どうやら儂は死んだらしい。
まったり、ぼちぼちと進みます。
どうぞよろしくお願いします。
我が名は高木能登守鑑房。
通り名を弥介と相申す。
高木の家は肥前の国、佐嘉郡高木村をその本領とし、古くは刀伊の入寇を撃退するのに活躍した大宰権帥藤原隆家を祖とする。その會孫文貢のとさ高木を称し、以降は貞永、宗貞、宗家と続く。宗家は源平合戦に際して源氏方に立ち、家宗は元寇で活躍し、貞房は南北朝時代には足利氏に属するなどして、巨大な勢力を誇った由緒ある名家である。
ま、とは云えども過去の過ぎ去りし話に過ぎぬがな。
さてはて、儂は死んだのでは無かったのか?
.........
ふむ?このー面に広がる白い場は一体全体何なのであろうか。
儂は周りを見渡し、一人呟く。
全く、何処まで広がっておるかも知れぬし、誰も居らぬではないか。……もしや此処が極楽浄土と申す所かや?
そう思い何時もの癖で、頬当てを外し顎髭を扱こうとするも……
あいやしたり?顎髭が無うなっておる?
不可思議な事もある物じゃ、と首を傾げていると……
『……さぁ勇者ょ。我が元に駆け付けるのです。』
何処からとも無く、何処か舌っ足らずなロ調の女子の声が致した。
『さぁ······勇者達よ。早く集うのです。』
ふん、このまま彷徨うておっても致し方御座らぬな……此処はーつ向こうてみるか。
そう一人呟き、声がしたであろう方向ヘと歩みを進める事とした。
『そうです……勇者達よ……こちらです。
さあ早く。』
さてはて、果たして此の声の主が言っておる「ゆうしゃ」とは一体全体何であろうか?
ま、儂の知った事では御座らぬがな。
そう呟き……鎧櫃を担ぎ上げて、白い世界を一人歩み始めた。
.......…
ほぅ?異人の女子であったか。
俱の目の前には、明るい孤色の御髪に深支子色の布を身体へと巻き付けた娘が床几へと深々と座っておった。
そして、其の前には三人ほどの背ばかりがひょろひょろと高い小童が呆然とした顔で突っ立っておった。
しっかし……娼館の女子であろらか?
かのような卑俗な装いとは、女子としては些か淑やかさに欠けるというものであろうて。
「此処はどこなんですか?!」
「も、もしかして僕たちは死んでる……」
「い、異世界転生ですかぁ……」
『まぁまぁ……あなたたち、そんなに慌ててはいけませんよ。』
小僧供は口々に酷い訛りで娘へと話しかけており、娘はにっこりと菩薩の様な満面の笑みで其れに答えておる……が、一体何の話をしておるのじゃ?
それに……あの小僧共、近うで見らば幾らなんでも体が細すぎやせぬか?
そにあの珍妙な着物は何じゃて?伴天連の宣教師であろうか?
「あゝこれ、そこなる娘御。此処は何処であるかどうか教えて呉れぬか?」
真っ先に、此処が何処で在るかが気になったが故に、儂はそう問い質した。
『あらぁ……?まだ他の子が居たのねぇ……おかしいわね……ぺぇっ?!』
ゆっくりと此方ヘ振り返った金髪碧眼の瞳が、儂の姿を見て何故か知らぬが驚愕のあまり大きく見開かれる。
「ぅ、うわぁ……」
「もう敵が出やがったのか?!チュートリアルさえ始まって居ないって言うのに?」
「な、何だよ?」
小僧共は腰を抜かさんばかりに驚き、這々の体で逃げ出そうとしておる。
情けない事に腰が抜けて動けぬ様子じゃ。
何じゃろうか?
