マジカルゴルフ #10
その日、マナミとルナは新たに引き受けた仕事について話し合っていました。
「この町の平穏を脅かす通り魔集団、通称トリロジー・ボーラー。」マナミが言いました。
「今回の事件の犯人もそのメンバーの一人と見て間違いなさそうね。」ルナが言いました。
「以前に収集した情報によると、トリロジー・ボーラーのメンバー達はそれぞれが縄張りとしている地域があって、その地域内で犯行を繰り返しているらしいとのことだったね。」マナミが言いました。
「おそらく、彼女達にとってその犯行は一種のスポーツ競技のようなもので、彼女達が縄張りとしているエリアは言うなれば競技フィールドなのでしょうね。」ルナが言いました。
「彼女達の犯罪をスポーツ競技と呼ぶにしては、いささか非対称だと思うけどね、彼女達が一方的に被害者を襲撃する訳なのだから。」マナミが言いました。
「きっと彼女達のスポーツにはeスポーツの要素も含まれているのよ。」ルナが言いました。
「なるほど。それは興味深い見解だね。それならば彼女達のスポーツ競技が非対称型であることにも説明がつく。」マナミが言いました。
「ところで、彼女達が行うスポーツ競技の非対称性を象徴するかの要素があるわ。」ルナが言いました。
「それは彼女達が被害者を襲撃する際に必ず得物を用いることかな?」マナミが言いました。
「そうね。今回の依頼人が巻き込まれた事件でも、被害者は鈍器のようなもので股間を殴打されているわ。」ルナが言いました。
「実に凄惨な事件だ。」マナミが言いました。
「彼女達の行うスポーツ競技というのはとりわけ球技のことで、彼女達の考え方だと生きた人間のボールを使って球技を行っているのよね。」ルナが言いました。
「まさに変態の犯行だね。」マナミが言いました。
「彼女達がただの変態であれば私達の元に依頼が来ることも無かったんでしょうけど……。」ルナが言いました。
「彼女達は魔法が使えるんだったね。」マナミが言いました。
「ええ。一筋縄ではいかない相手よ。」ルナが言いました。
「確か、ネオエリコという組織から支援を受けて魔法が使えるようになっているとのことだったけど、そのネオエリコについては情報は集まっているのかな?」マナミが言いました。
「それが全然ダメみたい。私の魔法でもネオエリコの情報は一切手に入らなかったわ。」ルナが言いました。
「ルナの魔法が通じない組織か。またしても巨大な組織を敵に回す可能性が出てきたことになるね。」マナミが言いました。
「そういう大規模な犯罪組織は政府が対応してくれることに期待したいところね。」ルナが言いました。
「私達はあくまでこの事件の犯人を追いかけることにしよう。」マナミが言いました。
「そうね。」ルナが言いました。
「それではひとまずそのフィールドに足を踏み入れてみるとしようか。」マナミが言いました。
「男装していれば犯人を誘き出せるかも知れないわね。」ルナが言いました。
「時期的に厚着をすると警戒されそうだけど、大丈夫かな?」マナミが言いました。
「薄着で犯人を騙すのも難しいそうだし、まだギリギリセーフってことでやってみるしかないんじゃないかしら?」ルナが言いました。
「幸いにもこの非対称型スポーツは被害者がユニフォームを身に纏っている必要は無いみたいだしね。」マナミが言いました。「行ってくるとするよ。」
「犯人のユニフォームは魔法の戦闘服であることを忘れないでね、マナミ。」ルナが言いました。
「うん。」マナミが言いました。
マナミが変装をしてとある通りを訪れました。
「入場したよ。」マナミがマジカルチェンジャーの通話アプリを使ってルナに話しました。「ここからは競技フィールドだ。」
「くれぐれも気を付けてね、マナミ。」マジカルチェンジャーからルナの声が聞こえてきました。
「大丈夫。少なくとも、私には打たれるボールは無いことだしね。」マナミが言いました。
「球を打たれることは無くても、タマを取られることはあるかも知れないわ。」ルナが言いました。
「確かにね。」マナミが言いました。
そこへマジカルテックスーツに身を包んだ少女が姿を現し、手にしたドライバーでマナミに殴りかかってきました。マナミはその少女の攻撃をかわしました。そしてマナミとその少女は睨み合いました。
「あなたがこの地域で試合を行っているトリロジー・ボーラーのメンバーだね?」マナミが言いました。
「いかにも。私の名はゴルフィスバエナ!」その少女が言いました。
「ゴルフィスバエナ。」そう言ってマナミはゴルフィスバエナの持つドライバーに目を向けました。
「ここで行われている競技はゴルフだったということか。」マナミが言いました。
「そうだ。そして今回のホールは最もスタンダードなパー4としている。」ゴルフィスバエナが言いました。
「パー4か。大方、四打以内に相手を仕留めるということかな?」マナミが言いました。
