第12話 魔王
魔王に会いに魔界に行くことになった。
「うむ、百聞は一見に如かず。という言葉があるらしい。まずは会いにゆくぞ。」
『…はい』
魔王、どんな魔物なのだろうか。
なんとなく極悪非道で血も涙もない怪物のイメージだ。
「――《空間転移》」
『ここは……』
夢の中で見た風景と全く同じだった。
師匠の言動が大幅にずれている事から正夢になる事はないだろうが、あの夢は本当になんだったのか。
「では参ろうか。」
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「ここが魔王城。あの方の在わす場所である。」
『なんか、長いですね。』
初めて見る魔王の城だが、謎の既視感があった。
なんだろうか、スカイツリーみたいだ。
「うむ、では頂上で待っておるぞ。」
『え!?』
「冗談に決まっておる。お主がずっと暗い顔しておるのでな。」
自分では気付かなかった。これから魔王に会うのだから気を引き締めなければ。
「《空間転移》」
突如目の前に大きな扉が現れた、この先に魔王がいるのだろうか。
というかどうせなら最初の瞬間移動でここまで来て欲しかったものだ。
コンコン。
師匠が大きな扉を叩く。
すると扉は勝手に開いた。人の世界よりハイテクだ。
『あら、懐かしいお顔ですね、ロザリンド。』
扉の向こうにいる人が師匠の名前を呼んだ。綺麗な女性の姿をしているが直感で理解した、あの人は魔物だ。
だが魔王はどこにいるのだろうか。
「お久しぶりです。おか、いえ魔王様。」
『え!?』
俺は驚いて思わず声に出してしまった、あの魔物の女性が魔王らしい。
そしていつも高貴なおばあさんのような口調の師匠が珍しく丁寧な言葉を使っている。やはりすごい人なのだろう。
『ふふ、昔のままでいいのですよ。』
「…お母様。本日はお話があって参りました。」
これはまた驚きだ、師匠は今たしかに「お母様」と言った。
あまり似ていないが、魔王は師匠の母親なのだろうか。
そもそも魔物がエルフを産めるのだろうか。
『そちらの可愛らしいお友達が関係しているようですね。』
魔王は俺を見て言った。
「はい。まず始めに、この者の名はレインです。そして勇者と同じ転生者です。」
『――それは興味深いですね。レインさん、生前の記憶はあるのですか?』
俺に対して初めて質問された。やはり緊張する。
しかし社長面接並に重要な場面だ。
『い、一部かけておりまする。』
最悪だ。もう帰りたい。
「…ある程度は残っているみたいですが、名前などの一部の記憶は失っているようです。」
『師匠ありがとうございます…』
俺は自分にしか聞こえないレベルの小さな声で感謝した。
『やはり、かの勇者と同じ状態のようですね。』
「本題なのですが、私はこの者を鍛えようと思います。」
『つまり、設備を用意しろと言うことですね。』
「はい」
魔王に俺を鍛える場所やら道具やらを用意してもらうのだろうか。
さすが師匠だ、覚悟どうこう言ってただけあって気合の入れ方が違う。
『その目的、レインさんが強くなる理由はなんでしょうか。』
二度目の質問だ、今度は失敗しない。
『俺が強くなる理由は、姫さまを守るためです!』
今度こそちゃんと言えた、俺はもうすでに成長しているのかもしれない。
『…姫さまとはどなたを指しているのでしょう?』
『え、えっと…姫さまは…』
姫さまは姫さまだ。
頭が真っ白になって答えられなかった。やっぱり帰りたい。
「私から説明します。この者の言う姫さまとはヒューマンの国ニーズヘッグ王国の姫君、フランチィスカ・フォン・ファーレンシルトのことです。」
姫さまの本名はそんなに長かったのか。
なら姫さまの家族である俺は、レイン・フォン・ファーレンシルトだ。なかなかカッコいい。
『そういうことですか、貴女が肩入れする理由がわかりました。』
俺は何がなんだかわからないが、どうやら姫さまの名前を出すと大体効果があるらしい。
『いいでしょう、貴女の子は私の子です。地下を開きます。
それに、500年前の転生者の子孫を新たな転生者が守護するという物に個人的に興味がわきました。』
貴女の子、転生者の子孫。まさか――。
「ありがとうございます、お母様。」
『貴女の頼みごとです。地下の開閉といえど余程でない限り断る理由はありません。
レインさん、フランチェスカをお願いしますね。』
『はい!!』
魔王公認だ。頑張らなければ。
「では、失礼しました。」
――パタン。
「ふぅ、堅苦しい言葉は疲れるのぅ。
早速地下にゆこうか。《空間転移》」
またしても目の前に大きな扉が現れた。
鍵が掛かっている様子はなく魔術による封印もなさそうだ。
既になんらかの手法で扉を解除してくれたらしい。
「力仕事は得意ではないのだがの…ふんっ」
俺の身体の大きさでは無理と判断したのか、師匠が扉を開いてくれた。
ギィィィィィ。
『これが、地下――』