魔族とやらがやってきた。
連投です。
葉のない枝には春の如く滑かな日の光りをうけ、梢にゐる見知らぬ赤い瞳の鳥の尾を動かすのさへ、鮮かに影を草原へ落してゐた。
背後には見慣れぬ木々が立ち並んでおり、目前には青々しい草原が開けていた。
儂は、ぶれざぁと申すらしい珍妙な着物を着た小僧供三人と共に此の地へと降り立っていた。
「ふむ、此処が相浦と申す地や。」
折角の野原と申すに碌に馬も放牧されておらず、田畑も拓かれて居らぬとは勿体無い話じゃ。
そう思い物珍しく周囲を見渡しておると、小僧供が俄かに騒ぎ始めた。
「おっ!ステータスが出たぞ。」
「マジか!……って職業が『勇者・(ひよっこ)』って出てるんだけど。」
「種族Level.1って、レベルが低いな……チッ、スキルちっとも無いぞ。」
そう申せば、すていたすだのういんどなどと『ふえおおね』が言っておったな。
ま、儂には委細関係無い事であるがな……
……ぬ?
「小僧供……少し下がりおれ。」
中々に隠形に長けておるが、隠し切れぬ只ならぬ気配を感じ取り、手にした十字槍を諸手で構える。
「えっ?ヤスケ何言って……」
確か此の細い男は水谷 颯斗と申したな。
ハヤトが落ち着かなげに周囲を見渡していた。
後の二人は身の丈が小さい方が木田 炎太で、短髪が鈴木 剛昌であったか?
「これ、其処に潜んでおる者。さっさと出てこぬか。」
野原に鎮座した七尺ほどの巨石へと向かって話し掛ける。
『フッ……我が隠形の技、よくぞ見抜いた。』
そう言って先程近くに居た赤い目をした鳥を指へと乗せた、二本の角と尻尾を生やした黒づくめの男が巨石の陰から姿を見せおった。
彼はまた、奇怪な奴じゃのぉ……
「……鑑定!クソっ、ステータスが殆ど見えない?!種族が……ま、『魔族』?」
ハヤトが驚いた様な声を上げておる。
『ほう、鑑定眼持ちか……ま、レベル差がある故に、碌にステータスは見えないであろうがな……くくっ、勇者の卵は卵のうちに……』
と余裕すら感じさせる口調で、そこまで言った魔族とやらがぴたりと動きを止める。
『……お、おい?なんだソイツは?ど、如何してそんな奴が居る?』
魔族とやらが驚愕の視線を儂へと向け言葉を詰まらせておった。
何じゃ?無礼な奴め。
「ふむ、鬼やら魔族かは知らぬが、此奴を倒せば良いのか?」
傍に居たタケアキへと問い掛ける。
「え?ヤスケ、あれに勝てそうなの?」
近くの木の陰に隠れて居たエンタとタケアキの二人が驚きの声を上げる。
「見た所、大して強くも無かろうて、第一に無手じゃぞ?あは余程の阿呆じゃな。」
思わず素で答えていると、魔族とやらが怒声を上げおった。
『だ、誰が阿呆だ!誇り高き貴族である私、〝疾風の騎士〟ビュガリォ……?』
呆気なく、奴の首がぽとりと落ちる。
名乗りの途中であったが、隙だらけの上、煩かったもの故に十字槍を突き出したのじゃが……奴は避ける事も無く、あっさりと首が落ちた。
……幾ら何でも、弱すぎでは無いか?
「おお!レベルがなんかスゲぇ上がったぞ?」
「どうやらパーティを組んでいたら一緒に経験値が入るみたいだ。」
「スキルが……【疾風斬】?中々な有効なスキルが手に入ったな。」
三人が口々にそんな事を言って嬉々とした様子で虚空を見つめ指を動かしている。
……なんとも滑稽な光景であるな。
『……ク、クックック……い、良い気になるのも、今の内だ。我など…ギャァ!』
生首の分際で何か喋り始めたので、太刀で唐竹割りに真っ二つにすると悲鳴を上げ霞の様に消えてしもうた。
「ヤスケ……其れはちょっとヒドく無いか?何か言ってただろう。」
「そうであるか?」
「あ、魔石が落ちてる。」
こうして、儂らの初戦は無事に勝利と相成ったのであった。
◆◇◆◇◆
『ねぇ?フィオーネ。どうしたの、そんな難しい顔しちゃって。』
天界に戻り残務処理をしていた私へと、同僚の女神が話し掛けてきた。
『あら、ピラオーネ。ほらアイウラの件で、地球産の勇者を送り込んだんだけどねぇ……変なのよ。』
『アイウラ?……ああ、二級管理神が行方不明にになった世界ね。何処かでサボってんじゃ無いの?』
ピラオーネが肩を竦め、隣の事務チェアーにどかっと座り込む。
『二級神なんてどうでも良いわよ。申請しても碌に返事が無い神なんて、どうせ判子押すだけの簡単な仕事の癖して!
……そうじゃ無くて、書類を見ても三人しか勇者は召喚して無いのよねぇ?』
『ふむ?どれどれ……』
そう言って私の手元にある稟議書を受け取り、パラパラと眺める。
『……んん、ちゃんと転生局や死亡省から判子貰ってるじやん。ウチの局長の判子もあるし、別に変な所なんて無いわよ。』
『添付資料にも不備は無いわよねぇ。』
『何がおかしいって言ってるのよ?』
ピラオーネが首を傾げる。
『……転生の部屋に、もう一人いたのよねぇ。』
『はっ?!……あ、あんた、マジで言ってんの?』
『口調が崩れているわよ。』
『口調なんてどうでも良いわ!どうすんのよ!?それって絶対違う所に行く予定の人!』
『あ、やっぱりぃ?
考えたら色々と変な人間だったのよねぇ。』
『はぁ……で、何処が変だったのかしら?』
呆れ顔のピラオーネが溜め息混じりに聞いてきた。
『そうねぇ……んんと、神威は効果が無いし、勇者の初期設定セットと特別オプションの選択式チートパックが付けられなかった事とか……』
『はぁあ?どうするのよ!?チートパックどころか、初期設定セットすら無いなら只の人じゃ無い!』
『まぁ只の人として過ごせば良いんじゃ無いのかしらぁ?』
『……私は知らないわよ。ちゃんと主任には報告しなさい。』
『えぇ……報告しなきゃ駄目?』
『駄目!』
……はぁあぁ、面倒くさいわよねぇ。
ストックが無くなるまでは頑張ります。