第2話 出発
俺は人間に戻る方法を探そうと思った。
『まず、ここがどこなのかを調べよう。』
キリ…
『うっ、なんだこの感じは…』
お腹が痛い、というか縮むような感覚があった。
これはきっと、お腹がすいたんだ。そういえば生還してから何も食べていない。
なんというか、これは物凄くピンチな気がする。姫さまが帰って来たとしてもお腹が空いた事を伝える手段は、ない。
『次の死因は飢え死にか…』
俺はどうしようもなく、姫さまのベッドの上でただ時が過ぎるのを待った。
――しばらくして時計を見ると姫さまがこの部屋から出て30分ほど経過していた。
たった30分だというのに1人、いや1匹で寂しい気持ちと空腹で精神が削られるようだった。
ガチャ。
『姫さま!?』
扉の開く音がしただけで凄く嬉しかった。広い部屋に1匹でいることがそれだけ苦痛だったのだ。
「ごめんね、お待たせ。お腹空いたでしょ?」
物凄くいい匂いがする、お腹が強烈に締め付けられるようだ。姫さまが何か持ってきてくれたのだろうか。だとしたらタイミングが良過ぎる、まるで女神様だ。
「じゃーん、厨房から少し貰ってきちゃった。」
私服に着替えた姫さまが持ってきたのは白く濁ったスープだった。この独特な見た目といい匂いといい、これはきっとクリームシチューなのだろう。
俺はまだ許可を出されていないが、我慢できず夢中で皿に盛られたスープを舐めた。空腹は最高のスパイス、本当にその通りだと思った。
「ふふふ、かわいいなぁ。」
スープを食べる俺を見て何故か姫さまが嬉しそうにしている。
『満腹だ』
俺はスープを全て平らげると、急に眠気が来たので姫さまのベッドの上に乗り、目を閉じた。
「あらら、眠たくなっちゃったのね。おやすみ。」
姫さまの言葉を聞いて、俺は眠りについた。
************************
『――ん。』
目が醒めると、カーテンの隙間から差し込む光が眩しかった。どうやら朝になっているらしい。
昨日眠りについたのが17時頃だった。現在時針は6時を指している、かなり寝たと思う。
いつのまにか隣で姫さまが寝息をたてている。その様子を見ていると何故か幸せな気持ちになった。
カーテンを潜って窓を見ると、すっかり雨が止んでいる。
『今日は何をするか。』
結局昨日はここがどこなのかについて、何も手掛かりを得られなかった。
まずは事情聴取だろう。どうやって情報を手に入れるかだ。
『そうだ!』
俺は、ピンと来た。
1匹いるではないか。話の通じる相手が。
ニース草原に戻らなければ。しかし、どうやって戻るかだ。
窓から外を見る限りこの部屋は結構高い位置にあるらしい、窓からは出られない。
扉をなんとか開けて出られたとしても、今は6時だ。城内はそれなりに人がいるだろう。
こうなると、やはり姫さまを頼るしかない。どうにかニース草原に行きたいという事に気付いて貰える方法を考えなければ。
ジリリリリリリリリッ!
突如、大音量で目覚ましが鳴った。目覚まし時計に手が伸びる。姫さまが起きたようだ。
「んーっ、もう朝か。」
手を上にあげて伸びるとすっと立ち上がりカーテンを開けた。
「うん、いい天気。お散歩したいね。」
『お散歩!』
相変わらずのグッドタイミングだ、これは利用するしかないと思った。お散歩する姫さまについて行けば草原に戻れるかも知れない。
俺は姫さまの足に前足でしがみついた。精一杯のアピールだ。
「どうしたの?お腹空いた?」
それもそうなのだが、違う。
次に窓をカリカリと傷がつかない程度に引っ掻いた。通じてくれるだろうか。
「…もしかしてお外出たい?」
『そう!』
なんとか気付いて貰えたようだ。
「ふふ、後で一緒にお散歩行こうね。」
『やった!』
第一の難所をくぐり抜けた。なんとかニース草原に行けそうだ。はやくスライムに会って話を聞きたい。
「そうだ、朝ご飯そこで食べよっか。よし、じゃあ準備してくるね。」
朝ご飯を草原で食べるらしい、それは物凄く楽しみだ。
俺は1匹じゃどうしようもないので、窓の外を眺めながら姫さまの準備が整うのを待った。
――ガチャ。
「よーし、行こっか。」
しばらくすると姫さまが帰って来た、また鎧に着替えたようだ。
手には把手のついた大きな箱を持っている。軽そうではあるが大きさのせいで扱いにくいのか両手で持っている。
一体何の箱だろうか、お弁当が入っているにしては大きすぎる。
姫さまが箱を床に落ろすと、パカっと箱を開けた。
「レインくん、おいで。」
――なるほど、俺を持ち運ぶ為の箱らしい。他の人間に見つかってはいけないのでこれは仕方がない。
俺は箱の中に入った。だがお弁当もこの箱の中に入っていたので結構狭い。
草原に着くまでの時間をお弁当と共にすることとなった。