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黒き蟻の城と駆除人達 2

次回からは主人公達視線に戻ります。

私の予想に反して、怪我どころか欠損部分に魔力迄戻っていた。


傷一つ無い両手を見ると、呆れ声しか漏れない。

……なんて出鱈目な治癒よ?

見た所、三人とも戦士と剣士にしか見えない。如何して治癒師よりも上位の魔法を?

……其の疑問は直ぐに判明した。

何て事!治癒魔法だけじゃ無くて、一角獣の角まで使っている!?

あちこちが足りて居ないコンラートの身体が見る見る癒されている姿を見て驚愕する。

アレだけの大きさの一角獣の角。買えば一体幾らするって思ってる!


……けど、どんな魔法でも失われた命迄は戻らない。

結局は、私にコンラートとそして私の護衛だった若い剣士が一人だけの、三人しか生き残って居なかったわ。


………


『取り敢えず、礼は言わせて貰うわ。私は魔法士へクセのエルカ。

……謝礼はグリニエッの街へ戻らないとちょっと無理ね。』

命を助けて貰った以上、礼はするけど此の巣穴から脱出しない限り謝礼なんて意味も無い空手形ね。

『俺は指揮官コマンダルトのコンラートだ。グリニエッの街の駆除人組合ゲヴェルクシャフトに加盟しているが、まぁ指揮官と言ってももう部下なんて碌に居ないがな。』

コンラートが卑屈に笑う。


「アンタらグリニエッから来てたのか。それじゃ、此処を抜けたら街まで案内してくれないか?」

少し軽薄そうだが、中々顔の良い男がそう提案してきた。

一見すると軽装で剣士っぽい外見をしているが、纏う魔力が強い。……恐らくは魔法剣士だろう。

因みに、私はこの男の上着を羽織っている。

身体は癒されているが、服は戻らなかった。

当たり前の様で、何処か苛つく話だ。

後は漆黒の見たことも無い形状の鎧を身に付けた重戦士と少し小柄な戦士の三人連れ。

……特徴的なのは共通して黒い髪と黒い瞳。

黒髪黒目は多属性の魔力を持つ者に多いが、殆どは中途半端な器用貧乏で終わる奴が多いわ。

さて、彼等はどっちだろうか?


「おっ?蟻共が来やがったな。」

タケアキと名乗った剣士が、洞窟の奥へと視線を向ける。

確かに小さい振動が伝わってくる気配が地面越しに感じられる。


「では儂が先鋒を務める故にタケアキは儂の討ち漏らしを、エンタは殿を頼む。」

「あいよ。」

「了解。」

淡々と軽い会話を交わし、ヤスケと名乗った重戦士がまるで騎乗槍の様に長大な槍を振り翳し腰を落とした。

……話し言葉から見るに恐らくは貴族か騎士の出かしらね?

けど、もっと緊張感を持ってくれないかしら?大体、馬に乗って居ない騎士など何の役に……


「ひぉおぉ!」

気合いの声と共に捻り扱き出された槍の穂先が、硬い装甲蟻の外骨格を易々と刺し貫き、振るっては薙ぎ払った。

其の其の陣形を大きく切り崩していた。

「おし!武技 ー 【 一閃 】!」

続けて横合いから放たれた武技の一撃が、残る蟻共を一掃する。

「せぃ!武技 ー 【 閃光 】!」

そして私達の後ろに居た筈の小柄な戦士が放った武技は、背後より迫っていた大蟻の集団を文字通りに一蹴していた。


『い、一閃に、せ、閃光?!上級武技だぞ!?初めて見た……』

その光景を見たコンラートが目を見開き驚愕の声を上げる。



ぞお……ぞぞぉ……!

先発隊がなす術無くやられた事に気付いた蟻達の大群が、一気に姿を現わした。

其れこそ四方八方から蟻の大群が湧き上がってきただのだった。

『ひぃいぃ!む、無理だ?!』

数百にも及ぶ大小の蟻の群れに、私の横に居た護衛戦士が腰を抜かす。

くっ……足手纏いめ……

「はっ!団体さんの御成りだぜ?!」

『チィイ?!……大いなる海よ 母なる大海よ 万物をも……

「はぁっ!『……天ノ河より零れしは 虚無の大河のー滴 空より直下する飛瀑となれ 【 瀑布 】!」

私の苦し紛れの【 津波 】の発動よりも遥かに速く、タケアキが唱えた大瀑布が轟音と共に落下する。

瀑布ホォーホヴァッサー 】だと?馬鹿な?!こんな大魔法をあっさりと……

迫り来る装甲蟻達が、巨大な水柱の前に次々と擂り潰され細かい破片と成り果てていく。


……そして、水が引いた後には蟻の欠片すら残されて居なかった。

な、何だこいつらは……


「タケアキ!あんまりデカい魔法は使うな。経験値と注意ヘイトがお前に集中し過ぎる。」

「心配すんな。今のは雑魚で続けて本命が来るぞ。」

「ヌシら!彼方より人型が来るぞ。」

その声に視線を向けると、大型の戦士級の大蟻と……其の先頭には?!


