第一話 「おやすみの前に」
主人公ケンの誕生日の前夜、突然現れた不思議な生きもの「パスパロ」
親子で読んでほしいファンタジー童話。
「ケン、もう寝なさい。9時になるわよ」
お母さんが言うと、
「えーまだ眠くないよ。明日は日曜日だし、まだ起きていてもいいでしょう?」
ケンはちょっと興奮気味だ。だって明日はケンの9歳のお誕生日だから。
「ダメダメ…さ、電気消すわよ」
お母さんはケンの頭をなでると「おやすみなさい。明日、楽しみね」と言って電気を消し、ケンの部屋から出ていった。
部屋が暗くなるとケンは少しこわくなった。
「朝起きたらぼくは9歳だ。もう小さな子供ではないぞ!
だから暗くたってこわくない!」
そう思うことにした。
でも窓の外に見える庭の木が風で揺れると、まるで大きな生き物が動いているように見える。
「こわくない、こわくない…。ただ木が風に揺れているだけ」そう言いながらケンは思いっきり目を閉じた。
風が強く吹いて、トントンと窓を叩く音がする。
「わ、こわい、こわい…」ケンは布団にもぐり込んだ。
すると窓の外から何かを言っているような声が聞こえる。
よく耳をすましてみると
「きみ、ぼくを木だと思っているの?木なんかじゃないよ。風で動いているんじゃない。ぼくが動いているのさ」と誰かがそう言っている。
「こわい…。どうしよう?死んだふりをすればいいのかな?あ、それはクマに遭遇した時にする事か!どうしよう…ぼく…どうしよう」
その時、その“声の主”が言った。
「こわがらなくていいよ。こわいことはしない。約束するよ」
そう言うとその“声の主”はいきなり自己紹介を始めた。
「ぼく、パスパロっていうんだ。ぼくの仲間はもういない。家族もいない。ぼくね、恐竜のいる時代からずっとひとりぼっちで生きてきたんだ。ひっそりと身をかくしてね。でももうそれが嫌になったんだ。ねえ、ぼくの友達になってくれない?」
その声はやさしく、なんとなく人なつっこかった。
ケンは「こわい、こわい…。あーでもどんな顔か見てみたい!」
そう思い、そっと布団の端から目を出すと…
そこには窓いっぱいに大きな顔があった。
「わっ!なんだ?見た事ない生き物だ!やっぱりこわい!ん…でもよく見ると大きいけど意外とかわいい顔だなあ」
その“大きな顔”はまるで猫のような丸い顔に丸い目、そしてライオンのようなりっぱなたてがみがあった。
ねえ、きみ、ぼくを見たでしょう?ぼくもきみが見たいよ。顔を見せてくれない?本当に本当にぼくはきみをこわがらせたりしないから」
ケンは少し迷った。でもどうやらこわい生き物ではなさそうだ。
「友達になっても…良いかもしれないな」そんな風に思いながら
そーっとそうっと、少しずつ布団から顔を出すと
「ねえ、もっと見せて!もっときみが見たいよ」
そう言われ、ケンは勇気をふりしぼって布団から出た。
「こんにちは…こんばんは…か。あ、はじめまして」
ケンはなんと言って良いのかわからなかった。
「ねえ、きみの名前、なんていうんだい?」
“大きな顔”が聞いたので、ケンは答えた。
「ケンだよ。きみは?」
「もう忘れちゃったの?パスパロだよ、パスパロ!」
「ふうーん、パスパロっていうんだ?パスパロ…ね。ぼくは明日で9歳になるんだけど、きみはいくつなの?」
パスパロは答えた。
「歳なんてもうわからないよ。だって恐竜の時代からぼくは生きているんだから」
「え、本当にそうなの?」
「そうだよ」
「信じられないなあ」
「信じてよ。ん…まあいいや。それより外に出てきてよ。一緒に遊ぼう!」
そういうとパスパロは窓を開け、ケンに手を差し伸べた。
ケンはパスパロの手のひらに乗り、窓から外へ出た。
パスパロの手のひらは肉球があり、ケンのベッドよりもふかふかであたたかい。
「きみの手って気持ちいいんだね」ケンが言うと
「ありがとう」とパスパロは言った。
パスパロの手から降りるとケンは家の外にいた。玄関の辺りだ。
パスパロは思った以上に大きくてケンはびっくりした。でも何よりびっくりしたのはパスパロの背中に針のようなトゲトゲがたくさんあったことだ。
まるでハリネズミのように。
ケンがパスパロをぼうっと見ているとパスパロが言った。
「さあ、何して遊ぶ?」
「かくれんぼは?」ケンが言った。
「それはできないよ」とパスパロ。
「どうして?」とケンが聞くと
「ぼくは鼻がいいんだ。犬と同じくらいにね。きみのにおい、もう覚えちゃったし、きみを探すのなんて簡単すぎるんだよ、ケン」
「んーそうなの?じゃあ、たたかいごっこは?」とケン。
「どうやってたたかうんだよ。きみとぼくとで」とパスパロ。
「そうだね、体の大きさがちがいすぎる」とケン。
するとパスパロがこう言った。
「じゃあぼくと一緒に森を散歩しない?」
「森ってどこの森?森なんてこの辺にはないよ」ケンが言うと
「ここから10分くらい走るとあるんだ」とパスパロが言った。
「10分?」ケンが聞くと
「そうだよ、10分。ぼくの足でね。ぼくは足が速いのさ。チーターよりもね。風よりも速いよ。さ、ぼくの首に乗ってみて!」パスパロは手を差し伸べた。
「背中には乗せてあげられないのさ。だってぼくの背中はトゲトゲだから。首に乗ってたてがみにつかまって!」ケンはパスパロの言う通り首に乗って大きなたてがみを掴んだ。
「さあ、出発だ!」パスパロはそう言うとビューンとものすごい速さで走り始めた。
本当に速い。車よりも電車よりも、ケンが今までに乗ったことのある乗り物の何よりも。
振り落とされないよう、ケンはたてがみにしがみついた。
そしてあっという間に森に着いた。
初めての投稿です。森に着いたケンとパスパロは…。また明日投稿します。読んでくださりありがとうございました。