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第二話

 アルマーとは、この時代に繁栄した人類の総称だ。アルマーにも大きく分けて三種類の種族があり、彼セリエンタルはビーストの種族である。


 ビーストは、500年前の大崩壊以降、二番目に誕生した種族であり、最も多種多様な容姿と能力を持つ。曰く、ビーストの原点は、アルマー最初の種族であるヒューマンが枯れ果てた環境に適応する為に原生生物との融和と融合を果たした種族であり、最も屈強な人類だと評されている。


「対戦表を見た時点で決まっていることだ。おい劣等種(にんげん)、誇り高きビーストは無辜の民を虐げるようなことも命を奪うことも良しとしない方針を徹底している。故に、()()()()()


 セリエンタルが一瞥(いちべつ)すると、視線の先にいる鉄くずが如き不格好な有り様のエルドル(人間)は静かに拳を握りしめて戦闘態勢に入る。


「・・・どうやら、()()()()()()()ようだな?まぁいいさ。この程度の問答にも至らない掛け合いすらまともに応じない者に容赦を掛ける筋合いも無し。だから―――」


 試合開始の合図が鳴り響いた直後、腹部への違和感と共にエリオットの蒼穹(そら)が反転した。


 ソニックブーム。音を置き去りにした物理的な衝撃は、エリオットの鎧を貫通し肉体を粉々に粉砕するだけの威力があった。アルマーの中でも特に肉体強化を得意とし進化した種族であるビーストですらこの領域(わざ)を獲得できるものなど、そう多くはない。つまり、この超音速の衝撃を形成できるというだけで、セリエンタルという獣人はルーキーとして破格の価値を示すことに成功したのだ。


―――だが、


「―――、これはどういうことだ?」


 辺りは砂埃が宙を舞い一時的な視界不良を起こした後、徐々に明瞭になっていく。脆弱な鉄くずを砕いた実感も、その先の肉塊を貫いた感触も確かにあった。けれど、視界に映るセリエンタルの拳はエリオットの鎧にすら届かずまるで寸止めでもしたような状態だ。

 

「・・・ゴフッ」


 エリオットが装着するアーマー、そのフルフェイスヘルメットから首を伝って流れ出る朱い液は、紛れもなくダメージを与えることに成功した証拠に他ならない。 


 セリエンタルは、数メートルほど後ろに飛び退いて臨戦態勢を整え直す。右手の感触をもう一度確かめてから、再度起きた事象を冷静に分析する。


(拳は通った。どの程度効果があったかはわからないがダメージは確実に与えている。・・・にもかかわらず、奴の鎧を砕くところか触れることさえできていない。どういうことだ・・・)


 セリエンタルが思考を巡らせる間、エリオットに動きはない。後から来る痛覚を必死に耐えるだけで精いっぱいで、今にも地面を無様にのたうち回りたいことこの上ない。


(衝撃によるダメージだけが通ったというところが暫定的な落としどころだろう。それも、衝撃破のような物理的現象を介さずにダメージだけを・・・どういう仕組みで?)


「おい劣等種(にんげん)、意識が残っているならオレの問いに答えろ。その程度で済んだのは、その鎧のおかげか?その鎧に事象を捻じ曲げる効果でも施されているのか?もしそうなら―――」


 ―――それは、古代の越権武装(アーティファクト)だ。


「そんな遺物をいったいどこか―――」


 その瞬間、数メートル先にいたエリオットが目と鼻の先にまで距離を詰めた。拳の先から鉤爪のような刃物が三枚顕わになり、蒼いオーラを纏ってセリエンタルの喉元を掻き切る。


 咄嗟のことで判断が遅れたセリエンタルは、焦燥しながらも再度距離をとって首元を触れる。出血は無く、傷一つ付いていないことから、エリオットの拳を凝視する。エリオットの拳に付けれれていた鉤爪の刃はボロボロに砕け散っており、最早武器として意味を持たない状態になっていた。


「・・・問答に応じる気はないか。なら、さっさとこの試合をオレの晴れ舞台として終わらせよう。そして、その古代の越権武装(アーティファクト)は戦利品として奪うとしよう」


「・・・・・」


 エリオットは語らない。その代わりに右手で握りこぶしを作ると、蒼い光を放ちその光は幾つかに分離してセリエンタルの上半身の様々な箇所にまで伸びていく。


「なんの光だ・・・」


 エリオットが静かに握りこぶしを手前に引いたその瞬間、勝負は決した。


 セリエンタルの体内から多量の出血と共に何かが飛び出した。それらは蒼い光によって釣り上げられ、再度鉤爪を形成していく。


「ゴハッ・・・はぁはぁ、いったい何が・・・」


 セリエンタルは、次第に立つことすらままならなくなり俯せに倒れた。

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