしたんだけど……」

母さんの表情が変わった。

目を丸くし、口をポカーンと開けてこちらを見つめている。

そして母さんは言った。

「あんた……まさか……見たの!?」

「えっ、何を?」

「だから、箱よ!」

母さんは興奮していた。

なぜかわからないけどすごく焦っているようだ。

「うん。見たけど」

「あぁー!!」

母さんは大きな声をあげた。

そのあと急に落ち着きを取り戻し、静かに話し始めた。

「実はね、あの箱の中には母さんと父さんにとって大切なものが入ってるの」

「大切なもの?」

「そう、私達にとってかけがえのない宝物が入っているのよ」

母さんは遠くを見るような目をしていた。

「へぇー、じゃあさ、その箱ってどこにあるの? 見せてくれないかな?」

俺がそう言うと母さんは困った顔をした。

「それはできないわ。あなたに見せたらきっと箱を壊してしまうでしょう? それに、もし壊してしまったら取り返しがつかないことになるかもしれないわ」

なんだか意味深なことを言い出したぞ。

俺は好奇心を抑えきれなくなった。

「ねぇ、お願い! 少しだけ! ほんの一瞬だけでいいから!」

母さんは首を横に振った。

「だめです。見せたい気持ちもあるけれど、絶対に見せるわけにはいかないのです」

母さんの声は震えていた。

それからしばらくして、父さんが帰ってきた。「ただいま」

父さんの顔を見るとほっとした。

やっぱり家族がいるというのは素晴らしいことだ。

俺は父さんに駆け寄り、こう尋ねた。

「ねえ、あの段ボール箱は何なの? もしかして占いとかのおまじないグッズ?」

父さんの顔が曇る。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「そうだな……。お前になら教えても問題ないだろう。実はな、あれは父さんが作った呪いの箱なのだ」

「呪い? どういうこと?」

「言葉の通りだ。あれには恐ろしい力が秘められているのだ」

「どんな力があるの?」

「うむ。あの箱には人の願いを叶える力があると言われている」

「人の願いを? どうやって? 箱にそんな機能なんてついてないよね? だってただの段ボール箱だったもん」

「確かに箱の機能としては何の意味もないものだ。しかし、箱に込められた思いが、箱の力になる。多分、『受験運』と書かれた箱があったはずだ」

「うん、あったよ」

「それを開けると大変なことが起こる」

俺は家から飛び出し、玄関の前に止められたトラックに駆け寄った。

父と母も後からついてきた。

俺は、段ボール箱の中から『受験運』と書かれた箱を取り出した。

父が後ろから話しかける。

「この箱を開けた時、中に入っていた紙に書かれたことが現実となる。つまり、お前が願えば必ず合格するということになる」

「へぇー、そうなんだ。でも、なんでこんなものを作ったの?」

「確かにこれは父さんが作ったものだが、父さんも詳しくは知らない。しかし、父さんが知っている限りではこの箱を使った人間は、みんな幸せになっているらしい。まあ、あくまでも噂だがな。とにかくこの箱に何かを願うことはやめておいた方がいい。箱に込められた呪いに飲み込まれてしまうからな。それと、箱を開けてはいけない。箱に込められた呪いに命を奪われてしまうからだ。だから箱は決して開けてはいけない」

俺はその箱をまじまじと見つめながら言った。

「わかった。」

そういうと、父と母は安心したように家の中へと戻っていった。

しかし、『受験運』と書かれた箱が気になって仕方がない。どうしても開けてみたいという衝動に駆られる。

その時、母さんの言葉を思い出した。

「この箱を開けたら大変なことになります。だから絶対に開けないようにしてください」

この言葉は本当だ。

でも、もし箱の力を試すことができたら……? 受験せずに合格できるかもしれない。

でも、そんなことをしたら一生後悔することになるだろう。

俺は自分の欲望と必死に戦った。

しかし、結局誘惑に耐え切れず、『受験運』の箱を開けることにした。

「合格できますように」

俺はそう念じ、先ほどトラックの荷台から取り出した『受験運』の箱を開けた。

中にはなんと、『合格』と書かれた紙が入っていた。

すると、信じられないことが起こった。

なんと、先ほど自分の部屋から持ってきてポケットの中に大切にしまっていた受験票が勝手に動き出し、ポケットから飛び出して空中に浮かび上がったのだ。

俺は唖然とした。

本当に受験票が動いたのか? 恐る恐る手を伸ばし、宙に浮かぶ受験票を掴んだ。

すると受験票がみるみる姿を変え、『合格通知書』へと変わった。

「ええーっ! 嘘……」

俺の叫び声を聞きつけ、母さんと父さんが家から出てきた。

俺は思わず(つぶや)いた。

「本当に……?」

母さんと父さんの方を振り向くと、2人とも口をポカーンと開けて固まっていた。

俺はすぐに父さんのところへ行き、「ねえ、これ見てよ!」と言って合格通知書を見せた。

「こっ……これは……!」

父さんは驚いているようだった。

母さんは泣き出してしまった。

「やったわね! これであなたも大学生よ!」

母さんはそう言ってぽろぽろと涙をこぼしながら抱きついてきた。「うん、ありがとう」

俺がそう言うと、父さんも目に涙をいっぱい浮かべて嬉しそうな表情で言った。

「おめでとう。さすが私の自慢の息子だな! これからもみんなのために願い事を叶えるんだぞ」

「あはは……」

俺は苦笑いした。


それから数日後のある朝、目が覚めると俺は段ボール箱になって父の乗るトラックの荷台に置かれていた。

箱には『家庭運』と書かれてある。

そして、そのままどこかへと運ばれていった……。


   終わり

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