あ、あれは!?さっきの黒い蟲の重戦士……

『き、気を付けろぉ!や、奴は見えない程に速く強い……』

先程、奴に殺されかけた恐怖から思わず声が上ずる。


「ふん……よし、ヤスケ。そいつはエンタに任せろ。俺が後ろに下がる!」

馬鹿な?何を言っている?!

あの魔法剣士タケアキ攻撃手アングリフスシュピーラーだろうが!?

何故後ろに退がる?!


「……サンキュ!さて、鬼人オーガとどっちが強いか?楽しみだ。」

エンタよ呼ばれた小柄な戦士が嬉しそうに、剣を中段に構える。

『な、何をしている?!強敵は囲んで少しずつ削るのが定石だろう!』

コンラートが訳が分からないとばかりに困惑した様子で叫び声を上げる。

「……まぁ気にしなさんなよ。エンタは強いぜ?」

入れ替わりで私達の後ろに付いたタケアキがそう言ってにやりと笑ってみせる。

何故……そんなに自信があるのだ?


………


どん!と地面を抉る程の勢いで、蟲の重戦士の姿が掻き消えた。

「おぉ速ぇ?!……けど、真っ直ぐ突っ込んで来て如何するんだよ?!」

エンタがそう言って、事も無げに重戦士の攻撃を受け流した。

「流石に蟻だな。見た目より腕力があって、攻撃も重いな。」

距離を取ったエンタが、剣の切っ先を軽く振って小さく呟く。


『コンラート……見えたか?』

『いや、動き出しまでなら何とか……』

あれを受けた?見えているのか。

「動くぞ。」

タケアキの声と共にエンタが素早く踏み込む。

小さく小回りが利いた斬撃が次々と放たれるが、重戦士は両腕を巧みに使い其れを捌く。

捌ききれなかった一撃が首元に当たったが、火花を散らし剣先が弾かれた。


今度は重戦士が距離を取り、その姿をエンタが眇め見る。

「チッ、外骨格か?こいつ、結構硬いな……じゃ、これでどうだ?『……光よ集え 全てを貫く矢となりて 闇を切り裂け 【 光矢 】!』」

エンタの周囲に煌めく光の矢が次々と形作られ、神々しく周囲を照らした。

ひ、光魔法だとぉ?!


……次の瞬間には撃ち出された幾多もの光のプファイルが、四方から重戦士を貫き通していた。



………



「それで、どうだった?」

「昆虫だけあって下系の技能スキルは皆無だ!大当たりだぜ!」

「ま、虫じゃからな……」

三人が穴だらけになった蟲の重戦士、そして斬り倒された戦士級の亡骸の山の側で話をしていた。

一体、彼等は何者なのだ?


上級武技や高等魔法、それに光魔法まで使い熟す魔法剣士だと?

王都の宮廷騎士並みだと言うのか……


「よし、本格的に先に進むか。」

そう……はぁ?!

「蟻の巣なら奥の方は迷宮化してないのか?」

『ま……まさか。す、進むと言ってる様に聴こえたのだけど?』

「え?進むだろ、普通。」

もう理解が追い付かない。

この男達は何を言っているんだ。


「どうせ此の巣穴は潰すんだろ?水攻めでも構わないが、もし生き残りが居たら後々面倒だしな。」

タケアキが和かに言って巣の奥の方を指差す。

エンタやヤスケもあまり疑問に感じて居ない様子であった。

絶対に頭がおかしい……


………


漆黒の鎧を纏う戦士が繰り出す槍が縦横無尽に疾り、蟻達を次々と屠っていく。

あの十字架状の形をして槍の意味が、最初は分からなかったが今になると理解出来た。

あれは槍であり、鎌であり、剣であった。

突く刺すだけでは無い。引いては搔き切り、払っては斬り払う。

これ程の武威を持つ戦士など早々は見かける事は無いだろう。


細身の剣士が振るう剣が疾風の様に駆け回り、蟻の戦士達を打ち倒す。

其の一見華奢にも見える身体は鞭の様にしなり武技を繰り出し、平然と大魔法を次々と放つ。

憎たらしい程、余裕の笑みを浮かべて剣士は蟻達を斬り払い続けた。


小柄な戦士の持つ短めの両手剣が、有り得ない程の速度で戦場を踊る。

小柄な筈の身体は馬鹿げた程の怪力と速度を持って、蟻の戦士達を駆逐した。

疾風の剣が煌めくと蟻の首が宙を舞い。閃光の魔法が輝くと硬い外骨格を貫き通した。


……私は、英雄の誕生に立ち会っているのか?

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