マジカルゴルフ #11
その日、イグサは訓練所内にある自室で横になっていました。
すると、ドアをノックする音が聞こえてきました。
「イグサ、開けろ!」外からシオンの声が聞こえてきました。「いるんだろう、イグサ!?」
「むう……。」イグサは起き上がってドアを開けました。
「シオン……。」イグサが言いました。
「こっちの仕事を手伝うという話だったじゃないか。何故全然顔を出さない?」シオンが言いました。
「別に……手を貸すと言っても、行動を共にするって話でも無かったハズ……。」イグサが言いました。
「だとしても、ここ最近このセンターから外に出てすらいないらしいじゃないか。ツバキから聞いたぞ。」シオンが言いました。
「ツバキ……。私のことを監視していたなんて……。」イグサが言いました。
「さあ、どう言い訳するつもりだ?」シオンが言いました。
「冬は……。」イグサが言いました。
「ん……?」シオンが言いました。
「お休み。」イグサが言いました。
「は……?」
「だから……冬は……。」イグサが言いました。
「うん?」シオンが言いました。
「色々と大変だからそっちに手を貸すのはお休み。」イグサが言いました。
「何が大変だと言うんだ?大体今だって何もしていないじゃないか。」シオンが言いました。
「それは……センター内で特に問題が起きていないからで……。」イグサが言いました。
「ならセンターの外に出られるだろ?」シオンが言いました。
「それは……。」イグサが言いました。
「素直に白状したらどうだ?知っているぞ、お前は外に出る時には基本的に厚着をしないということは。」シオンが言いました。
「だって……。」イグサが言いました。
「ん……?」シオンが言いました。
「絶対領域無しで町を歩いたら、なんか負けた気がするし……。」イグサが言いました。
「同じ理屈でヘソもワキも見せていないと気が済まないから、冬は外に出られないんだよな?」シオンが言いました。
「それはウソ。別にちょっとガマンすれば出られるから……。」イグサが言いました。
「なら外に出てこっちを手伝え。」シオンが言いました。
「イヤって言ったら?」イグサが言いました。
「力尽くでもお前を外に連れ出す。」シオンが言いました。
「私今下着姿だよ?」イグサが言いました。
「ガマンすれば平気なんだろう?」シオンが言いました。
「下着だけじゃさすがにガマン出来ないな。」イグサが言いました。
「じゃあさっさと薄着に着替えろ。」シオンが言いました。
「その前に……力尽くって何……?私とバトルでもするつもり……?」イグサが言いました。
「ああ。」シオンが言いました。
「勝負するならプロレスにしない?」イグサが言いました。
「プロレス……?」シオンが言いました。
「うん。」イグサが言いました。
「それだとお前の方が有利なんじゃないか?毎日やってるんだろう?」シオンが言いました。
「もしかして私に勝てる自信無いの?」イグサが言いました。
「ああ。」シオンが言いました。
「素直か。」イグサが言いました。
「勝負をするならお互いに同じ条件の競技じゃないとな。」シオンが言いました。
「こちらの土俵には立たないと……?」イグサが言いました。
「ああ。」シオンが言いました。
「土俵と言えば、相撲とかどう?」イグサが言いました。
「相撲だと……?」シオンが言いました。
「うん。政府の人間同士、国技で決着付けるのも良いんじゃない?」イグサが言いました。
「相撲もプロレスみたいなもんなんじゃないのか?」シオンが言いました。
「でも、プロレスじゃないから……。」イグサが言いました。
「いや、分かるぞ。お前は私を嵌めようとしているな。」シオンが言いました。
「そんなことないよう。」イグサが言いました。「良いじゃん、国技。」
「国技か……。うーん……。」シオンが言いました。
「別に相撲は我が国の国技と決められているワケじゃないぞ。」そう言ってツバキが姿を現しました。
「ツバキ……。」シオンが言いました。
「ツバキ……!」イグサが言いました。
「シオンが今日ここに来ると聞いて、その様子が気になったから見に来てみたんだ。」ツバキが言いました。
「よくも私の動きを監視したな!」イグサが言いました。
「政府で働いている以上、仲間の監視も必要になるだろう?」ツバキが言いました。「現に裏切っていたワケだしな。」
「裏切ってなんかいないよ。ただちょっと、お休みが必要なだけだったんだよ。」イグサが言いました。
「それよりも、相撲は国技じゃなかったのか?」シオンが言いました。
「知らなかったのか?日本の国技を定める法律は存在しない。」ツバキが言いました。
「じゃあ日本の国技は一体……?」シオンが言いました。
「そもそも国技って何……?」イグサが言いました。
「その国の伝統的なスポーツのことだな。」ツバキが言いました。
「その国で最も親しまれているスポーツということか?」シオンが言いました。
「そういう解釈でも間違いでは無いだろう。」ツバキが言いました。
「じゃあ日本の場合は……?」イグサが言いました。
「法律では定められてはいないと言ったが、一般的には相撲や野球、武道とされているか?」ツバキが言いました。
