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鮒と洗濯

中々進まないですね。……ヒロインどころか女の子も出て来て居ない。

早く街に着かなければ……

「おお、そう言えばタケアキは【日常系魔法】とやらを得たのであったな。如何なるものじゃ?」

「え?いつの間に?!」

「俺は持っていないぞ!」

儂の言葉に、焚き火の前に居たハヤト達が愕然した表情になりおったぞ。



「ああ……さっきさぁ、ヤスケとさぁ、レンコン採りに行っただろ?そ、そこで、で、出たんだよ……」

途端にタケアキの様子がおかしくなる。


「な、何だよ?お化けでも出たのかよ。」

「お化けの方かよっぽどマシだ!

し、信じられるか?!

……ナマズの顔で、ナイスバディで、全裸で、色情狂の半魚人が大股拡げて誘ってくるんだぞ!!」

「……ちょっと何言ってるか分からない。

情報過多にも程がある。」


「うむ、先ほどあの辺りにて出おったな。首から上に鯰の頭が着いておって、魚であるが故に着衣はつけておらぬ。乳と尻は良く張っておったぞ。」

「余計に意味が分からない。」

な、何故に?



.........



半魚人(ギルマン)か。良く相手の得意領域で無事だったな。」

ハヤトが感心したようなロ調で咳く。


「確かにのう。もしあれが無言のまま水中より襲って参ったなら、儂とてタケアキを守りきれたか判らぬな。」

「そうだよな。正直相手が馬鹿で助かった。水から出てきたのと、武技の【疾風斬】が使えたのが良かったな。」


「え?【疾風斬】はメニューで見ても、グレーになってて使えないぞ!」

「そう言えば……普通に使えた。何でだろ?」

タケアキが首を傾げる。


「まあ、使えたのならば良いではないか。折角じゃ!ニ人に見せてやってはどうじゃ?」

「ん、そうだな。」

下履き一つの半裸状態のまま、すくっと立ち上がったタケアキが木刀を青眼に構えを取る。


「よし!武技 ー 【打ち落とし】!」

ぼひゅ!と音を立てて木刀が振り下ろされて周囲の下生えがばっと剣圧に弾かれる。

一 【逆卷】

タケアキの手首が翻り、逆袈裟斬りに切っ先が駆け上がり空気を斬る。

一 【疾風斬】

左逆袈裟の軌道から右の胴払いに剣筋が変わり、横雍ぎに振り抜く。


びゅおぉっ!と旋風が疾る。

三丈程先にあった木立の幹が真っニっに斬らればさばさと音を立て倒れていた。



「おおっ!凄え?!れっきとした遠距離攻撃だな。」

「武技だと威力もかなり強いな。」

「だろ?ぎゅん!って感じで、ばしっ!って決まるんよ。」


三人は素直に喜んでおるが、儂の見た所、この『武技』とやらは使い処が難しぞ。

確かにーつーつの技の威力は高い、それに速い。

……が、振り切った後に奇妙な『間』がある上、技と技の聚がりが、どうにも不自然じゃ……




『……き、貴様ら、い、何時から我等の存在に気付いていたの……だ?ぐ、ぐふっ……』

ん?

そんな事を、(フナ)が言ってきおった。

うん?

『よ、よくも隊長を……』

『許さん。目にも見せてくれる。』

んん?各々がそんな恨み言を口にしておるぞ。


「クソっ!半魚人ギルマン……かぁ?」

其の存在に気付いたハヤトが身構えるが、途中で首を傾げる。

……半魚人ではなかろう。

どう見ても、ひょろりと手と足が生えておる鮒じゃて。

贔屓目に見ても人の要素などは微塵も無いぞ。


倒れた木の向こうでは二枚下ろしにされた鮒が転がっておって、後は何やら文句を抜かす歩く鮒が三匹程うろうろしておるな。


「……鑑定!【フナッシー】 ー 『河川、湖沼、溜池などの水の流れのゆるい淡水域に生息し、水質環境の悪化にも強い非公認魚人。※汁プシャー!』ブフォッ?!」

突然、ハヤトが撃沈した?!何事だ?


「フナッシー?な、中の人が居るのか……」

タケアキが意味不明な事を言い出しておる。

「フナッシーに中の人など居ない!」

エンタも何事か言い返しておる?!



『喰らえ!我らが必殺技。』

ふなつしぃ……いやあれは鮒じゃ!

鮒共が叫び声を上げ、ばたばたと此方へと走ってくる……が、足が異様に遅い。


『はぁ!!魚体衝撃波ボディソニック!』

短小な手脚を振り切って、三体の鮒が飛んだ!