儂は此処に参ったままの格好をして居るに過ぎぬと言うに……如何様にも解せぬな。
黒漆五枚胴黒革縅具足に、錆地塗鉄板の頰当。垂は黒漆塗煉革の素縣縅。
手に持つるは全長十尺六分余、穂の刃先はー尺六寸一分五厘の黒漆塗り十字槍。
左の肩に掛けしは七尺五寸の長弓と、右脛には廿と四の鏃を治めし矢筒をば吊るす。
腰には刀身の反りは浅く身帽が広く重ねが厚し肥後国菊池住同田貫を大小二本佩く。
賀実剛健こそがわが身上にて、要らぬ飾り立てなどは無用に御座るな。
何がおかしいと申す?
『あ、あの……ね。あなた転生者の子……よ、よね?』
何がおかしいものかと我が身を包む具足を見回しておると、女子が躊躇いがちに声を掛けて参った。
……はて、おかしい申せば何故に儂は具足を纏っておるのじゃ?
先程までは平服であった筈であるが……
まあ、良いか。
「むぅ?転生者とやらが如何なる物かは知らぬが、我こそは高木能登守藤原朝臣鑑房也。通り名を弥介と申すが故、弥介で相構わぬ。」
『え……と、は、はぃ……ヤスケさん……ですか。
えぇ……と、私はフィオーネと申します。見ての通り女神ですわ。』
何故か首を幾度も傾けておったが、気を取り戻したらしい『ふぇおぉね』とやらが、些か踏ん反り返り気味の姿勢で尊大に名乗りを上げた。
「へー、やっばり女神だったんだ。」
「フィオーネ。僕たちはどうすればいいの?」
「責任取って、チート能力貰えるんだろ?!
其の言葉に元気を取り反したらしき小僧共が嬉々とした様子で騒ぎ立て始める。
……なんと現金な奴らであろうか。
『女神たる我に対し、不遜なるぞ!……お黙り!』
そんな事を思っておると『ふえおおね』が眦を決し、怒鳴り声を上げる。
ほぉ。此は中々に胆力の乗った良き聲にあるな。
『ふえおおね』の発した聲の前に、小僧共がまるで蛙の様に、ベちゃりと音を立て地面にひれ伏す。
見れば、青くなった顔からは脂汗をだらだらと流し始めておる。
『あらあら、ヤスケさんにもご迷惑を掛け……え?』
素知らぬ振りで突っ立っておったら、『ふえおおね』は、其れ迄浮かべていた笑みを固まらせ、儂の姿を驚愕の表情で眺めて固まりおった。
其の程度の威圧に武士が容易に屈すると思うておるのか?
「む?平伏した方が宜しかったか?」
『え?い、いえ……結構です。ど、どうして、神威が効かないのかしら?』
『ふえおおね』が更に首を捻っておった。
「して、何か話があったのではないのか?」
『あ、はい。そぅでした。……あ、あのぉヤスケさん……す、少し怖いので、其の兜と仮面を取って頂けませんか?』
「む?仮面とな?……ふむ、頰当の事であるや。」
言われた通りに、兜と頰当と取り外してみせるが……
「ふむ、こは失礼致した。.....む?」
兜を被る際に蓄を解いておいた髪が零れ落ちるが、其の髪が黒い事に何処か違和感があり思わず動きを止める。
……儂はもう五十じゃぞ?何故に髪が斯様に黒い?!改めて見ると黒々とした太い黒髪、そして、皺が少ない手に正直驚きを隠せずにいた。
『はい!ではでは、皆さん。改めまして宜しくおねがいしますね。
私はこれからみなさんを異世界へと誘う三級二種神の女神、フィオーネでぇす。
まあ、既に気付いているとは思いますが、皆さんは一度元の世界ではお亡くなりなっていますよぉ。
早速ですがこれから、みなさんには異世界である【アイウラ】ヘと旅立って頂き、其の地で勇者として世界を救って頂きますねぇ。』
ふむ……此の娘、何を申しておるかちっとも解らぬな。
取り敢えず数日間だけ、連投予定です。