「察しが良いな。ゴルフでは空振りも一打としてカウントされるが、このホールをパーで通過する為に後三回のショットの機会が残されているというワケだ。」ゴルフィスバエナが言いました。
「でも、少なくともこれでホールインワンの可能性は無くなったことになる。」マナミが言いました。
「ホールインワンなど基本的にはパー3以下のホールでしか狙えんさ。」ゴルフィスバエナが言いました。
「その言い方だと、君はターゲットを見て規定打数を設定しているように聞こえるね。」マナミが言いました。
「当たり前だ、弱い相手に四打も必要ないからな。」ゴルフィスバエナが言いました。
「どうせなら私はパー5に設定して欲しかったよ。」マナミが言いました。
「最近は女みたいな男も増えているが、私がパー5に設定するのはもっとガタイの良いアスリートだけだ。」ゴルフィスバエナが言いました。
「こう見えても脱いだら意外と凄い可能性もあるだろう?」マナミが言いました。
「数多のホールを通過してきたこの私の目を欺けると思わないことだ。確かにお前は厚着で体系を隠しているが、決してアスリートでは無いだろう?」ゴルフィスバエナが言いました。「尤も、予想通り警戒心は強かったみたいだが。」
「どうやら観察力に自信があるみたいだね。」マナミが言いました。
「ああ。観察のコツはスパイダーマンになることだ。」そう言ってゴルフィスバエナは地面に伏せて見せました。
「スパイダーマンポーズでやっていることがヴィランそのものなのが皮肉だよ。」マナミが言いました。
「それにしてもお前、女みたいなヤツだとは思っていたが、声に至っては完全に女だな。所謂両声類というヤツか?」ゴルフィスバエナが言いました。
「生憎だけど、私は変声機を所持していなくてね。」マナミが言いました。
「変身!」マナミが変身しました。
「ま……魔法少女……!?つまり女……!?」ゴルフィスバエナが言いました。
「そう。私はマナミ。この世界でたった一人の魔法少女探偵さ。」マナミが言いました。
「探偵……!」ゴルフィスバエナが言いました。
「そう。君の犯罪もここで終わりだ。」マナミが言いました。
「このロストボールめ!」ゴルフィスバエナが言いました。「ボールが無ければゴルフを行うことが出来ない!」
「そう。よって君がこのホールを通過することは永久に無い。」マナミが言いました。
「くうううううっ……!かくなる上は……!」そう言ってゴルフィスバエナはドライバーを構えました。
「ハアアッ!」ゴルフィスバエナがマナミに向けてドライバーを振りました。
マナミはゴルフィスバエナのその攻撃をかわしました。
「私のゴルフを台無しにしたペナルティとしてお前にはここで死んで貰う!」ゴルフィスバエナが言いました。
「やはりこうなったか。」マナミが言いました。
「ハアアッ!」ゴルフィスバエナがマナミに襲い掛かりました。
ゴルフィスバエナは連続してドライバーを振ってマナミに攻撃を仕掛けましたが、マナミはそれらの攻撃を両腕を使って全て防ぎました。
「フッ!」マナミがゴルフィスバエナにパンチを当てました。
「ウッ……!」ゴルフィスバエナが怯みました。
ゴルフィスバエナはすぐさま体勢を立て直し、ゴルフクラブを振りました。
「ウアッ……!」マナミはゴルフィスバエナの攻撃を受けて後退しました。
「どうだ私のストロークの威力は?」ゴルフィスバエナが言いました。
「これは油断ならないな。」マナミが言いました。
「ゴルフのルールを知っているか?ゴルフではボギーを叩いたとしてもその時点で失格にはならない。そして私もお前を葬るまで攻撃を止めない。」ゴルフィスバエナが言いました。
「ハアッ!」ゴルフィスバエナがドライバーでマナミを殴りました。
「ウアアッ……!」マナミがふっ飛ばされました。
「次のショットでトドメを刺してやる。」そう言ってゴルフィスバエナが倒れ込んでいるマナミににじり寄りました。
マナミはマジカルトリガーとマジカルテックバレルを召喚し、その二つを接続しました。
「このタマは打てるかな?」そう言ってマナミは地面に伏せたままマジカルトリガーを撃ちました。
「ウアッ……!」ゴルフィスバエナがマナミの放った魔法弾を受けて怯みました。
マナミが立ち上がりました。
「くっ……!」ゴルフィスバエナが言いました。
「マナミ……!」そう言ってルナが姿を現しました。
「ルナ。」マナミが言いました。
「マナミが犯人と遭遇したから私も合流することにしたわ。」ルナが言いました。
「貴様……キャディがいるだと!?」ゴルフィスバエナが言いました。
「これは非対称型ゴルフだからね。」マナミが言いました。
マナミの左腕にルナが融合しました。そしてマナミはマジカルトリガーを構え直しました。
「あ……。ああっ……!」ゴルフィスバエナはその場から逃げ去ろうとしました。
「マジカルショット!」マナミが魔法散弾を放ちました。
「ウアアアアアアアッ……!」ゴルフィスバエナはマナミの攻撃を受けて倒れました。
おわり