春の雪だるま
僕が五歳の頃、隣の家の夫婦に一人の女の子が誕生した。
名前は紗杳。よく笑い、よく泣き、元気でとても可愛い子。
僕も、紗杳の兄である透も仲が良く、血が繋がっていない僕でさえ本当の兄妹のように育った。
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僕は中学生になり、進路を考えるようになった。その時に頭に思い浮かぶのはいつも紗杳のことだ。たまに怒らせたり怒ったりして、大変だと思うことはあるが、僕は子供が好きだ。紗杳の笑顔が好きだ。だから、将来は子供と関わるような仕事に就きたいと何となく思った。
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「澪くん、見て!私、もう中学生だよ!」
私は中学の制服を着て隣の家に来ていた。少し大人になった私を見てほしかった。でも。
「可愛いよ」
五歳年上の澪くんはいつも私を子供扱いする。今も普通なら恥ずかしいような台詞を、私の頭を撫でながらさらっと言ってしまう。私ばかりが恥ずかしくなって、そんな私が更に子供っぽく思えて悔しかった。
澪くん、私は早く大人になりたい。
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春の空気が僕達を包み込んだ。高校の門の前、胸に新入生の花飾りを付けた紗杳は、突然の風に乱れた髪をおさえながら困ったように笑う。
僕が大学に上がってから、紗杳と会う回数は少なくなった。だから、久しぶりにみた紗杳の姿と仕草が何となく大人っぽく見えて、僕の心臓は普段よりも早く鼓動を伝えた。
紗杳は色白の肌を僕の母校の制服で身を包み、頬を紅潮させている。その様子が綺麗だと感じたのは分かった。でも、この気持ちの正体は分からなかった。
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「澪くん、澪くん!大ニュース!!」
「どうしたの?」
「お兄ちゃんがね!結婚だって!」
「透くんが!?」
「あとね、私、第一志望の大学受かったよ!」
「おめでとー!!」
そう言いながらも、澪くんは携帯を出してお兄ちゃんにメッセージを送ろうとしている。
私のことを見てよ。私だけを見てよ…。
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風の噂で紗杳に彼氏ができた、って聞いた。そっか…。紗杳も、もう大学生か。
何でだろう。透くんの結婚は素直に喜べたのに、何だかもやもやする。応援、できない…。また、知らない感情が僕を支配する。でも、何でこんな気持ちになるのかは分かったんだ。
僕は紗杳に恋をしているんだ。
*
今日は私の二十歳の誕生日。
伝わるかな?私の気持ち。
「「君に、雪だるまのような恋をしてるよ」」