第7話 捜索
師匠と徒歩で姫さまを探しに行く
城下町を歩いていると時々人々の視線が気になる。
しかし、「まものが出たぞ!」みたいな過剰な反応をする人はいない。
せいぜいひそひそと影口のような小さい声が聞こえるくらいだ。
「時にお主、名はなんと申す?」
『レインといいます、姫さまがつけてくれました。』
「ほう、さすがフランだのぅ、いい名前をつける」
なんというか、師匠も姫さまが好きみたいだ。
姫さまには人を惹きつける何かがあるのだろうか。
そんなことより、はやく姫さまに会って安否が知りたい。何かあったら俺のせいだ。
『あの師匠、もう一度あの魔術は使えないんですか?』
「フランがどこにおるのか明確に判明しておらぬからな、魔物が減り魔力液が不足している現状で無駄に魔術は使えぬ。」
そうなのか、どうにか魔力液を手に入れられればいいのだが――
『!…そうか』
俺は魔物だ。俺の体内にある魔力液を上手く使う事が出来れば何度かあの瞬間移動が出来るかも知れない。
『師匠!俺の魔力液を使うことは出来ますか?』
「――出来ぬことはないが、それはお主を傷付ける事になる。まだ幼体であろう。無茶はせぬ方がよい。」
そんなに消費量が多いのだろうか。それでも俺は姫さまが心配だ。あの人は俺の全てだから。
『死にはしないんですよね。大体の事なら我慢するつもりです』
俺は少し微笑みながら言った。師匠から見て笑っているように見えたのかはわからないけど。
「…肝が据わっておるのぅ、やはり“ヤツ”と似ておる。」
ヤツ、例の勇者と呼ばれた転生者のことだろうか。
「しかしやらぬぞ。お主を傷付け、液を抜いたとなればフランに何と言われることか。私は嫌われとうないぞ」
やっぱり姫さまの事が大好きらしい。
魔術にばかり頼ってはいられない。スライムを探すときだって魔術を使わなかった。そもそも魔術という概念がなかった。
今の俺にできることといえば、走って鳴くことだけだ。
『師匠、ちょっと走って探してきます。』
「そうか、迷子にならぬようにの」
『はい!』
俺は草原に向かい急いで走った。
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走り続けて大体5分ほど経っただろうか、意外と疲れを感じない。
俺は城下町を出て姫さまとお弁当を食べようとした場所についた。しかし姫さまは見当たらない。
『ここなら大きな声を出してもいいだろ、姫さま~!』
…なんの反応もない。姫さまの声も聞こえない。
『姫さま~~!!』
俺は叫んだ、何度も。
草原を走り回って、喉が痛くても全力で叫び続けた。
『姫さま……』
見つからない、かなり走り回ったがやはりいない。
森に入ってしまったのだろうか、それともすれ違いになって城に帰ったのだろうか。
カサッ
森の中から音がした、
『まさか――』
俺は急いで音の正体を確認しにいった。
『うおっ、なんだ毛玉野郎じゃねえか。』
音の正体はスライムだった。まだ森にいたらしい。
『どうだったんだ、魔女様に話は聞いてもらえたのか?』
今は、そんなことを話している場合じゃない。
『後で話す!それよりヒューマンの女性を見なかったか?昨日俺たちを追いかけてきた人。』
俺は森から出てきたこいつが何か知っていないか聞いた。
『あの物騒な女か、今日は見てねぇな』
森にいる可能性は少ないだろう。
森と草原にいないとなれば、やはり帰ったのだろうか。
『そうか、ありがとう。今忙しいからまた今度話そう』
『?…おう、じゃあな毛玉』
俺はスライムに礼を言うと城をめがけて、また走った。
これだけ走るとさすがに疲れてくる。
『いてっ!!』
走っている最中に硬い物にぶつかった、目の前にそんなものはなかったのに。
「レインよ、よく頑張ったのぅ」
師匠の声がした。顔を上げると長い耳の女性、やっぱり師匠がいた。
急に現れた硬い物の正体は師匠の杖だったらしい。
「ほう…。」
師匠が俺の顔をじっくりと見る。何かついてるのだろうか。それより姫さまだ。
『師匠…草原をずっと走ってましたが、姫さまが見つかりません…』
「フランは既に城に送り届けた。安心せい」
『えっ…』
俺は驚愕すると同時に心の底から安堵した。
姫さまが無事でよかった。あの時スライムを探しに行ったことを一生後悔するところだった。
ただ気になったことがある。
『あの師匠、姫さまをどこで見つけたんですか?』
「草原で見つけたのだ、何かを探しておったのぅ。」
『草原で…?俺の方が先に着いて探してたはずじゃ…』
「そうだのぅ、実はお主を騙しておった」
『騙して…?』
「うむ、まずはフランがどこにおるかは城に空間転移する前から生命探索という魔術でわかっておった」
――数秒思考停止した。師匠が何を言っているかが理解できなかった。
『な、なぜ城にいないのが分かっていたのに…?』
「だから言ったであろう?生半可な覚悟では通用せぬと。お主が強くなる理由、そのための覚悟を見るためだ。」
身体の力が抜けた。俺が姫さまを探し回っていたのは完全に無意味だったというわけだ。