……一尺(約30.3cm)で、べちゃりと落ちおった。

『むっ?!やるな。貴様ら。』

『これは下調べだ。本当の地獄を見せてくれるわ!』

鮒供が口々に叫び声を上げておる。



「……武士の情けじゃ。エンタ、ハヤテ。

さっさと引導を渡してやれ。」

「これは酷い……」

「馬鹿だろ……コイツら。」

深い溜め息を吐いた二人が木刀を八相に構える。



『ぎゃあぁ……』

『我ら死すとも……』

『む、無念……』



………



「【浸透勁】……な、何て宝の持ち腐れなスキルを……」

「【種族 Level 】と【剣技 Level 】が上がったな。もしかすると水中だったら強かったんだろうなぁ……」

「さっきのナマズ頭……も、そうだったけど、もしかして魚人って馬鹿なのか?あ、俺泳いだせいか【水中機動】も生えてる……」

ふむ、三人は三者三様に戦いを振り返っておるな。


「ヌシら、不味そうにしか見えぬが……折角じゃ、あの鮒を食うか?」

「え……?けど、喋ってしなぁ。生理的に無理。」

「鮒って、マジで寒鮒以外は泥臭くて美味しく無いぞ。」

「泥を吐かせようにも死んでるしな。」

ハヤトは人として見ており、残りの二人は魚としての認識の様じゃな。


「そうじゃな……秋鮒じゃて、美味うは無いが、洗ってから煮込めば良かろうて。」

「ん、折角だから日常魔法を使うか。」

「そんな事出来るのかよ?」


「待て!?どうして……食べるのが前提なんだよ?!」



………



隊長と呼ばれていた鮒が、丁度二枚に下されていたのでエンタと二人で水場近くへと運ぶ。

「泥くせぇな……」

「そうじゃな……」

ドブの様な匂いに、これは食えないかもしれんな……と、内心思っておると、タケアキが両手を広げる。


「喰らえ!【 洗浄ウオッシャー 】、切り刻め!【 乾燥ドライヤー 】」

よくわからぬ叫び声と共に、半身が流れる水に包まれ、其の後には風に煽られる。


「どうだ?!」

いや、どうだと言われてもな……今、何をしたんじゃ?

「ぶっふふっ……我が力を思い知る事になるぞ?

では、其の匂いを嗅いでみるが良い。」

何を言っておるのや……ば、馬鹿なぁ?!

「く、臭く無いじゃと?!

「ど、泥臭さが無くなっている?!」

儂とエンタより驚きの声が上がる。


「見たか!我が魔法の恐ろしさを!どんな頑固な汚れや匂いも、我が魔法の前では無力と知れ!」

左手で自分の顔を覆ったタケアキが、芝居掛かった口調でそんな事をほざいておる。

「所で、何じゃ其の口調は?」

「魔法って厨二心をくすぐんね?」


『ちゅうにごころ』は知らぬが、碌な予感はせぬな。



………



「汚れや匂いは何処に行ったのじゃ?」

「ほら、こうやって別になる訳よ。」

そう言って、タケアキが薄汚れた水の球をぷかぷかと浮かせて見せる。


「で、汚れはポイね。」

指を振ると水の球は向こうへと飛んで行った。

「便利なものじゃのう。」


「……魔法ってこんな感じなのか?もっとさぁ……派手なの想像してたんだけどな。」

ハヤトが何処か不満気にブツブツと呟いておる。

「だから【 日常系魔法 】って言ってんだろ。俺だって、火の玉が出たりとか、どかんって爆発したりするって期待したわ!」

「けど、便利じゃん。風呂も洗濯も要らねぇんだぜ。」

ハヤトは理想主義で、エンタは意外に現実主義じゃの……


「あ、そうだ、タケアキ。俺に【洗浄】と【乾燥】の魔法掛けてくれよ。」

エンタが、手をぽんと叩きタケアキに頼んでおった。

「構わねぇけど、目と口は閉じとけよ!

ほれ、【 洗浄ウオッシャー 】、【 乾燥ドライヤー 】」

何じゃ!?変な叫びは要らぬのか……


……おい?!口を開けておるぞ?!

「タ、タケアキ!?エンタが口を開けておるぞ。大丈夫か?!」

「……あぁ?!ま、大丈夫何じゃね?」

そんなものか……?いい加減じゃな。


あ、終わった様じゃ。

「……す…」

「す?」

「す?!」

す、とは何じゃ?


「す、凄えぞ。タケアキ!こ、これ超気持ちいいぞ。」

「お、おお。そうか……?」

妙に嬉々とした様子のエンタに、流石のタケアキも引き気味じゃな。



………



「うむ、普通じゃな。」

「そうだな、普通だ。」

「そうか?俺は好きだぞ。」

「俺は嫌だ!」

何かと言えば皆で陣笠を突いておる。

陣笠を棒で突いておる訳では無く、鍋として使っておるのじゃぞ?


今日は蓮根と鮒の身が入っておる故に、此度は皆で一緒に箸を突っ込んでおる。

儂とタケアキにしてみれば秋鮒は脂が今一つ乗って居らぬ故に普通と言う。

エンタはこのくらいで美味いと言う。


此の期に及んで、ハヤトは頑なに食べようとせぬ。

ほれ、蓮根なら良いであろう。なぬ、鮒の味が滲みておるだろうと?


全く……気にするでない。




ああだこうだしている内に、儂らの二日目の夜が更けていくのだった。

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