猪みたいなものとヤスケの目標
更新します。
『ブビィブビィイイィン!』
其奴が突然、啼き声を上げた。
「……んだよ。うっせえ!」
びりびりと空気が震える耳障りな啼き声にエンタが顔を顰める。
尤もじゃ!煩いとの理由で屠っても構わぬのでは無いか?
「ああ……お前、言葉は分かるか?意思疎通は出来るか?」
エンタが何故やら態々、猪人に問い掛けておる。
「のう?タケアキ。何故エンタはあんな事を聞いておるのだ。煩い故にすぐ屠って構わぬであろう。」
「ん?……ま、オークも一応は、人かも知れんしな。もしかして近所の住民かも知れないし……
まあ、アレは無えとは思うけどな。」
儂がタケアキに疑問を問い掛けるが、微妙な返事であった。
『……ブビィ?ブモォ!』
一瞬、きょとんとした顔をした、おぉくであったが、いきなり哮り始めおった。
とは言え顔が猪である故、本当の所は良く分からぬがな。
然し、厳ついのぉ……
身の丈は六尺(約181cm)を優に超えておる故、儂らよりかなり背は高い。その上猪首でがっちりとしておるので三十貫(約112.5kg)近くはあるであろうから、小柄なエンタの二倍近いのでは無いか?下手な力士も真っ青じゃな。
その上で、素ッ裸じゃ……
お陰で非常に見苦しい『物』が先程からぺちんぺちんと内腿を打って煩わしい音を立ておる。
「果たして、あれを人と呼んでいい物かの?」
「喋らねぇから余計に面倒くさいよな。」
儂とタケアキがひそひそと話しておると、猪人とやらは両手を振り回し、何やら猛っておる。
「お、そうだ。ヤスケならなんとか通で意味分かるんじゃね?」
「ヌシらも女神の翻訳機能があるじゃろうて?」
「……言われたら、そりゃそうだな。良し、エンタ!其奴は獣だ。
思いっ切り、張り倒して良いぞ。」
「だな!取り敢えず俺一人に任せてくれよ。」
振り向きもせずに答えたエンタが、両手剣を持って走り始める。
『……ブもォおォオォ!!』
向かって来るエンタを見た猪人が興奮し、涎を垂らしつつ咆哮を上げる。
「ひゅぉ!」
力任せに振り抜かれた棍棒を、エンタが体を横滑りさせる様に躱し懐に飛び込んだ。
『ギィ?ギュ?!』
儂らが観戦気分で見ておると、懐に飛び込んだエンタが猪人の脇腹に一撃入れて距離を取った。
「おぉ上手い!」
「良き動きじゃ!」
素早く地面を蹴って左腕と腰へと続け様に一撃を放ったエンタが、またしても距離を取る。
「えらくまた、慎重じゃな。」
「まぁ、オークって言えば物理&強靭の代表格だからな。」
タケアキが言う様に、その後も猪人は幾度と無くエンタの攻撃を貰っておるが怯んだ様子も無く棍棒を振り回しておる。
『ブモォ!武技 ー 【 爆砕 】』
そう叫んだ猪人が棍棒を勢い良く振り下ろすと、冗談の様に巻き込まれた地面が弾ける。
「うおぃ?!武技を使うのかよ?」
「何で、武技の所だけ喋れるのじゃ?」
儂らが色々と疑問で首を傾げておると、土埃が吹き消さされ、大きく距離を置いていたエンタが右脇構えの姿勢のまま低く突っ込む姿が目に入る。
「どっゼェい!」
力強い一撃は猪人の左膝裏から膝頭に掛けて深く斬り付けていた。
『ブギャあ?!』
軸足を斬り払われた猪人の身体がぐらりと揺れる。
「ひゅぉ!武技 ー 【 逆巻 】」
右脚を深く踏み込んだエンタが、左下段から剣を跳ね上げる。
鈍い肉を打つ音と共に、棍棒を持った猪人の右首から先が宙を舞う。
『ブ?ブォおォン?!』
堪らず猪人の口から涎と悲鳴が溢れ出す。
成る程、胴体を薄く攻めて意識を向かせた上で、此処ぞで末端部を狙うか。
エンタめ、最初から狙っておったな。
……左脚と右腕を殺された以上は奴も詰んでおる。
ま、エンタの勝ちは揺るがぬであろう。
奴めは其の後も左腕と碌に使えぬ右腕を懸命に振り回しておったが、大して踏み込めぬ以上、脅威は半分以下じゃな。
エンタは決して焦る事も無く、出入りの大きい俊敏な動きで攻撃を繰り返し奴を攻め立てた。
遂にエンタの動きについて行けずに、猪人の体が大きく流れる……
「ここじゃな。」
「お見事!」
大きくつんのめった猪人が、エンタへ対し頸を晒す。
「武技 ー 【 袈裟懸 】!」
肩口から鎖骨を砕いた一撃は勢いを止める事も無く猪人の心臓を斬り裂いていた。
………
「よっしやぁ!単独撃破だ。種族レベルも上がったぜ。
……んで、武技 ー 【 爆砕 】ってさっきの技か?使えるのかアレ……?
……と【 性豪 Level.1 】、【 色魔 Level.1 】って何だ?【 絶倫 Level .5 】って何に使うんだぁ!」
良かったのうエンタ……
「良かったなエンタ。これでお前も夜の帝王になれるぞ。」
ほれ見よ、タケアキも喜んでおるぞ。
「嘘付け!馬鹿にしてんだろ。」
「そんな事は無いぞ。」
「そんな事は御座らぬぞ。」
「こん畜生供め!」
………
「まあ、そう言うがなエンタ。種族レベルの他も色々と上がってんだろ?」
「ん?まあな。剣術、棒術に格闘技か。」
「ほう、其れは上々では無いか。」
ま、此奴らは敵を倒す度に強くはなるのは、良いのじゃが……
「ん……後、【 剛身 】?何だこれ?変なが生えてんな。」
「肉体強化系か硬質化系じゃないか?オークの奴、結構頑丈だったろ?」
「確かに。武技使ってやっと斬れるって感じだったもんな。」
……この様にひょんな事で『新たな力』を手に入れてしまうのじゃ。
『武技』や『すきる』とやらは確かに強力じゃが、頼り過ぎるのも良くは無い。さっきの猪人などが良い例じゃな。
あの場で、技を使う事によってエンタへと隙を無意味に晒した。
あ奴にもう少しまともな頭が有れば結果は違ごうたかもや知れぬな。
ま、其れに儂だと普通に刀を振るえば再現出来るのもどうかと思うのじゃがなぁ……
………
「でさ、ヤスケ!オークって美味いらしいんだけど早速、食ってみるか?」
タケアキがにっかりと笑う。
「お!タケアキ、香草あるんだろ?香草焼きにしようぜ!」
エンタも呑気に笑っておる。
考えたらこ奴らは、まだ十六、七じゃったな。
ふん……こんな形をしておるが、中身は五十の爺いじゃ。
こ奴らを立派な勇者とやらに育てるのが、儂に課された運命かも知れぬな……
少しはヤスケの中身を引き出してみました。




