パーティー
入学式から10日ほど経った。
あれから特に変なのに絡まれることもなく順調に学校生活を送れている。多分、アカデミーのカリキュラムがきつすぎてそんな余裕がなくなったんだろう。すれ違いざまに嫌な目を向けられることはあっても、何か行動する余裕はない。
泊りがけで攻略者の基礎中の基礎を学ぶ実技演習や、ダンジョンに潜った際の基本知識である持ち物やその使い方。ダンジョン内で必要なライトや火、水などの初級魔法を学んできた。
1年生は特に、ある程度締め付けておかなければすぐに調子に乗って死ぬこともあり、ここで気を引き締めさせるという意味合いが強いそうだ。
かくいう俺のCクラスもここ数日はかなりハードな日程になっている。授業としてダンジョンへ潜るのが、このアカデミーの教育の一環。Dクラスも含めて、アカデミー中の生徒たちがパーティーを組んでダンジョンへ向かう。
「やっとこれで俺たちも攻略者か!」
「今日からの活躍で俺たちもAクラスに」
「それは無理でも、やっぱいい成績は取りたいよなぁ」
クラスごとに能力が異なり、その能力に合わせて余裕を持たせないハードスケジュールになるため、Cクラスはむしろ最も過酷な日程であったと言える。当然、ダンジョン内における到達目標が上位クラスとは異なるが……。
「となると、やっぱパーティーだ」
「うちのクラスでここまで成績がよかったのは、アルビス様とか、キリア様か……?」
「あれは、無理だろ……貴族は……」
「だよなぁ」
貴族はクラスを超えて当初からある派閥でかたまっている。パーティーを組むにあたってもそちらが優先されるだろう。というより、今名前の出た2人は試験当日調子が悪かっただけで実力はBクラス相当。それに貴族はすでに初級魔法をはじめとした基本スキルは教育されている。
アカデミーに入っている生徒たちでも、貴族と平民では根本的な教育レベルに差がある。もちろんそれでも、入学試験を突破した生徒の殆どは基本的な教育は受けているが、それでも教育を受けている期間や質には差がでてしまうというのが実情だった。
「となると、やっぱ自分たちでなんとかしないとか……」
「そうだよなぁ……」
クラスメイトたちも各々現実を見始める。となるとCクラスの中でパーティーを考えるわけだが……。俺も適当に、あまり無茶しなそうな人たちと組まないといけない。
とはいえ男子は特にほとんどまだダンジョンに夢を見ている。かといって女子は声をかけづらい。10日もあって女子と喋ったのは必要最低限の事務連絡だけ、回数も2,3回だ。パーティーを組みましょうなんてとてもじゃないけど言えない。
「まずいな……」
パーティーは今後1年間、成績だけでなく、進路にも影響を与える大きな存在であり、無視できるものではない。別にソロでも問題はないが、Cクラスがソロで成績を維持していたら嫌でも目立つ。変なのに絡まれる可能性も高い。目立つのはいいにしてもプライドの高い貴族たちを相手するのはめんどくさいからな。
現実的にダンジョンに慎重にあたりつつ、ほかの進路を視野に入れてくれると考えれば、俺もBクラスと組みたいくらいだが、これまで目立った活躍は見せていないので高望みだ。
どうしたものかと考えていると、教室がざわめきだした。
「なぁ、あれ」
「なんでこんなところに?」
「用があるんだろ、誰かに」
「もしかして俺か?こっち見てる気がする」
教室の外に、と言ってもかなり距離はあるが、マリーが来ていた。
Sクラスも授業が終わったようだ。
「でもお前、黒の姫と組みたいか?」
「いや、俺は……」
「というかこっからSクラスと同じとこに行ったら、あれ見ることになるのか……?」
「きついな……」
黒の姫、マリーはやはりあの力がネックになってクラス外でも有名人のままだ。いやSクラスの人間はほとんどみんな有名人だが。
マリーも別に、特殊な力があるとはいえあの力なしでも十分強い。というか、Cクラスの人間なんか束になってもあの力なしに制圧できるくらいには強いが、良くも悪くも嘘がつけない性格のマリーはあの日以降もゾンビ軍団の力を遺憾なく発揮している。
「いっそ、マリーと組むのはありか……?」
知らない仲じゃない。死ぬほど目立ちはするだろうが、アカデミー内で目立つことより、その先しっかり仕事に就けることが重要と考えれば、マリーと組んでいれば成績的にも問題は起きないし、入学式のときのようなトラブルも遠ざかる気がする。
「我ながらいい案なのでは?」
となると、マリーに声を掛けるか。いやでも……だがソロよりはマシか……?そもそもマリーは何しに来たんだ?
そうだまずマリーに声をかけて目的を聞こう。話はそれからだな。直接声をかけるのは目立つから合図だけ出せば……。
そんなことを考えて動き出そうとしたときまた教室がざわついた。
「おい!あれ!」
「白の姫まで?!」
Sクラスは普段学外での授業が多くここに来るときはそれぞれに用事があるときだけという前提がある。
その上で2人も注目の同級生がやってきたのだ。一番一般人の多いCクラスがざわめき立つのは当然だった。
クラス中、いや隣のBクラスやAクラスも巻き込んで散々注目を集めたフローラ姫は、マリーと違ってまっすぐ目的にむかってきた。
「いました!リカエルくん!私です!」
「まじか……」
嫌な予感はしていたが、フローラ姫はまっすぐ俺の方へやってきた。
「リカエルって誰だ!?」
「知ってる!入学式の日も……」
「あいつ、試験のときシャドーを暴走させたんじゃ……」
「そんなやつがなんで!?」
注目を集める覚悟はしたが、フローラ姫が相手では話が変わってしまう……。目立つだけで得られるものが望むものと遠すぎる。マリーのように周りが避けてくれることはなく、むしろ入学式後のようにやっかみが増えることは間違いない。そして何よりも。
「リカエルくん!私たちとパーティーを組んで、ダンジョンをクリアしましょう!」
彼女はダンジョンのクリアという、俺がもう二度と関わりたくない目標を掲げてしまっていた。