「ほう。」シオンが言いました。
「いやいや、どのスポーツも競技人口が少な過ぎるでしょ。そんなんで本当にこの国で親しまれてるって言えるの?」イグサが言いました。「だったらプロレスでも別に良くない?」
「まあ確かに、相撲なんてやってても別に見ないし、ましてやプレーすることなんて絶対に無いな。」ツバキが言いました。
「だとすると、一体何が我が国の国技に相応しいのだろうか?」シオンが言いました。
「競技人口の数で言えば……ゴルフ……じゃないか?」ツバキが言いました。
「ゴルフか……。」シオンが言いました。
「なるほど。」イグサが言いました。
「ゴルフなら多くの国民がプレーしてるし、そして我が国の社会のシステムにも深く根差していると言えるだろう。」ツバキが言いました。
「確かにな。」シオンが言いました。
「そう言われると、ゴルフこそがこの国の国技に相応しい気がしてくるね。」イグサが言いました。
「ああ。」シオンが言いました。
「それはそうと、何でお前達は国技の話をしていたんだ?」ツバキが言いました。
「う……。」イグサが言いました。
「あ……!」シオンが言いました。
「ん……?」ツバキが言いました。
「コイツが私達に手を貸すか否か、国技で決着をつけようとか言い出したんだ!」シオンがイグサを指差しながら言いました。
「それでお前は乗せられたのか?」ツバキがシオンに言いました。
「あ……ああ。」シオンが言いました。
「全くお前は……。」ツバキが言いました。
「私は悪くない!」シオンが言いました。
「私も悪くない。」イグサが言いました。
「分かった分かった。別にお前達に口は出さないから、この際思う存分国技でやり合ってみれば良いだろう?」ツバキが言いました。
「国技か。」シオンが言いました。
「つまりゴルフ……?」イグサが言いました。
「そうだな。」シオンが言いました。
「じゃあゴルフで決着つけよう!」イグサが言いました。
「望むところだ!」シオンが言いました。「さあ、早く着替えるが良い。」
「軽くシャワーも浴びるから、ちょっと待ってて。」イグサが言いました。
「その前に……ゴルフは時間かかると思うが、今からやるつもりか?」ツバキが言いました。
「む……。」シオンが言いました。
「そんなに時間かかるの?」イグサが言いました。
「よし、パターマットを用意するから、パッティングだけで勝負するんで良いな?」ツバキが言いました。
「構わない。」シオンが言いました。
「よく分かんないけど、ボールを穴に入れれば良いんだよね?」イグサが言いました。
「ああ。」ツバキが言いました。
「良いよ。」イグサが言いました。
準備をした後、イグサとシオンはパターマットを使ってパッティング対決を始めました。
「なんだかんだゴルフじゃん。」イグサがパターマットを見て言いました。
「随分とこじんまりとはしているがな。」シオンが言いました。
「これはこれで良くない?」イグサが言いました。
「寒くないからか?」シオンが言いました。
「うん。じゃなくて、時短的な意味で……。」イグサが言いました。
「強がったところで、この勝負が終わればお前は寒空の下だ。」シオンが言いました。
「それはそっちが勝てればの話で……。それに私は外に出ても耐えられるし……。」イグサが言いました。
「本当にそうか?」シオンが言いました。
「早く打てよ。」ツバキが言いました。
「急かすな。」シオンが言いました。
シオンがパターでボールを打ちました。シオンが打ったボールはホールに入りませんでした。
「ファー。」ツバキが言いました。
「お前が急かすから……!」シオンが言いました。
「ファーッ!」イグサが言いました。
「黙れイグサ!」シオンが言いました。「そもそもそんなにハズしていない!」
シオンはボールをもう一度打ってホールに入れました。
「ボギーだな。」ツバキが言いました。
「いや、パーだ。パー2なんだ。」シオンが言いました。
「そんなワケあるか。」ツバキが言いました。
「パーッ!」イグサが言いました。
「次はお前の番だ!ふざけてないで早く打て!」シオンがイグサに言いました。
「パー。」そう言ってイグサがパターでボールを打ちました。
イグサの打った球がホールに入りました。
「な……!」シオンが言いました。
「これがパーだ。」ツバキが言いました。「それとも、バーディか?」
「バーッ……ディッ!」イグサが言いました。
「黙れイグサ!」シオンが言いました。
「そっちが二回でこっちが一回だから、私の勝ち!でしょ?」イグサが言いました。
「ああ。君の勝ちだよ、イグサ。」ツバキが言いました。
「イェー!」イグサが言いました。
「だが、こっちの手伝いをするのはそちらも承諾していたハズだろう?」ツバキが言いました。
「分かってるよ。タイミングが合えばちゃんと手を貸すから……。」イグサが言いました。
「その言葉、忘れるな。」シオンが言いました。
「分かったから、さっさと帰った。」イグサが言いました。
「おのれ……。」そう言ってシオンはその場を離れました。
「この国技はなかなか悪くなかったね。」イグサが言いました。
「それは良かったな。」ツバキが言いました。
おわり