第二話 「パスパロのひみつ」
ケンは家の外に突然現れた不思議な生きもの「パスパロ」に出会う。そしてパスパロは自分の住む森へケンを連れて行ったのでした。さて、森の中でケンとパスパロは…。
「森へようこそ。ぼくはいつもここにいるのさ。すてきなところでしょう?」
パスパロはちょっと自慢げな顔をした。
シーンと静かな森だった。だけど時々フクロウの鳴き声や山鳩が羽ばたく音がする。リスが木の実をかじるような音も。
「森を案内しよう。さあ、ぼくの手に乗ってごらん」パスパロはそう言うとまた手を差し伸べた。
ケンはパスパロの手の上に乗るとパスパロは手を高く上げ、ケンは高く高く、まわりに茂る木々よりも高いパスパロの手から森を見下ろした。
「どう?すごいでしょ?」とパスパロが言うので「うん、すてきだね」とケンは言ったが、本当は暗くてあまりよく見えなかった。
するとパスパロがこう言った。
「ケン、本当はちゃんと見えてないんでしょう?どうしてそう言ってくれないの?」
そう言われて「いや…悪いと思って…さ。でもきっときれいなところだと思ったから」とケンは申し訳なさそうに言った。
パスパロは「じゃあこうしよう!」と言うと猫のような丸くて大きな目を光らせた。
パスパロの目の光は街のあかりよりもずっと明るい。まるでそこだけ昼間になったみたいに明るくなった。
そこには緑がいっぱいに広がっていた。
「ねえ、きれいでしょ?ぼくの森」パスパロはさらに自慢げだ。
「わあ、すごいよ、すごいよ!こんなきれいな森にきみは住んでいるんだね。羨ましいよ」ケンは興奮した。本当に素晴らしい森だ。
「さあ、なにして遊ぼう?」パスパロはまたたずねた。
「うーん。かくれんぼもたたかいごっこもできないんだよね?どうしよう。じゃあ“アイ・スパイ”をやらない?」
“アイ・スパイ”とは自分が今見ているものの頭文字を言って相手に当ててもらうゲームだ。
ケンが「じゃあ、ぼくから始めるよ。アイ・スパイ、ぼくの目に写っているものはTからはじまるもの!」そう言うとパスパロは
「TOY!」と答えた。“トーイ”とはおもちゃのこと。
「おもちゃなんてここにはないでしょ?ここは森だもの」とケンが言うと
「じゃあトリケラトプス!」とパスパロが言った。
「トリケラトプス?恐竜の名前でしょ?恐竜だなんて!この森にいるわけないでしょう?」ケンが言うと
「それがね…昔はこの森にもいたんだよ」とパスパロ。
「ねえねえ、もっと近くにあるものだよ」とケンが言うと
「あ、そうか、わかった!ツリーだ!」パスパロが答えた。
「そう、ツリーだよ!あたり!」ケンが言った。
そんな遊びを繰り返していたが、しばらくすると二人ともあきてきた。
そこでケンが言った。
「ねえ、きみって恐竜の時代に生まれたんだよね。きみが生まれてから今までどうしてきたのか教えてくれない?友達になったんだもの。きみのこともっと知りたいよ」
「いいよ、きみが信じてくれるなら」パスパロが言った。
「もちろん信じるよ」とケン。
するとパスパロは自分のことを話し始めた。
「ずっとずっとむかーしむかし、ぼくはたぶん…だけどたまごから生まれたんだ…と思う。ぼくが子供の頃は恐竜がたくさん住んでいた。トリケラトプスもイグアノドンも」
ケンはたずねた「きみにはお父さんとお母さんはいたの?」
パスパロは言った。
「たぶんね、じゃなきゃぼくは生まれてないでしょ?でもぼくは会ったことないの。ぼくと同じ姿をした仲間にもね」
「そうなんだ、さびしかったでしょう?」とケンが聞くと
「さびしかったよ、ずっと。だからきみと友達になれて嬉しいよ」とパスパロは言った。
するとケンも言った。「ありがとう。ぼくもきみと友達になれて嬉しいよ。ねえ、きみの話を続けて」
パスパロはまた話を始めた。
ぼくは昔はもっともっと山の奥に住んでいたんだ。とても静かなところだったよ。ぼくは恐竜たちと友達だった。
ぼくは彼らと一緒に平和に暮らしていたの。あの事件が起きるまではね」パスパロは顔を曇らせた。
「事件って?」ケンが聞くとパスパロは話を続けた。
「その日ぼくたちはいつもと変わらない朝を迎えた。静かな朝だったよ。
ぼくは朝ごはんに朝つゆでいっぱいのみずみずしい草を食べているところだったんだ。すると遠くの方からドカーンという音が聞こえたんだ。
何が起こったんだろうとイグアノドンと話をしていたら周りが急にザワザワし始めたんだ。すると恐竜たちがドーッと大きな音を立てながら走って来たんだ。みんな血相を変えてね。
ただ事じゃないぞ…そう思った時だった、またドカーンいう大きな音が聞こえた。そしてぼくは気づいたんだ、どうやら火山が爆発したのだと。
大変だ、逃げなくちゃ!ぼくは必死に逃げた。走って走って、走りまくったんだ。
ぼくは森の誰よりも足が速かったからね、逃げ延びることができたんだ。
でも気づいたら周りには誰もいなくなった。
ぼく一人だけが生き残ったんだ。
それ以来ぼくはずっとこの森の中でさびしく生きてきたんだ。」
パスパロは悲しそうにそう言った。
パスパロの話が終わる頃、気づくとあたりは少し明るくなっていた。
「もうすぐ夜が明けちゃうよ。早く帰らなきゃ!」
ケンが言うとパスパロはケンを首の上に乗せ走り始めた。
ビュンビュンと風を切って走ると瞬く間にケンの家の前に着いた。
パスパロはケンの部屋の窓を開け、ケンがベッドに入るのを見届けた。
「ねえ、パスパロ、また明日一緒に遊ぼうよ」ケンが言うと
「うん、また遊ぼう。でも明日じゃないな。また次のきみの誕生日に会って誕生日のお祝いしよう!」そう言って、ビュンビュンと森へ走って帰って行った。
「おやすみ、パスパロ」
ケンは眠りについた。
第二話を読んでくださりありがとうございます。まだ続きます。