魔法訓練
朝目覚めると、壁は完成していた。透明な壁ができていた。
「おい、起きろよ。壁が透けてるぞ。これじゃ抜けてるのと変わらないじゃねぇか。」
俺が壁越しに叫ぶ。
「zzz...」
やはりリブロはまだ寝ていた。
「...」俺は無言で塔底無を振るい壁を貫き、そして切り裂いた。
壁はガラガラと音を立てて崩れる。
「わー!なになに!?何が起こったの!?」
リブロは飛び起きて何が起こったかわからない様子でいる。
「お前が作った壁が透けているんだよ。壁の意味がないぞ。」
そういうと、リブロはやれやれという感じで鼻で笑った。すごくイラっと来る。
「魔法でちょちょいと作ったのさ。すごくお手軽にできるし、耐久度も抜群!...のはずなんだけどね。なんで壊れているんだろう…?まあ、昨日は忙しかったからね。
それに、魔術師がそんな木材をトンテンカンと組み立てるのなんて格好が悪いでしょう?」
魔術師とか言ったな、多分自称なのだろう。
「で、何が忙しかったんだ?」
そう聞くとリブロは待ってました!とばかりに謎の機械を引っ張り出して説明を始めた。
「昨日はマナを安全に凝縮する機械を作っていたんだ!
人力でやっていると、限界がほとんどわからないからね、まあ私は何度もやってきたから勘でだいたいはわかるけどね!
それで、この機械の名前は全自動高濃度魔力製造機っていうんだ!
内部に強い引力を持つ疑似的なコンパクト星を生成して、その引力でマナを集めるんだよ。
我ながら天才的だね!
まぁ、それに耐える外装がまだ完成していなくて完成度としては50%ほどだけれど。」
…コンパクト星?
それって、ブラックホールの仲間じゃなかったか?
「ちなみにそれを動かしているときに外装が壊れるとどうなるんだ?」
「平たく言ってしまえば太陽系が吸い込まれるね。だってものすごく強い引力だからね。」
俺は機械にかかと落としを繰り出し、完全に破壊した。
「わぁぁぁぁ!なにすんの!」
リブロは半分までできていた力作を破壊され泣き喚いた。
「お前がやばい機械作るからだろうが!失敗した時の代償がでかすぎるんだよ!
それと、こんなもん作っている暇があるんならもうちょい壁を作ることをがんばれよ。
優先順位がおかしいだろ。」
何故こいつはそんな機械を作れるんだ?本当に天才だったりするのだろうか…
「確かにそれはそうかもしれないね。
お詫びに魔法でも教えてあげるよ、点数ひどかったもんね、出せた魔法はたったの2dlの水だもんね、私の力を貸してあげようじゃないか!」
リブロは俺の結果の紙をひらつかせ、ニヤニヤと笑みを浮かべる。いつ取って行ったんだ...。
だが、たしかに魔法の実力はひどいというのは明らかだ。
魔術師を自称するくらいなのだから魔法も得意なのだろう。
「まあ、必要といえば必要だからな…。」
そういうとリブロはうんうんとうなずきながら。
「オッケー!交渉成立だ。第一魔法訓練所で集合だよ。私は先に行っているとしよう!」
そういうとリブロはローブを着て外に出て行った。...あれ?俺が壁張らされる流れになっていないか?
___小一時間して、第一魔法訓練所に到着した。体育館のような形で、魔法を打つための的が数十個並んでいた。
「お、来たね!じゃあ早速教えてあげよう。
まず、自在魔法と拘束魔法の存在については知っているかな?」
案外まともな質問である。
「ああ、自在魔法のほうが使いやすくて便利なんだろう?」
俺は簡潔に返す。
「確かにそれもあるんだけれど、自在魔法と拘束魔法には大きな違いがある。それは、魔法の自由度だ。
例えば、空を飛ぶ魔法があったとしよう。
これが拘束魔法の場合、空をただ飛ぶだけだ。
それでも頑張れば飛行機ぐらいの速さはあるけれどね。
自在魔法になると、これが空を自由に飛べるようになるんだ。
わかりやすくいうと、キリモミだろうと急降下だろうと、超高速で自在に飛ぶことができる。
これだけでも簡単に戦うことができるんだ。
といっても大体の人は自在魔法をうまく使えずに生きているんだけどね。」
なるほどな、超強力になるわけか。
「じゃ、俺にも自在魔法はあるのか?」
俺がそう聞くと
「もちろんだとも!
村人君の場合だと、魔法に関しては実際に使ったことなんて一度もなかったんだろう?
それで気合で水を出せたってことは、きっと自在魔法は水だね。
今日は水をどんどん訓練して行こう。」
水、か。使えんのか?
「まずは水を出せるようにしてみよう。前に水が出た時はどんなことを考えていた?」
「うーん、手に力がたまって行って、そこから出てくる感じだった気がする。」
「じゃ、それをイメージしながら出してみよう、今度はもっと早く出てくるはずだよ。」
そういわれ俺は手に力を流し込んでいくイメージをした。
流れて...流れて...。そしてたまり切ったものを出す!
すると、水の玉が手のひらに浮かび上がった。
「おー!」
俺は驚きとうれしさで声を出す。
「うまくいったね。
それは村人君が魔法で出した特殊な『水』。
君の思い通りに動かせるよ。」
リブロの言葉を聞きながら俺は水を伸ばしたり形を変えたりしてみた。
「そうそう、そんな感じ。次は一度に出せる水の量を増やす練習が必要だね。」
それから俺は小一時間練習をした。
最終的に最大3000L放出することが可能となった。
「次は何かこういうことをしてみたい!っていう物を思い浮かべてみるんだ。
『水』は流れを動かしたり、固定したりできる。
形状変化後にその形を保ち続ければ固い武器になるし、水圧で水鉄砲を放つこともできる。」
なるほど、液体だから自由に扱えるのか。
「それなら...槍とかつくってみたいな。」___
そのあとは早かった。槍、温度調整、水鉄砲、使い方はだいたい分かった。
水の温度を下げることで凍らせることができた。
これに関しての使い方は後々考えることにしよう。
水鉄砲は凄まじい水圧で的を十数体貫いた。
そうして魔法の使い方にも慣れ、便利ということで飛行魔法と高速化の魔法も教えてもらった。
満足のいく結果になったところで帰ったころにはもう夕方になっていた。
「ふー...今日は充実感があっ...た...」
唐突に全身から力が抜ける。
「おっと、大丈夫?体内のマナが切れちゃったみたいだね。」
リブロは倒れかけた俺を受け止めてくれた。
「訓練所の中はマナの濃度が外と比べて高いからね。
外に出てマナが足りなくなったんだろう。
これ、飲むといいよ。」
そういうとリブロは錠剤のようなものを渡してくれた。
「これは...?」
「これはマナ薬、私のマナを凝縮する研究の過程でつくられた副産物だよ。
飲めばすぐに体内のマナが満ちて元気な体に元通り!
もっとも、そのあと睡眠をとらないと完全回復はしないけれどね。」
俺はそれを受け取り飲み込んだ。
「...苦い。」
「おやおや?村人君は苦いの苦手だったかな?
おこさまだなぁ。お礼としておぶってくれよ。
私、歩くってのは好きじゃないんだ。」
「歩いてくれ。」
そんなこんなで俺たちは帰路に着いた。
俺は案の定壁の張り直しをすることになった。
リブロにはしばらくの間研究を禁止させた。